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Bad Guys  作者: ブッチ
Death Race XXXX
128/146

夜と男と少女

『さぁ、今最後の一組がスタート地点に帰って来たァ! 今回のレースのトリを飾ったのは、参加番号122番、紅猫(ガーネット)だァ!』


 最後の一チームがゴールに辿り着き、レースの終了を告げる実況者の声と、それに混じって聞こえる観客達のざわめきを、ヴィショップ達は観客席から少し離れた地点にある休憩用のテントで聞いていた。


『十チーム全てがレースを終えたところで、各チームの順位を発表だァ! まず一位は、ラスト一周においてなお、鬼気迫る攻防を繰り広げ観客席を湧かせてくれたチーム、スキュラだァ!』

「いよっしゃぁ!」


 自らのチームの名が呼ばれたのを耳にしたクァルクが、椅子から立ち上がって両手を思いっきり天井に突き上げる。しかし全身で喜びを表現する彼女に付き合ったのはレズノフだけで、机に突っ伏して眠りこけているミヒャエルを除いた、ヴィショップとヤハドの二人は浮かない表情を浮かべて二人のやり取りを眺めていた。

 ヴィショップ達と、金髪の男達の繰り広げた戦いが、実質ミライアス・ラグーヌ予選を締めくくる戦いだった。金髪の男達が魔法で姿を暗ました後、ヴィショップ達は下手に探して不意打ちを仕掛けられるのを避ける為、そのままゴールへと向かった。途中で他のチームを粗方抜き去っていたのに加え、他のチームがヴィショップ達の戦いの巻き添えを食うのを嫌った為に、他のチームに出くわすこともなく、本戦への最低限の参加者を確保しておきたいのか運営側の妨害もなかった為、ヴィショップ達は一切の障害に出くわすことなくスタート地点に戻ってくることが出来たのだ。

 その後は実況が喋っていた通り、モニターのような神導具を使って最後の攻防を見て沸き立った観客達に、拍手喝采で迎え入れられた。そして一位でのゴールに興奮が最高潮に達したクァルクを引き摺って休憩所のテントまでやってくると、レースで蓄積した疲労を少しでも回復させながら金髪の男のチームが戻ってくるのを待っていた。

 しかしいざ、金髪の男のチームが戻ってきてそれを見に行こうと休憩所を出ようとしたところで、ヴィショップ達は運営の面々に止められてしまった。何でも、レースの結果に不満を持ってゴールしたばかりで気の抜けている参加者を殺そうとする者が少なくない為、一度休憩所に入ったら運営側が許可がするまでは外に出られないとのことだった。当然今の状態で力尽くで押し通るなんて真似が出来る訳もないので、仕方なく休憩所の中で待っていたのだが、結局最後の一チームが到着するまで金髪の男達は休憩所に姿を現すことはなかった。

 ヴィショップ達の浮かない表情はそれに起因するもので、とっくに来ていてもおかしくない状況で来ていない以上、金髪の男達はそのまま姿を暗ましたと考えるのが正解だったからだ。


「気付かれたか?」

「さぁな、何ともいえねぇ。ただ気付いてるにしちゃ、いまいちやり方が温かった。あのコルトにしたって、もっと使うべきタイミングはあった筈だしな」


 先程の金髪の男との戦いを思い返しながら、ヴィショップはヤハドの投げかけた質問に答える。

 金髪の男が持っていた拳銃は、結局魔法を使って姿を眩ませる際の時間稼ぎとしてしか使われなかった。もし金髪の男がヴィショップ達の正体を知っているのならば、もっと早くに抜いて撃ち殺しにかかっているのが自然だった。だが、金髪の男はそうはしなかった。その油断とも遊びとも言える点が、ヴィショップには引っかかっていた。


「取り敢えず、そこの運営の連中と話してくる。お前等はそこで座ってろ」


 ヴィショップはヤハド達にそう告げて立ち上がると、金髪の男達の行方について、休憩所の入り口の辺りに立っている運営の人間に話を聞きに行った。

 その背中を見送って、ヤハドはテーブルの上に置かれた水と食べ物に手を付けようとする。するとそこに、先程までうるさいくらいに騒いでいた筈のクァルクが顔を近づけてきた。


「なぁ、何かさっきからしきりに最後に戦った連中を気にしてるけど、知り合いか何かなのか?」

「…さぁな、まだ確証は無い。ただ、俺達が探している人間に繋がる存在である可能性は非常に高いだろうな」

「探している人物?」

「あぁ。といっても、俺も実際に会った事がある訳ではないのだがな」


 ヤハドはそう前置きを入れてから、ヴィショップとレズノフの出会ったマジシャンの姿についてクァルクに語った。


「何だよ、呪術師のばーさまみたいな恰好してる奴だな。まー、ばーさまにしたって儀式の時しかそんな恰好しねーけど。それで、どーしてそんな変な奴を追ってるんだ?」

「…ちょっと色々聞きたいことがあってな。お前には関係の無い話だ」


 まず話したところで頭のおかしいマジシャン以上の変人扱いされるのがオチなので、ヤハドは適当にごまかして返事を返す。しかしそれが気に食わなかったのか、クァルクはヤハドの肩に腕を回し強引に顔を近づけて問い詰め始めた。


「何だよー、オレらは死線を潜り抜けた仲間だろー? 関係ねーなんてツレねーこというなよー」

「クソッ、引っ付くな暑苦しい…って、貴様酒飲んでるのか?」

「別にいいだろ? 勝利の美酒ってやつだよー」


 顔にかけられたクァルクの吐息に混じる臭いに気付いたヤハドは、彼女を無理矢理引き剥がして呆れた表情を向ける。クァルクはそんなヤハドの表情など一切意に介さずに、ふらふらとテーブルに置かれたグラスへと向かっていった。


「…ぶっ倒れたりしたら、誰が運んでいくと思ってるんだ」

「そりゃ、お前かレズノフのどっちかだろ」


 安易に予想できる未来にヤハドが頭を抱えているところに、運営の人間に話を聞きに行っていたヴィショップが戻ってくる。ヤハドは彼の方に顔を向け、金髪の男達の行方が知れたかどうかを訊ねた。


「駄目だった。やっぱりレースが終わった直後に姿を消したようだな。ただ、面白い話も聞けたぞ」

「面白い話だと? 何だ、それは?」


 ヤハドが訊ね、話に興味を持ったのかテーブルに向き合っていたレズノフもヴィショップの方に顔を向ける。


「何でも、ゴール直後の金髪の男の様子が並々ならない感じだったみたいだぜ。怒髪天を突くって感じで、滅茶苦茶苛立ってたみたいだ」

「アレじゃねぇかァ? 俺達に負けてムカついてたんだろ」

「さぁな。どっちにしろ、ここで俺達がここにこれ以上居る意味は無さそうだ。ミヒャエルの野郎を起こしとくのと、クァルクにこれ以上酒を飲ませないようにしとけ。こっから出れるようになり次第、とっとと宿に引っ込むぞ」


 ヴィショップの話を聞いたレズノフが、おどけた調子でそう告げる。それに対しヴィショップは首を竦めて見せると、机に突っ伏しているミヒャエルとグラスを振り回しているクァルクを顎で指した。


「いやぁ~、負けたねぇ!」


 するとそこに快活な声と共に、砂嵐に呑み込まれる直前でヴィショップ達が出会った赤毛に猫耳の女と、その仲間の二人の男が休憩所の中に入ってきた。


「何か、ドンケツだったのに機嫌良いですね姐さん」

「まぁ、終わっちまったもんにグダグダ言ってもしょうがないからねぇ。負けたなら負けたと、きっちり呑み込んじまうのが筋ってもんよ」

「成る程、勝負が決まるまではどれだけ喚き散らして癇癪起こしても問題無いと…」

「おっ、あんた等やるじゃないか! 最後に派手な喧嘩見せつけてくれた挙句、一位までとっちまうなんてねぇ!」


 仲間の一人の言葉を不自然なくらいに声を上げて遮ると、赤毛の女はヴィショップ達の方に近寄ってきた。

 ヴィショップはまだ頭がきちんと働いている、ヤハドとレズノフと視線を合わせる。それから身体を一歩分横に退かし、レズノフの為に道を譲ってやった。


「そういうあんた等はトリを飾っちまったなァ。アレかァ? 今日はお調子の悪い日だったかァ?」

「あんたみたいなゴツイ男が、“お調子”なんてお上品な言葉遣いするもんじゃないよ。そういうのは、あたいみたいな淑女に相応しいってもんさ」

「ヒャハハッ、いいねェ、冗談の素質は充分みてぇだなァ。増々あんた等と一杯やりたくなってきたぜェ」


 品の無い軽口の応酬を繰り広げながら、レズノフと赤毛の女は互いに笑みを浮かべて握手を交わす。


「あたいの名はノルチェ。後ろでクロスボウ持ってんのがバーロウで、砂船を操ってたのがクスルさ」


 ノルチェの紹介に合わせて、彼女の後ろの男二人が反応する。軽く手を上げる程度に止めたバーロウと呼ばれた方の男は細身で、快活なノルチェとは対照的に陰湿な雰囲気を纏っている。そしてもう一人、律儀に頭を下げたクスルという名の男は垢抜けていない感じの男で、良くも悪くもノルチェの部下といった印象を与える男だった。


「俺ァ、レズノフだ。ウラジーミル・レズノフ」

「アブラム・ヤハドだ」

「ヴィショップ・ラングレン。そこで寝てんのがミヒャエル・エーカー。そっちで酔っ払ってんのがクァルクだ」


 それに応えて、レズノフ達も順番に自己紹介をする。ノルチェは名前が告げられる度に視線を移していきながら、一々頷いていた。


「よしッ! これで互いの名前も分かったことだし、これから一つ酒場に繰り出そうじゃないか!」

「そこの怖ーいオジサンがここから出してくれたらな」


 手を叩いて飲みに誘ってきたノルチェに、ヴィショップが皮肉気な笑みを浮かべて返事をする。すると彼等の話を聞いていたのか、入り口の所に立っていた運営の人間がヴィショップの方に視線を向けた。


「直にここから出れますよ。これで参加者は全員レースを終えたことになりますから」

「生き残った、が抜けてるぜオジサン」


 運営の人間にそう告げると、ヴィショップは椅子から立ち上がった。


「まぁ、別に行くのは構わないがこの馬鹿共を宿に送ってく必要があるんでな。全員は無理だぜ」

「そいつは残念。でもまぁ、本戦までは少し時間があるし、また次の機会の楽しみにさせてもらおうかねぇ」


 本当に少し残念そうに告げたノルチェから視線を逸らすと、ヴィショップはヤハドに自分が二人を宿に運ぶように言おうとする。しかし振り向いた先にヤハドは居らず、慌ててヴィショップが眠りこけているミヒャエルの方に視線を向けると、予想通りヤハドはミヒャエルの傍らに立って、彼の座っている椅子を爪先で小突いていた。


「てめぇ…」

「悪いな、米国人。この疲れ切った状態で、北京原人のお守りまでするのは真っ平ご免なのでな。ならまだ、変態と子供に手を焼かされている方がマシだ」


 ヤハドはそう告げると、瞼を擦るミヒャエルを無理矢理引き起こし、続いて足取りの覚束ないクァルクに肩を貸して休憩所の出口に向かって歩き始める。そんな彼等の後姿を恨めしそうにヴィショップが眺めていると、不意に太い腕が彼の肩に回された。


「まぁ、そういうこったァ。諦めろよ、ジイサン」

「…実に健康的なことに、お前の言葉を聞いてると血管がブチ切れそうになるよ」


 そう言ってレズノフの顔面目掛けて拳を振るうも、レズノフはそれを容易く躱す。ヴィショップは小さく舌打ちを打って覚悟を決めると、レズノフとノルチェ達の方に向かって歩き始めた。






 眠気に負けて満足に歩けないミヒャエル、そして酒の勢いであちこちにふらふらと向かおうとするクァルクを連れて歩いた結果、ヤハドが『ホテル・スパノザ』に戻ってきたのはすっかり日が落ち切ってからのことだった。


「…ふぅ」


 ひとまずミヒャエルとクァルクをベッドの上に寝かせ、宿泊料の三分の一を払って冷水で身体にこびり付いた汗と砂を洗い落としたヤハドは、ベランダに立って夕陽を眺めながらヴィショップから貰っていた手巻きの煙草を吹かしていた。

 彼の口から吐き出された紫煙が、夜の闇の中に刹那の間灰色の模様を描く。ヤハドはその一瞬の光景の最期をを見届けると、煙草とは逆の手に持っている布に視線を向けた。

 汗と泥、そしてすっかり乾き切った紅褐色の汚れの付いたその布は、ヤハドがこの世界に来てから、そしてこの世界に来る前からいつも巻いているターバンだった。


「やっと……やっと一歩前進か…」


 ミライアス・ラグーヌの予選の最後に戦った金髪の男の姿を脳裏に思い浮かべ、ヤハドは噛みしめるように呟く。

 ヴィショップの出会ったマジシャンとの会話を信用するのなら、あの金髪の男はマジシャンと繋がっている可能性が高い。それと出会ったということは、自分達に課せられた使命が終わりに一歩近づいたということである。そしてそれはとどのつまり、ヤハドの望みの成就にも近づいたことにならない。


「あの金髪の男を生け捕りにして、仮面の男とやらのことを吐かせる。そしてその後、仮面の男を殺す。それだけで俺は……元の世界に帰れる」


 それはまるで自分に言い聞かせるような口調だった。そして実際、ヤハドは自分が口に出したことが簡単なことだとは微塵も思ってなかった。

 殺すべき存在の尻尾を捕まえるということが、どれだけ難しいことなのか。それをヤハドは痛い程に知っているのだから。


「……そしてまた、人探しか」


 元の世界に戻ったとして、自分のとるべき道が今と何ら変わらないことに思い至り、ヤハドは自虐的に呟く。

 他の面々の望みはヤハドには予想も付かない。もしかしたら元の世界に戻ろうとはせず、この世界で生きることを選ぶかもしれない。しかしそれでも、あの三人が今と同じように殺したい人間の背を追いかけることに人生を費やすとは思えなかった。

 いや、そもそも正確には今と同じなどではなかった。何故ならヤハドが追い求めている存在は、生きている人間などではないのだから。


「不毛、なのだろうな…」


 『リーザ・トランシバ』でヴィショップとエリザの交わした会話を想起して、ヤハドは呟く。あの時のヴィショップの言葉はヤハドにも理解出来たし、同時にエリザの感情もヤハドは理解していた。

 ある意味では、ヤハドのやろうとしていることはエリザのやったことよりも遥かに性質が悪かった。何故なら、尻尾を掴んだ所でヤハドには相手をどうすることも出来ないのだから。だが、それでもヤハドはそれを止めることは出来ないと直感していた。永遠に脳味噌に焼き付いて忘れることのないであろう血と炎の記憶、そして全てを悟った瞬間から今の今まで自分の身体を突き動かしてきている激情が、それを許すことがないと分かっていたからだ。


「一番愚かなのは、俺なのかもしれないな」


 振り返り、ベッドで眠りこけているクァルクの顔を見てヤハドは呟く。ひたすらに未来に向けて突き進もうとする彼女の姿は、ヤハドとは真逆で彼にとっては眩し過ぎた。その眩しすぎる光は、ヤハドの帯びる影をより一層濃い存在にして彼に突き付けていた。

 そんなことを考えながらクァルクを眺めていると、不意にヤハドの頭上で何かが羽ばたくような音がした。一瞬、鳥か何かだと考えたヤハドだったが、音の重さからして明らかに鳥よりも大きな存在であることに気付き、視線を真上へと上げた。その瞬間、顔を上げたヤハドと入れ違いになるようにして真上から何かが落ちてきて、ベランダの手すりに降り立った。


「何の用だ? また金でも突き返しに来たのか?」


 夜の闇に溶け込む黒い翼を外套のように身体に纏い、深紅の瞳で自信を見下ろしている少女の顔を見上げて、ヤハドはそう問いかけた。


「そうじゃない。少し、あなたと話をしようと思ってね」


 ヤハドを冷淡な眼差しで見下ろしながら、カーミラは返事を返す。彼女の返事を聞いたヤハドは微笑を浮かべると、手に持っていた煙草を指で弾いて階下に落とした。


「お前が俺に話、か。今日起こった出来事の中では、二番目に予想外の出来事だな。…場所を移すか?」


 顎で地上を指してヤハドは問いかける。それに対してカーミラは首を横に振って返事した。


「そうか。飲み物は?」

「…いらないわ。子供扱いは止めなさい」


 その端正な顔に僅かにしわを作って、カーミラはヤハドにそう告げた。そんな彼女の言い振りにヤハドは再び微笑を浮かべて肩を竦める。カーミラはそれを気に入らなさそうに見ていたが、一々口を出すだけ時間の無駄と気付いて話を本題へと移し始めた。


「あなた、ミライアス・ラグーヌの参加者だったのね」

「お前も、やはりそういうのに興味が?」


 カーミラの言葉を聞いたヤハドの表情が、意外そうなものに変わる。カーミラは静かに首を左右に振って、ヤハドの言葉を否定した。


「毎年、予選が終わるとその順位があちこちに張り出されたり、街の広場とかで予選の映像が魔法で映されたりする。あなたのチーム、かなり目立ってたわ」

「まぁ、心当たりが無いわけでもない。それで? 労いの言葉でもかけにきてくれたのか?」


 ヤハドの軽口をカーミラは「そんなんじゃない」といって一蹴すると、手すりからベランダへと降りた。そうしてヤハドを見下ろすのではなく、若干見上げる形で彼と向き合った。


「あなた、言ったわよね。この街に居る間に何か頼みごとをするから、あの金を受け取れって。なのにあんなレースに出てるなんて、どういうつもり?」


 そう告げたカーミラの表情には分かりにくいものの、確かに怒りの感情が籠められていた。

 出会い頭に殺しにかかってきた人間から出てくるとは到底思えない、純真すぎる言葉と感情にヤハドは思わず返事をすることも忘れて、カーミラの顔をじっと見つめてしまう。するとカーミラは怒りの表情を不快そうなものへと変えて、ヤハドを睨みつけながら一歩後ずさった。


「…安心しろ。お前みたいな子供を手籠めにする程落ちぶれちゃいない」

「子供扱いしないでと言った筈だけど?」

「悪いが、そいつは無理な相談だ。俺の年頃からすれば、お前なんてまだまだガキだからな」


 見当違いのカーミラの懸念を笑い飛ばしながら、ヤハドは力を抜いて手すりに身体を預ける。そんなヤハドの姿をカーミラは睨みつけながら、表情を僅かに軟化させた。


「まぁ、確かにそれに関しては俺の方にも落ち度はあったかもしれんな。取り敢えず謝らせてもらおうか」

「殊勝な心がけね。でも、一言二言の言葉だけで何でも解決させられる程、この世界は甘くはないわ」

「じゃあ、どうしろっていうんだ? 俺が渡した金を素直に受け取れとでも?」


 予想もしてなかったカーミラのこの件に関しての執着に、ヤハドは思わず表情を訝しげに歪める。しかし一方のカーミラは、今までヤハドに向けたことなどなかった笑みをその美しい顔に浮かべて、ヤハドに言葉を投げかけた。


「そうね。じゃあ、一つ手合せでもしてもらおうかしら」

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