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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
最終章 遥か蒼のD世界
96/113

第3部 プロローグ 終わりの始まりの季節

予告通り11月の投稿です(何日とは言ってない)




「D4D・ジェネレイト!!」


「うぼあぁ!!」


 青く輝く拳が、黒人男性の腹部を打ち抜いた。

 殴られた男性は、その身体を無数の蒼い光の粒へと変じて、空高く舞い上がり見えなくなった。


「状況終了。これで5人目と……」


 男性を殴った蒼く輝く拳の持ち主は、九重康太郎という少年だ。

 今の彼は、東大陸の帝国将校の深い紅色の軍服を、襟元を開けてラフに着こなし、ミラーグラスをかけていた。

 康太郎は首を鳴らし、浅く息を吐いた。


「お疲れ様っす、隊長」 


 そんな康太郎に労いの言葉をかけたのは、大柄な身体にざんばら頭の男、ベルダンだ。

 彼は、帝国特殊諜報部隊セプテントリオンの幹部の一人で、康太郎の部下だった。


「おう、ベルダンもお疲れ。結構魔力使ったんじゃない?」


「ああ、いや、大したことないっす。それより隊長の方こそ、どうなんすか」


 康太郎は、すっかり従順になった強面のベルダンに苦笑しながらも応える。


「あの程度、セプテントリオンの先代隊長に比べればぬるいぬるい」


「まあそりゃ、そうかもしんねえっすけどね」


 康太郎の前任者のことを引き合いに出され、ベルダンは肩をすくめた。 


「さて事後処理はリンクスに任せて、俺達は帰投するぞ」

 

「了解っす」


 


 九重康太郎、17歳。

 地球の日本では一介の高校生に過ぎない少年も、D世界と呼称している異世界においては、東大陸の帝国特殊諜報部隊の隊長である。

 すなわち軍属で、多くの部下を纏める立場にいた。

 彼が己と部隊に課した任務は、D世界から見ての異世界――地球からの漂流者または干渉者、Dファクターを見つけ出し地球へ送還すること。

 康太郎は、隊長に就任してからの1ヶ月で、先ほどの黒人男性も含めた5人のDファクターを地球に送還していた。

 その主目的を康太郎によって大きく変じたセプテントリオンだったが、康太郎の圧倒的な武威の前に彼らは跪き忠誠を誓っている。

 主目的を変じたとしてとしても、その元々存在理由である、悪に対する悪、カウンターとしての機能がなくなったわけではない。

 それどころか先代よりも積極的に指導する康太郎によって規律が強化され、帝国にも制御の利かない奇人変人の集団が、ある種のまとまりを見せていた。

 それだけに、彼らが帝国に反旗を翻したとしたらたまったものではないが、そこは康太郎が帝国皇帝アウグストスに直談判し、福利厚生を始めとした好待遇を保証させている限りは問題ない。無論、それなりの成果をを上げた上でという注釈はつくが。


 時は、地球の時間で12月半ば。寒さ厳しくなる師走の月。

 春先に見た夢から始まった二つの世界を股に掛ける康太郎の青春は、いよいよ康太郎自身の手によって終わるときが近づいていた。




***




「ゲームやライトノベルでヒロインの幼馴染が主人公に選ばれないって展開があるじゃない? あれって、ある意味で真理だよ。幼い頃から一緒にいて、高校生になってまでそれなりに親しい関係を保っているにもかかわらず、それでも恋人として成立してないってことはさ、それはもう何ら芽がないってことなんだよ。高校生にもなって一緒にいるぐらいなら、とうの昔にくっついていてもおかしくない。幼馴染は横から泥棒猫に掻っ攫われたように思うかもしれないけど、いい歳していまだにイニシアチブが取れていなかった時点でもうそれは、そうしようも無いことなんだよね」


「いや、俺はそんなこと無いと思うけど……関係を進めるのが怖くて一歩踏み出せないなんていじらしいじゃないか」


「わかってない、コウはわかってないよ! 幼馴染はそんなにいいものじゃないって!」


「いやあ、そんなに必死になって否定されるとまるでツンデレみたいだぜ、神木君」


 顔を真っ赤にして自論を述べていた神木は、康太郎の一言に、スッと青ざめた顔をした。


「コウ、幾ら君でも、言っていいことと悪いことがある。現実のツンデレなんで、ただのコミュニケーション障害だよ。それを僕に当てはめるのは心外だ」


「それも穿ちすぎている気がするが……まあ、とにかく、神木君と佐伯は何も無いと」


「そう! なのに君という奴は! 大体、彼女と僕の関係をどこで――」


「いや……結構バレバレっつーか」


 神木は、この世の終わりに絶望するような顔をした。

 

「コウ、改めて言うが。僕とアイツに桃色のもの字もないし、互いに反目しあっているほどだ。家の繋がりがあるから、顔を合わせることもあるけど、それだけだ。君が思うようなことは一切ないと宣言しておくよ」


 康太郎と神木は、校舎裏の人気の無い渡り廊下にいた。寒空ということもあって、周りに人はいない。

 康太郎は、神木に水鳥との関係について問いただしていたのだ。

 神木と水鳥は幼馴染。そんな小説よりも奇なりな事実を知った康太郎は、神木に聞かずにはいられなかった。

 やっかみが大半であったが。

 

「なんだってこんなことを聞いてきたんだい、コウ」


「ん、もしも神木くんに佐伯に対して気があったりしたら、今まで俺は結構酷い仕打ちを神木君にしていたんじゃないかと」


 康太郎は、佐伯水鳥に好意を寄せられていた。

 それは深緑の季節から続いてたことで、そして何度も康太郎は、水鳥の告白を袖にしていた。

 だが一方でその行動は、水鳥ならず他の誰かも傷つけているかもしれない、という可能性至ったのがつい先日のこと。

 故に康太郎は、神木に改めて水鳥との関係を聞いたのだ。

  

「いやあ……それは勘繰りが過ぎるよ。本当になんでもないんだ、彼女とは」


「そうか……それならいいんだが。ところで、神木君。実はこんなものがあってだな」


 康太郎はポケットから一通の便箋を取り出した。


「なんだいそれは」


「クリスマスにデートの申し込みがあった、これは佐伯からのだ」


「……そうか、まだ君の事を諦めていないんだな、アレは」


 神木のこの言葉には、水鳥の康太郎に対する明け透けな好意の表現が、大人しくなったことに起因していた。


「んで、実は、あと2件、同種のお誘いがあったりする」


 康太郎は指を二本、神木の前に立てて見せた。


「そこで問う、リア充神木君。俺はどうするべきだろうか」


 12月半ば。寒さ厳しくなる師走の月。

 クリスマスを前にしたそんな時期。

 秋には迷走を極めた康太郎の恋愛事情に新たな波が、生まれようとしていた。

  



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