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Bad Guys  作者: ブッチ
Death Race XXXX
116/146

欲しい物は…

「なぁ、俺達は一体全体、どこに向かっているんだ?」


 痺れを切らしたヴィショップが、悠々と前を歩くクァルクにその質問をぶつけたのは、満員電車もかくやといわんばかりの人口密度の表通りを抜け、一転して殆ど人の姿が見えない裏通りに入ってから、三十分程経ってからのことだった。


「それは、ついてからの…」

「それはもういい。いいから、どこに行く気なのかだけ、とっとと教えろ」


 返事を返そうとしたクァルクを遮って、ヴィショップはまともな回答をよこすように求める。既に今彼女が返そうとした返事の内容は三度は聞かされたものであり、そんなものはヴィショップは求めていなかった。


「何だよ、こういうのは何も聞かずに行く方が面白いだろ? つまんねー奴だな」

「路地に入って三十分の間に四度も強盗(ホールド・アップ)に絡まれれば、誰だって物事を楽しもうっていう意欲は失せるもんだ。特に、そんな場所に招き入れた張本人が、絡まれる度に後ろに隠れるザマなんてもんを見せられた日にはな」


 わざとらしい声を上げて、ヴィショップは皮肉を零す。

 ヴィショップですら呆れる程に、ヴィショップとレズノフ、そしてクァルクの三人は、彼女の案内で裏路地に足を踏み入れてから、既に四回は強盗目的の輩に絡まれていた。その内三回までは、魔弓を突き付けることで穏便に済ませていた。しかし蒸し暑さも手伝って四回目でとうとう苛立ちを我慢できなくなってヴィショップは、レズノフと共に四組目を叩きのめしてきたばかりだった。その為か、ヴィショップの呼吸は微かに荒く、拳には僅かに血痕が付着していた。


「分かったよ、しょうがねーから話して…」

「おい、そこのニイちゃん達。ちょっと止まりな」


 そして、ようやく不服そうな顔を浮かべるクァルクから行き先を聞き出せると思った矢先、路地の右手奥からお馴染みの文句が聞こえてきた。


「そうだ、イイ子だな。金を出し…」


 声が聞こえてきた瞬間には、ヴィショップは無言で足を止めていた。そして一瞬で魔弓をホルスターから抜き出すと、ナイフを手に満足気に近づいてきた二人に向けて、引き金を弾く。


「ッ!? ギャアアアアア!」

「…おみごと」


 膝を撃ち抜かれた男達の絶叫が木霊する。

 彼等を一瞥することすらなく、魔弓を引き抜くや否や的確に二人の膝を撃ち抜いたヴィショップに向けて、クァルクが手を叩く。ヴィショップはそれを無視して魔弓をホルスターに戻し、クァルクにとっとと先に進むように促した。

 クァルクは最後にひざを抑えて呻き声を上げる二人組を、ちらりと見てから歩を進め始めた。彼女が再び歩き出したのを確認して、ヴィショップも後に続き始める。すると、不意に後ろのレズノフから肩を叩かれた。


「唯一の救いは、強姦魔がいないことだなァ?」

「俺にとっての救いじゃなく、あいつにとってのだな。これであいつまで居たら、間違いなく俺はあいつを撃ち殺してる」


 面白そうに押し殺した笑い声を漏らしながら、レズノフが問いかける。ヴィショップは、あながち冗談にも思えない言葉を返すと、クァルクの後を追い始めた。

 ヤハドと一緒に逸れた筈のミヒャエルだったが、拠点に定めた『ホテル・スパノザ』を出る少し前に連絡があった。どうやら一人でヴィショップ達の所に向かっているらしく、ヴィショップは未だ逸れたままのヤハドのこともあって、彼に『ホテル・スパノザ』の場所を教えると、そこで待機するように言っておいた。本人がそれを強く望んでいたのに加えて、まだ傷が癒え切っていないミヒャエルは人混みの中では荷物になるので置いてきたのだが、それはどうやら正解のようだった。蒸し暑さに波状攻撃的の襲い来る馬鹿共、それにミヒャエルの文句を吐く時は格別饒舌に働く口が加わるようなことになれば、ヴィショップの言葉通り、『フレハライヤ』の報復戦が開戦されかねなかった。


「つー訳だァ、嬢ちゃん。老人(ロートル)にこの暑さに黙って耐えてろっていうのも酷な話だしィ、そろそろ何を目指してんのか話してくれよ」

「だから言ってるだろー、とっておきの砂船とオルートがある場所に向かってる、って」


 レズノフの質問に対して返ってきたのは、何度も同じことを言わせるなとでも言いたげな口調の、しかも役に立たない内容のクァルクの返事だった。


「その砂船と魔獣が手に入る場所は、どこだって聞いてんだよ」

「この街の外れに住んでる、ダリって奴の家だ」


 溜息の後に放った二回目の質問によって、ようやく欲しかった返事が返ってくる。

 ヴィショップはもう一度溜息を吐くと、レズノフに一瞬視線を向けてから、腰から吊るしている水筒に手を伸ばした。それで彼の意思を悟ったレズノフは、役目を引きついてクァルクに質問する。


「その、ダリとかいう奴は、一体何者なんだァ?」

「オレの兄貴の友人だ。そいつが今は、兄貴の砂船とオルートを管理してる。だから、そいつに頼んでそれを使わせてもらうんだ」

「ふゥーん、嬢ちゃん、兄貴とかいたのかァ。にしても、そんなモン持ってるってことは、嬢ちゃんの兄貴もレースに参加してたのかァ?」

「そうだ。なんせ、私の兄貴はあの双頭狗(オルトロス)のルァイズだからな」

「何かよく分からねぇがァ、有名人なのか、嬢ちゃんの兄貴は?」


 レズノフの言葉を聞いた瞬間、クァルクの目が信じられないものでも見ているかのように大きく見開かれる。


「お前、ミライアス・ラグーヌに出ようとしてるくせに知らないのか!? 双頭狗も、ルァイズも、ダリ・カテーラも!?」

「そもそも、そのミラナントカっていうレース自体、知ったのはつい最近だしなァ」


 その言葉が止めとなって、クァルクは呆気に取られた様に口をあんぐりと開ける。傍から見れば間抜けにしか見えないその状態からクァルクが立ち直ったのは、彼女の顔を指してゲラゲラとレズノフが笑い始めてから数秒が過ぎてからのことだった。


「はぁ…何だよ、それ。あんた等、真性の馬鹿なんじゃねーのか?」

「よく言われるなァ、ヒャハハッ」

「まぁ、否定はしねぇよ」


 明らかに重く受け止めていない二人の返事に、クァルクは更にもう一度溜息を吐いた。そして自身の兄に関して説明しようとしたが、あるものを見て彼女は吐き出しかけた言葉を呑み込んだ。


「ったく、しょうがなーな。兄貴の友人の家も見えてきたことだし、兄貴のことに関しては家の中で話してやるよ」


 クァルクはそう言うと、前方、裏路地を抜け出た先にある建物を指差した。


「あそこにお前の兄貴の友人が?」


 裏路地から出てきた先には、表通りで見てきたような建物は無かった。抜け出た先にあるのは荒涼とした砂漠の光景だけで、余りの急激な変わり振りに思わず背後を振り返って、自分達が出てきた路地がちゃんとあるか確認する程だった。

 そしてクァルクの言う目的地は、その砂漠の中に建っていった。クァルクが指差した先にあったのは、恐らくは土を用いて建てられた殺風景なドーム型の灰色の家と、家そのものよりも大きな木製の畜舎らしき建物。それらが照りつける強烈な日差しと、皮膚を割く砂塵に耐えながらぽつんと建っていた。


「そうだ。行くぞ」


 首を縦に振ると、クァルクは家に近づいていく。ヴィショップは訝しそうな表情を浮かべながらも彼女の後を追い、レズノフもそれに続いた。


「おーい、ダリ、居るかー?」


 一足先に扉の前にやってきたクァルクが、リング状の取っ手で扉をノックしながら恐らくは住居人のものと思しき名前を叫ぶ。すると家の中から何かを落としたり、蹴散らしたりするような音が上がり始め、それは段々と扉の方に近づいてきた。


「まさか……クァルクちゃんかい?」


 そして驚き混じりの声と共に音を立てて扉が開く。

 扉を開いて現れたのは、二十台半ばぐらいの年齢の男だった。平均的な身長に、筋肉のついたがっちりとした身体付きで、茶髪を短く刈り込んみ眼鏡をかけている。見たところ動物の耳らしきものは生えておらず、瞳孔もヴィショップ達のソレと変わらないことから、どうやら人間のようだった。眼鏡の奥には碧眼が眼窩に鎮座しており、声にも表れていた驚きと、それとは別に純粋な喜びを半々に宿した視線をクァルクへと向けていた。


「ちゃん付けは止めろよ。オレはもう、立派に一人前だぜ?」

「何言ってるんだよ。確かに最後に会った時よりは成長してるけど、それでも僕から見ればまだまだお嬢ちゃんさ。それで…」


 クァルクの反論を物ともせずに、男は優しげな笑みを浮かべて彼女の頭をくしゃくしゃと撫でる。しかしクァルクの頭を撫でている時に浮かべていた穏やかな笑みは、視線をその背後に立っているヴィショップ達に向けた時には跡形も無く消え去っていた。

 そんな男の視線をレズノフは真っ向から受け止めた上で、まるで彼の警戒心を煽るかのようにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。案の定、男の眉間にはしわが浮かび上がり、目付きはただ視線を向けるというよりも、睨みつけるといった方がよい程に鋭さを帯びる。

 その一方でヴィショップの視線は、自分達二人を睨みつけている男の腰の辺りへと向けられていた。その視線の先には、動物の皮でこしらえたホルスターと、長い間砂と風によって傷つけられてきたと思しき木製のグリップがあった。


(こいつ…インコンプリーターか)


 腰にその得物を吊るしているということは、男がヴィショップと同じ体質の人間であることを物語っていた。

 男がインコンプリーターであることに気付いたヴィショップは、視線を上げて男の顔を見る。丁度男の方も視線をレズノフからヴィショップへと移しており、二人の視線は交錯した。


「こいつ等は誰なんだい?」


 一瞬だけ視線を下に落とし、ヴィショップが腰に吊るしている二挺の魔弓を確認してから、男はクァルクに問いかける。問われたクァルクは、思い出した様にヴィショップとレズノフの方に向くと、彼等を男に紹介した。


「あぁ、ヴィショップとレズノフだ」

「…どんな関係なんだい?」


 一瞬溜息を吐きかけてから、男はクァルクに訊き直した。その態度からして、どうやら男とクァルクの間には、彼女の要領の悪さに男が慣れる程度の関係があるらしい。

 その二人のやり取りを見て、レズノフが微かに笑い声を漏らす。すると男が視線をクァルクから外し、更に鋭さの増した視線をレズノフへと向ける。男は、レズノフがおどけた態度で肩を竦めて視線を逸らしてからも、レズノフを睨みつけていたが、クァルクの声に反応して視線を彼女へと戻した。一対の碧眼がクァルクの方に向いた時には、既にレズノフに向けていた時に宿っていたような鋭さは失せていた。


「あいつ等は私のチームだ」

「チームって……まさか、ミライアス・ラグーヌに参加する気か!?」


 クァルクの返事を聞いた瞬間、男の顔色が一変する。しかしクァルクは、目の前の男の状態の変化に気付いていないのではないか、と疑いたくなる程に眩しい笑みを浮かべて頷いた。

 それを見た男が溜息を吐きながら、天を仰ぐ。もっとも、今までの親しげな態度からを見れば、そんな反応を取りたくなる気持ちも分からないものではなかった。何しろ、妹に準ずるような存在が何の緊張感も無い笑みを浮かべて、参加者の八割が死ぬというレースに出場すると言っているのだ。しかもその背後に立っているヴィショップ達のせいで、少なくとも参加の意思が冗談の類ではないことが分かっている分、さらに性質は悪かった。


「とりあえず、家の中に入ってくれ。後ろの君達も」


 やがて男は顔を戻すと、後ろに下がって家の中に入り、クァルク達に家に入るように促す。三人はそれに素直に従って家に足を踏み入れた。

 男のの家の内部は、特に壁で部屋が仕切られているといったことのない構造になっていた。一つの大きな部屋に、テーブルやベッドなどとった生活に必要なものが配置されており、いかにも男の一人暮らしらしく洗われていない食器だの空瓶だのが、部屋のあちこちに置かれていた。


「汚いのは我慢してくれよ。今、水でも出そう」

「いやァ、お構いなくゥ」


 男に促されるままに、三人は椅子に座ってテーブルに付く。その際にレズノフがからかう様な口調で返事を返したが、男はそれを無視して四つのコップと水の入った瓶を取り出してきた。


「取り敢えず、自己紹介はしておこう。僕はダリ・カテーラだ。…彼女の兄については?」

「ミライアス・ラグーヌに出てたってことは聞いてる」

「僕は、その彼女の兄とチームを組んでミライアス・ラグーヌに出ていた。相棒ってやつだよ」


 自己紹介をしつつコップに水を注ぎ終えると、ダリは椅子に腰を降ろした。そして真剣な眼差しでクァルクを見据え、数秒の思考の果てに彼女に最初の質問をぶつけた。


「…まず、これだけははっきりさせておこう。目的はルァイズの復讐かい?」


 ダリの発した単語に、ヴィショップは心の一部が反応したのを感じた。

 一瞬だけ、頭の中にあの時の光景がフラッシュバックする。他人が自らが犯した過ちと同じ過ちを犯そうとしているのを止めることが出来ず、そしてその人物が迎えることとなった代償の清算の時の光景が。

 しかし、幸運なことに過去の記憶がヴィショップの心を妖しく揺さぶったのは、一瞬のことだった。次の瞬間には、蓋を押し退けて這い出てきたその記憶を再び蓋の下へと押し込め、ふらふらと離れつつあった正気を自らの許に抱き寄せることにヴィショップは成功していた。


「別にそんなんじゃねーよ。兄貴はミライアス・ラグーヌの舞台で、正々堂々と戦った。その結果、兄貴はあいつに負けて死んだんだ。兄貴よりあいつの方が強かった、ってだけの話だし、兄貴もそれは覚悟の上だった筈だ。復讐なんてお門違いだろ」


 ヴィショップが過去の記憶から逃れたのとほぼ同じタイミングで、クァルクがダリの質問に対する答えを返す。彼女の返事でヴィショップは、自分が三度自らの大罪と向き合うことになる瞬間が、今ではないことを悟って心中で溜息を吐く。そして、無意識の内に湧き上がったその安堵の感情にヴィショップが気付くことがないまま、話は先に進んでいく。


「なら、何故ミライアス・ラグーヌに?」

「んー、まぁ、昔からの夢だったし、それに…」

「それに?」


 僅かに顔を近づけて、ダリはもう一度聞き返した。クァルクは気恥ずかしそうに顔を微かに朱に染めながら、彼の問いかけに答える。


「結局、兄貴は夢を叶えられずに死んだ訳だからな。兄貴には色々と世話になったし、妹として叶えられなかった夢を、私は叶えてやりたい」


 最後に慌てて、一族の為に金は必要だし、と付け加えてクァルクは話しを締めくくる。ダリはそんな彼女の顔を、じっと見つめていた。恐らくは、どう答えたものか決めかねているのだろう。

 クァルクは、はっきり言って馬鹿である。物事を知っているとかいないといった以前に、感情ではなく理性で行動するということが中々出来ない。故に、彼女の行動には裏表など殆どなく、そして覚悟の程も一目しただけで、どれだけのものを背負っているのか知ることが出来る。

 そんな彼女の個性が、今ダリの口を重くしていた。何故なら、気恥ずかしげにしながらも、じっとダリの碧眼を見つめ返すクァルクの琥珀色の瞳には、確かな覚悟が宿っていたからだ。例え、それで命を落とすことになったとしても、兄が命を賭けた舞台に立つという覚悟が。


(…駄目だ、止められない。例え僕が彼女の要求を拒んだとしても、彼女は僕の協力無しでもミライアス・ラグーヌに参加しようとするだろう)


 何としてでもミライアス・ラグーヌへの参加を止めさせる。先程抱いた筈のその覚悟に反して、ダリの胸中には諦めが広がり始めていた。

 クァルクがこのような眼差しを向けてきたら最後、言葉で語り尽くそうが拳を打ち付けようが、絶対に意思を曲げないことをダリは知っていた。


(アイツも、そうだったからな…)


 かつて隣に立って戦っていた男の姿が、ダリの脳裏に蘇る。ミライアス・ラグーヌの頂点、それに挑戦すると言い出した時も、彼はそのような眼差しをダリへと向けていた。言葉でも拳でも、そのような眼差しを向けたものが一度決めた意思を曲げることが出来ないのだ、ということを知ったのは、まさにその時だった。


「ところでよォ、さっきから言ってるアイツっていうのは、一体誰なんだァ?」


 二度と戻って来はしない思い出に耽りつつあったダリの意識を引き戻したのは、或いは無粋とも言える野太いレズノフの声だった。


「フランケンだよ。フランケン・シュボルツ。兄貴は、そいつとミライアス・ラグーヌで戦って死んだんだ」

「…で、そのフランケンシュタインとかいう奴は、一体何者なんだァ?」

「君は、フランケンを知らないのか!?」


 レズノフの返した返事に思わず声を上げたのは、彼の質問に答えたクァルクではなく、ダリの方だった。ダリは立ち上がって、信じられないものを見るような目つきでレズノフを見ると、続いてヴィショップへと視線を向けた。そしてヴィショップもレズノフと同じく、フランケンなる人物のことを知らないことに気付くと、両手で顔を覆って椅子に腰を降ろした。


「フランケン・シュボルツは、ミライアス・ラグーヌの現チャンピオンだ。年に一度行われるミライアス・ラグーヌに十数年に渡って出場し、その全てを完走している。そして、その大半をトップでね」

「それはまた、化け物染みた奴だな」


 ダリが語ったフランケン・シュボルツなる人物の業績に、ヴィショップは思わず舌を巻く。

 その実態が未だ分からないとはいえ、ミライアス・ラグーヌは出場者の八割が死亡するレース。まず生き残ることすら難しいそのレースに、十数回に渡って出場しその全てを完走したばかりか、殆どのレースでトップを飾ってきたという。それはまさしく、偉業以外に形容する言葉の無いような行いと言えた。


「……そこの二人、小型の砂船を用いたレース行為、もしくは高速で動く砂船上での戦闘の経験は?」


 不意にダリが、話の本筋から外れた質問をヴィショップとレズノフの二人に投げかけてくる。問われた二人は互いに顔を見合わせると、ダリの質問に答えた。


「無ぇなァ」

「俺は、最近に一回だけある」


 ヴィショップはその経験が、クァルクに巻き込まれての撃ち合いであることは、話がややこしくなりそうなので伏せておくことにした。というのも、二人が答えた時点でダリは、今までで一番深い溜息と共に、苛立ちの混じった手付きで頭を掻き毟っていたからだ。

 まず間違いなく、ややこしくて面倒な出来事がヴィショップ達の身に振りかかろうとしている。それをわざわざ悪化させるような趣味は、レズノフはともかくヴィショップにはなかった。


「……クァルク()が何を望んでるのかは、大体予想が付く。君が僕が何をしようと、退くことがないことも。だから、僕は君の要望に答えよう」

「…ッ! ありがとう、ダリ…」

「ただし、条件が有る」


 頭を掻き毟るの止めたダリは立ち上がると、喜色に満ちたクァルクの声を冷淡な声で遮った。そして自らの指先を、レズノフとヴィショップに突き付ける。


「少なくとも、ミライアス・ラグーヌを死なずに完走出来る実力。それが有るかどうかを、今から測らせてもらう。もしそれだけの実力があれば、望む物を差し出そう。ただし、それがなかった場合には」


 ダリは二人に突き付けていた指先を下げると、その右手をホルスターへと伸ばした。そしてホルスターから鈍い銀色の魔弓を引き抜き、あえて音を立ててテーブルの上に置く。


「ミライアス・ラグーヌには参加させない。どんな手段を使ってでもだ」


 ダリのその宣言に対する三者の反応は、見事にバラバラだった。

 クァルクは驚きながらも、すぐに覚悟を決めてダリの顔を見据え、レズノフは突然降って湧いた楽しみに顔を輝かせていた。そしてヴィショップは、隣で口元を歪めている仲間が、どこかの馬鹿よろしく暴走してダリを砂漠の肥やしに変えないことを祈っていた。

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