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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
第6章 東の空の一番星
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第2部 第20話 Another Dimension Sphere

「ひゃっ……!」

「ひゅ~、女っぽい姫っぽい悲鳴上げちゃって」

「う、うるさい!」


 拳銃を奪われたキャスリンは、車から引きずり出され、康太郎に抱えられたかと思うと次の瞬間には空高く舞い上がっていた。


「で、D世界の研究施設は何処にあんの?」


 臆面も無くそう問うた康太郎に、キャスリンはパンチを連打したが康太郎は全てを避けた。

 抱えられながら殴っている様は、駄々をこねる姿に似ていた。


「はぁ、はぁ。遠慮や順序ってものを知らないようね、アンタは。多少は説明しなさいよ」

「説明したら教えてくれるのか?」

「……さてね」

「うぜえ」


 康太郎は抱えていたキャスリンを空に放り投げた。


「えっ、ちょ」


 時間にしてほんの数秒。

 しかしキャスリンの肝を冷やすには十分だった。

 死は確実。そんな恐怖を今の高さなら数分間は味わえるだろう。

 しかし、そうはならず。キャスリンは再び、康太郎に抱きかかえられた。


「話す気になった?」

 

 康太郎のさわやかな笑みに、キャスリンが眉をひそめた。


「……ココノジ、アンタってここまで無茶苦茶な奴ではなかったと思うのだけれど」

「えっ、それD世界で俺を合気で散々地面に叩きつけた奴の言うセリフ?」

「あれは、あの世界だけでしょうが! こっちの私は至極真っ当な人間よ、アンタと違って!」

「ふうん? つまり、お前が言うところのDファクターは、普通はこうならないわけだ」

「……っ」

「というか。認めたな、あの世界で、俺とお前が出会っていることを。普通10年来の顔見知りをそう簡単に判別なんて出来ないもんな」


 康太郎は、無茶をする割に冷静だ。キャスリンの言質をどさくさにまぎれてとっていたのだ。


「まあ、確信はあった。もしかしたら、D世界でのキャスリンは、俺の妄想なんじゃないかとも思ったが。こんなことを言うのもなんだが、俺はお前のことを忘れていたからな。忘れていたのに、綺麗になった元同級生の姿なんて想像しようもないからな。本物って考えるほうが自然だ」

「……ホント、よくそんなことを面と向かって言えるものだわ」

「けど、それはお前だって同じだろうよ。初見では、俺とわかっていなかったみたいだからな。あっ、ちなみに俺は初見で気づいたからな」

「……わかってないなこいつ」

「何が」

「知らない」


 キャスリンは、しばし鋭い視線で康太郎を射抜いたが、観念したのがため息を一つつく。


「とりあえず、あんたの事情を説明しなさい。いきなり要求突きつけられたって無理があるわよ。こっちも対応を考える時間も与えないつもり?」


 キャスリンから譲歩を引き出した康太郎は、これまでの経緯を簡単に説明した。

 ある日突然D世界の夢を見るようになり、D世界での力を現実でも使えるようになったことと体質の変化、そしてD世界の夢を見ることがなくなったことを。


「俺は、またD世界に行きたいんだ。今のところ手がかりがお前しか無くてさ。それでアメリカくんだりまでやってきた、徒歩で」

「徒歩!?」

「いや正確には空を走ってきたんだけどさ」

「……まあいいわ、協力するのはいいわよ。但しこちらもデータは取らせてもらう。というより、データ取得とADS(エイダス)への転移は常に同期して行っているから」

「ADSって?」

「いいから。あとで幾らでも説明してあげるわよ」


 キャスリンは懐から携帯端末を取り出し、どこかへと通話を始めた。





 キャスリンの案内で康太郎が向かったのは、カリフォルニア州に位置しているとある高層ビルの地下だ。

 幾つもの分厚い超合金製の扉をキャスリンの指紋、網膜、声紋などなどでクリアした先にあったのは、人一人が収容出来る程度の大きさの、蓋の開いた寝台型のカプセルと、それに繋がっている幾つもの太いパイプ、その先にある巨大な機械だった。

 


「何だアレ、冷凍睡眠でも出来るのか?」

「そういうモデルじゃないわよ、アレは。アレは、ADS(エイダス)へ魂を送り出すための装置。ドクター、連れてきたわよ」


 キャスリンがドクター呼んだのは、いくつも並んだ計器の前に座っていた白衣の男だ。


『ああ。彼が、君の報告であった、ネイティブDファクターか。』


 白衣の男は振り向き、立ち上がった。

 短い金髪で、無精ひげを生やした中年の男だ。身長は欧米人らしいというべきか、180後半は軽くあるだろう。

 若干眠そうなのは今が深夜であることもそうだが、元々睡眠不足なのだろう。目の下にはくまが出来ていた。

 使用言語はやはり英語だ。


『歓迎するよ、ミスター・ココノエ。私は、ルイージ・グッドスピード。プロジェクトADSのメンバーだ』


 そういって白衣の男の右手は差し出した。

 康太郎は、なんとなく握手することをためらわれた。

 ルイージと名乗った男は人畜無害そうな男だが、なんとなく胡散臭いオーラが漂っていたからだ。


『……あー、おいキャスリン。もしかして英語がわからないとか、そういうことか。日本人とは聞いていたが』

『え? そいつ、英語なんてペラペラのはずだけど? Hey! ココノジ、アンタ英語は話せるわよね?』


 康太郎が握手をためらったのを、言葉がわからないせいだとルイージは思ったらしい。


『ああ、一応話せるよ』

 

 康太郎は、英語もOKとキャスリンに返した。


『だそうよ、ドクター。ほら、ココノジ、握手に応えてやりなさいよ』

『……わかったよ。失礼しました、ドクター。九重康太郎です。グッドスピードということは、キャスリンの親戚か、何かで?』

 

 康太郎とルイージは右手で握手を交わした。


『ああ、よろしく。――そう、彼女とははとこになるのかな。このプロジェクトADSには、グッドスピードの人間が何人も関わっている。今日ここへ来たのは、君がADSに行くのに、協力を求めたからだと聞いているが』


 ルイージは、話しながら用意したコーヒーを一口啜ると、若干視線を険しいものにして問うてくる。


『君は一体、何処の機関の者だろうか』


『……いや、只の個人だけど』


『君のプロフィールは、キャスリンからの連絡を受けた段階で、軽く調査させてもらっている。確かにプロフィール上、君は何の変哲も無い日本人だ。しかし、こんなものは幾らでも改ざんできる』


 康太郎はキャスリンを見た。助けを求めるというより、お前から説明しろという意味を込めた視線だった。


『ドクター、彼のバックには何も無いわ。ネイティブDファクターなんてものが他の機関の手のものだとして、どうしてそれが、私たちのところを頼ってくるのよ。ネイティブを確保しているのなら、私たちより遥かに有益なデータが得られるでしょう?』


『ふむ。では、彼が他の機関から脱出してきた存在だとしたらどうだ? 例えばそう、実験内容が非道で耐え難いものだとして、それで――』


『そんなの、コイツの手に掛かれば――ねえ、ココノジ。アンタの力をドクターに見せてあげてよ』


 力を見せろ。また微妙な振りをと、康太郎は思った。

 どれほどのことをやれば信じてもらえるのかが設定されていないじゃないかと。


『あー……それじゃあ、ごみ置き場、とかに案内してもらえますかね』





 


 廃棄された電子部品やら金属部品が積み上げられた倉庫に案内された康太郎は、二人を後ろに下がらせると、右手に理力を溜めた。


「エンチャント・オーダー……はぁっ!」


 溜めた理力を右ストレートで押し出すように発射した。

 視覚化されるほどに圧縮された理力は蒼い光となって、廃棄物へと向かっていき、当たると積み上げられたそれらが一瞬で消失(・・)した。


「Oh my god……!」


 ルイージが驚嘆の声を上げた。


『な、何かのトリックかい……?』

『何なら試してみます?』


 そう言って康太郎は再度理力を集中させる。

 ルイージは生唾を飲み込んだ。康太郎から放たれる圧力に、身震いが止まらない。


『ちょっと、あんまりドクターを驚かせないでよ。……ドクター、これがネイティブであるココノジの力よ。わかったかしら?』


 キャスリンから康太郎をたしなめると同時、ドクターへの念押しをした。


『ああ、理解したとも……すばらしいよ……!』

 

 ルイージは冷や汗を流しながらも、顔を上気させて言った。






『うん、君の境遇は理解したよ。正直、死からの蘇生については理解しがたいが、先の光景を見せられてはね』


 装置のあるモニタールームへと移動した三人は、改めて、情報交換及び、協力関係を結ぶに当たっていくつかの確認をする運びとなった。

 今は丁度、康太郎の身の上話が終わったところだ。

 もっとも、康太郎の主観では得られる情報などほんの僅かだが、変質した髪や目、現実側でも力を使えることや、現実での死からの蘇生といった超常の現象はドクターたちは確認できていなかったことだけに、彼らが言うところのネイティブとの比較が出来て、それはそれで有益な情報であったらしい。

 

『さて、ミスター。君の訪問は正式なものではないが、我々が所有する装置を使うとなれば、守秘義務なんかも発生する。この研究は、小規模でこそあるものの、わが国以外の機関でも進められているものでね。中には国との繋がりを持っているところもある。我々も実のところ国との繋がりが若干だがある』


 D世界について研究が進められていることもそうだが、国家まで関わるレベルの話とは康太郎も考えていなかっただけに、驚きは隠せなかった。


『今回の実験ではこちらが機材の提供、君からはデータの提供ということで非公式の形で行う。丁度いい具合に今はここに私しかいないからね。ただ万が一でも情報が漏れた場合――そんなことはないよう、対策はするがね――君には、何処の機関からの接触があるかもしれない。これは、そういうレベルの研究であると思ってくれ』


 康太郎は、ルイージの話す注意事項について了承すると、彼らの知っている(・・・・・・・・)D世界について質問することにした。

 康太郎は、納得するため(・・・・・・)に行動している(・・・・・・・)。D世界についての理解を深めることについても納得の範疇にふくまれているのだ。


『俺が言うところのD世界、貴方たちはADSと呼んでいました。教えてください、ADSとは、あの世界は何なんですか』


『そうだね、概要ならば、君にも聞く権利はあるだろう。それでも話せば長くなるがね』


 ルイージは、コーヒーを一口飲んで潤すと、長く、荒唐無稽な話をし始めた。


『ADS……Another Dimension Sphere。異なる概念を内包する別次元の惑星を意味する言葉の頭文字を取ったものだ。プロジェクトADSは、ADSとの往来手段、そして彼の地で魔力や理力呼ばれるものの転用方法を模索するもの。そしてこのプロジェクトは、ADSと魂の実在証明、グッドスピードを興した偉大な祖先、グラント=グッドスピードの願いが土台にしているものなんだ」


 グラント=グッドスピード。


――グラントだって?


 その名前は、D世界で知らないものは皆無といっていい。

 何故なら現代のD世界の文化の基礎を作った人物……統一帝グラントと同じだったからだ。




アルファポリス様のファンタジー小説大賞にエントリーしています。

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