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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
第4章 潜行する知の万華鏡
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第46話 愚者は結論を先延ばす

ちょっと書き直すかもしれません

 屹立する光の柱が、図書館から伸びていた。


 それを帝国特殊諜報部隊<セプテントリオン>幹部である参番星、ナビィ=レイルは見ていた。


 セプテントリオンを束ねる幹部である彼女は、本来であれば帝国地下の本部にいなければならない身分だ。


 正確には彼女自身ではなく、彼女が操る人形がその光景を見ていた。人形といってもそれは心臓もあれば、脳もある実寸大の人間そのものといっていい。


 彼女の通り名は人形遣いドールマスター。自身と寸分たがわぬ生き人形を操る能力者。


 そんな彼女は、全国各地にナビィ=レイルを送り込んでいる。

 南の大陸にいる、いまこの光景を見ているのも、そのうちの一体だった。


 組織としての脅威とは、まだセプテントリオンは認識していなかったが、彼女自身は個人的な興味から、直々にナインを観察していた。


「あは、あはははは。同じだ」


 そんな人形から、声が漏れた。


「理力そのものの光。やはりマスターと同じだ。<闘神>ナインは、マスターと同じなんだ……!」


 通常、ヒトは理力そのものを認識することは難しい。漠然としたプレッシャーというものがせいぜいだ。


 だが、理力を糧に力を発する固有秩序遣いと長く付き合っていれば、理力に対する感度も上がる。

 

 ナビィもそうだ。セプテントリオンの幹部達は皆そうだ。

 

 なぜなら、セプテントリオンである若き隊長・壱番星、皆がマスターと呼ぶ彼女も固有秩序遣いであるからだ。


「これはいよいよ、セッティングのし甲斐が出てきたわね……」


 光の柱に心を奪われながら、ナビィは一人つぶやいた。


 <闘神>ナインがマスターと同じ種類のヒトであるなら、二人を引き合わせる価値は十分にある。


 なぜなら、マスターの最終目的は恐らくは、あの謎の男、ナインと同じくしているからだ。


 あの圧倒的な戦闘力が駒になるとすれば、セプテントリオンは一国の諜報部隊に収まらない、まさしく史上最強の存在になる。 


 かつて大陸を統一したグラント帝を越える存在にだってなるだろう。


 だからこそ、焦りは禁物だ。


 ナインの裏を取る必要がある。


 逆に言えば、ナインがマスターと志を同じとしなかった場合、自分達にとって最大の障害となりうるのだ。


 今は、これといった自己顕示欲もなく、世界のあちこちを回っているだけのようだが、未来はどうなるかわからない。


 マスターも確固たる目的が無ければ、あの力がどんな形で暴走していることか、想像するだに恐ろしい。


 ナビィは笑顔の仮面を貼り付けた。同時、湧き上がる高揚を抑え付けた


 これで彼女はなんてことない、顧客にも好かれるヴァンガード・クラスタの元気印の受付嬢だ。


 光の柱が、いよいよ収まった。さて、今度は何をしでかしたというのか、あの男。


 何食わぬ顔でナビィは現場に赴く。 


 その笑顔の仮面の下で、もっと別種の違う笑みを浮かべながら。









~~~~~~

~~~~~~








 気がつくと、俺は図書館でぼーっと突っ立っていた。


 その隣には、同じく立ったまま目を瞑っているアルティリアがいて、しかも俺たちは、何故か手を繋いでいた。


 しかも恋人握り。指と指が組み合わさっている。


 流石に、これは無いと思って引き剥がそうとするのだが、これが意外に強く握っていて離すのに意外と手間取る。


 そうこうしているうちに、アルティリアの意識も戻ってきたらしく、彼女の目が開いた。


「あれ……?」


「お目覚めのところ悪いんだが、とりあえず、これ、離してくれ」


 俺は繋いだ手を、アルティリアの顔の辺りまで持ち上げた。


「あ……私……コウが消えちゃいそうになって、それで……」


 寝ぼけているのか、いまいち要領を得ないことをぶつぶつとつぶやくアルティリア。


「いや、だから手を離してくれって――」


 だが逆に、何故かアルティリアは、握る力を強めたのだ。


「お、おい、アティ、何だよ」


「……あは、アンタ、ちゃんとここにいるのね」


 アティはくたびれたような、安堵したような、妙に複雑な顔をしてそういった。


「そりゃ、いるだろうよ……どうした?」


「……ううん、なんでもない」


 ようやくアルティリアは手を離してくれた。


「というか、コウ、さっきまでのアレは一体何? ちゃんと説明してよ」


「さっきまでのって……アティまさか、俺の後について入ったの?」


「当たり前じゃない。コウを一人にしておけないし」


「……まあそれくらいの方がアティらしい、か」


 俺が嘆息すると同時、落ち着いた俺たちはようやく周りがざわついていることに気づいた。

 

 そういえば、俺たちの周辺は本が散乱していたり、本棚が倒れたりしているが……。


 そしてもっとも大きな異変に先に気づいたのアルティリアだった。


「コウ、アレ見て……?」


「あれって……あ」


 アルティリアが指差したのは天井だ。


 つられてその先に視線を移すと、そこにはぽっかりと大きな口を開けている天井が。


 途端、冷や汗がどっと噴き出す。


 まさかまさか、もしかしなくても俺のせいだろうか。

 

 心当たりはある。というか、俺のアイン・ソフ・オウルなんだろうなあ。


 あの亜空間のなかでやったことが通常空間に影響を及ぼしているとは。


 しかし状況証拠だけで確証はないし、高層建築であるこの図書館の天井に巨大で綺麗な風穴をどうやって開けるというのか。


 手からエネルギー波出しましたなんていっても信じる奴は……あ、ここ魔法がある世界だった。それでも大規模すぎるだろうが。


 というわけで俺はアルティリアを抱えて逃げ出した。無拍子を使って、全力で。


 弁償代とか言われても困る。


 いやそもそも立証は難しいのだが、変に疑いをもたれても困る。


 昔のヒトも言っていたじゃないか。逃げるが勝ちってね!




 



~~~~~~

~~~~~~




 心の中であれは不可抗力だったと割りと最低な言い訳をしつつ、宿に戻った俺たち。


 アルティリアには事の次第を順に話していった。


「あの黒い穴の先が<万華鏡の書庫>で、それぞれに望むものを見せる……か」


「ああ。しかも書庫は実際には王種・<奈落の獏>の内的世界の一部らしい。だから奈落の獏が取り込んでいない知識には答えられないってことらしい。まあ元々が出鱈目な話だからな、異世界ってのも」


「……私さ、実のところ、コウが異世界人って話、信じてなかったのよね」


 急にアルティリアが神妙な面持ちで声のトーンを変えた。 


「……そうか。まあそんな気は薄々してたけど。ま、それも仕方ないって思うわ。俺が同じ立場なら、そうするだろうし」


「でもね、あの穴の先で見た景色は……多分、ううん。間違いなく、コウが言っていた異世界ってものだと思う」


 そうして、ぽつぽつとアルティリアは話を始めた。


 自身が見た光景のことを。


 自動車や電車が走りぬけ、ヒトが密集して歩き、高層建築が立ち並び、魔法なく、物理法則が支配した俺の世界の話を。


 そして彼女の話の中で出てくる、仲のいい男一人と女二人……

男は神木君だろうが、女の方はまさか穂波さんと佐伯か?

 

 アレは他人から見て仲がいいになるのか?


 いやまあ、穂波さんとは前よりも話すようになったし、佐伯にも最近は遠慮なく突っ込みを入れているし、底まで出来る関係は確かに仲が良いといってもいい……のか。


「その、奈落の獏だっけ。その王種が望むものを見せるっていうんだから、間違ってないかな。私は、コウが帰りたがっている<元の世界>っていうのを見てみたかったし」


 これはもう間違いなく、アルティリアは俺の世界を見ている。

 

 獏は俺から異世界の情報を読み取っている。ならば、アルティリアにその様子を見せることは不可能ではないはずだ。


「ねえ、コウは……本当にあの世界に帰りたいの?」


「おいおい、俺の旅の根底を覆す質問だな」


 アルティリアが苦しそうな切なそうな顔で話を続ける。


「だって、あの世界で見たコウは……なんていうか、酷く退屈そうで……不満だらけっていうか、そんな顔してた」


「…………」


 一瞬だけ、何も考えられなかった。


「俺、そんな顔してた?」


「うん。こっちでいるときは、無駄に生き生きしてるのにさ」


 なんとなく図星を突かれたような気がして、下を向いて頭を掻いた。

 ウォルさんや獏の言葉を思い出す。


「……ここでは自分の望みをかなえることが出来るか」


「えっ?」


 だが、こうも言っていた。現実を塗り替える愚者であれと。


「いつかは、帰らなきゃいけない場所だよ。アティの言うとおり、元の世界じゃ俺はつまらないタダの学生で燻っているのも事実だよ。けど、あの儘ならない世界こそが、俺のいるべき場所だ」


「そっか……そうだよね」


 アルティリアが妙に悲しげな笑みを見せた。

 

 お前がそんな顔する必要ないでしょうが。お前はこっちで、幾らでも冒険できるんだから。


「まあ、でも……それはいつかであって、今すぐってワケには行かないみたいだな、今回のことでそれがわかったよ」


 世界に寄り添って生きて、万能ともいえる知識を有している獏たちでも原因はつかめなかった。


 諦めるつもりも無いが、もしかすると俺の内面世界に原因は無いのかもしれない。


 ちょっと真面目にカウンセリングとか受けてみようかな……。


 目も蒼くなってるままだし、佐伯あたりに言ったらいい病院紹介してくれるかも。  

 

「だから、ひとまず焦るのは止めることにするよ。じっくり向き合って……もう少しこの世界に歩み寄ってみようと思うよ、これからは。そのほうが、きっと楽しいだろうし」


 俺の方針転換を受けて、アルティリアの顔がそれとなく明るくなった。


「うん……うん、そっか。私もそのほうがいいな。コウと一緒の方が、私一人で回るより、色んな冒険ができそうだもの」


「結局そこかよ」


「そ、それだけじゃないわよ……私はコウと――」


 そこまで言って、アルティリアは固まった。


「ん? どうしたよ」


「な、なんでもない」


 慌てて身振り手振りで否定のポーズをとるアルティリア。


「じゃあ、無理に聞かないけどさ」


「あ、うん……」


 なんでそれで不満そうな顔をするんだ。なんでもないといったのはお前の方じゃないか。


「それで、次はどうするの?」


「すぐに決められるわけ無いだろ。今回、万華鏡の書庫が偶然見つかって、そこから先は決めて無かったよ。まあ南の大陸をもうちょっと見てまわろうとは思うけどな。中央山脈を挟んで東の方にあるデクステラ公国とか」 


「それじゃあ、そっちの方は後回しで、とりあえずご飯食べに行かない? とりあえずの目的は果たしたんだし、今日は豪勢なものにしようよ」


「そうだな……見つからなくて気落ちしててもしょうがないし、今日は食べるか!」


 そうして俺たちは宿を後にして繁華街へと出かけた。





 

 <第4章>完

意外! 第4章完!!

また後日、例によって断片集とか登場人物紹介があるかもしれません

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