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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
第4章 潜行する知の万華鏡
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第44話 内から外へ(前編)



「くそ、なんだってんだよ」

 

 俺は殴られ、切れた唇をぬぐいながら立ち上がり、ウォルさんを見据えた。


 濃すぎる黒い霧を纏ったウォルさんは、もはや人型のシルエットだけを残した霧そのものだ。


「どういうつもりですか、いきなり殴ってくるとか!」


「言っただろう。別の望みを、別の形でかなえると。悩める若人を後押ししてやるのは先人の務めだからね」


 悠然と歩いて来るウォルさんは、悪びれずに言った。


「君のこれまでの軌跡は、獏と一緒に見ているから知っている。世界蛇、カーディナリィ、帝国の人間に扇動された盗賊、闘技場のファイターたち、ドラグツリー、巨大イカ・ガストクラーケン、そしてあの状態の五条。君は短期間に随分と濃い経験をしているようだ」


「……アンタ、なんか勘違いしてないか。そりゃあ俺は色んな戦いをしてきた。だけど、戦いそのものが好きってわけじゃ」


 ウォルさんはそんなことは百も承知であるとばかりに頷いた。


「もちろん、これは単なる手段でしかない。だが、この世界において君が今、一番自分の望みが叶っている分野であることもまた事実ではないかな?」


 俺の望み……?


「常日頃から、君は喘いでいたのではないかい?」


 何に……?


「この世界では、君は自分の望みをか(・・・・・・・)なえることが出来る(・・・・・・・・・)。だが、まだまだ、それでも君の欲求は治まらない。違うかな?」


 さっきからウォルさんはあえて、ぼかしたよう言い方ばかりしている。

 それは言外に、答えは既に、お前の中にあると言っているんだ。


 夢の中の登場人物に説教か……とことん儘ならないな。


「知りませんよそんなの……。けど、俺の望む知識がここで手に入らない以上、貴方にも獏にももう用は無い。とっとと、元の場所に戻してくれませんか」


 知らず語気が強くなる。思っている以上に俺はイラついているらしい。


「つれないことを言うなよ、康太郎君。私たちの善意を是非、受け取っていきたまえ。そうしたら、元の場所に返してあげよう」


 顔は見えないが、神経質そうな男がヘラヘラするのは、見ていて良い気分ではない。

 嫌が応にも挑発と受け取ってしまうじゃないか。


「……ああ、つまり話は単純で、アンタを、ぶっ飛ばせればいいわけだ」


 俺は腰を落として拳を握りこんで構えた。


「ああ、できれば、だがね」


 両腕を広げ、打ってこい言わんばかりのウォルさん。


「じゃあ、遠慮なく」


 存在超強化を臨界点へ叩き込む。


 この頭が冴える感覚も、えもいわれぬ万能感も今ではすっかり馴染んできていて、こうしていきなり臨界点へシフトするのも随分と簡単に出来るようになってきている。

 

 今は着の身着のまま、樹殻シリーズの装備は外してあるが、攻撃するだけなら問題ない。


――無拍子・轟雷。


 踏み込みからの一瞬、雷の如く突貫する一撃を黒い霧の人型に向けて放った。


 黒い霧の人型の胸部に打ち込まれた一撃は、その許容域を遥かに超える衝撃だ。

 

 霧が膨れ上がり、破裂するかのように霧散する。


 手ごたえはあった。これは殺しのうちに入るのだろうか?

 

 だが、それにしてもあっけない。


 先に喰らった一撃は、強化している俺でも反応できなかったのに。


 そんな風に思いながら周囲を観察するが、景色は一向に、見るものを不安にさせる、赤と黒のマーブル模様のままだ。


 そして霧散した黒い霧もまだそのまま消えずに残っていた。


 これは一体……?


 そんな疑問に、後ろから迫り来る(・・・・・・・・)一撃が応えた。


「ぐあっ……!」


 まただ。また反応できなかった。


「あれで勝ったと思うなよ……と古典ではそういう言い回しだったかな」


 振り返ればそこには、奴がいた。

 俺が吹き飛ばしたはずの黒い霧の人型、ウォルさんが。


「なんで……!?」


 黒い霧が、メガネを直すしぐさをした。


「講釈だ。今我々がいるのは、奈落の獏の体内だ。獏の中は通所のそれと異なっていてね。世界の境界を歪めた亜空間で、その大きさは、大陸を楽に飲み込める程度にはあるのさ」


 大陸を楽に? だから、あんな万華鏡の書庫みたいな広大な空間もあるってことなのか。


「そして私はそんな獏の細胞と思ってくれればいい。そう考えると、もうわかるだろう? 君が倒したのは膨大な数あるうちの、僅か一つの細胞を破壊しただけに過ぎないってことが」


 はっ……。なるほどね、あっけないとか言ってすみませんでした。

 圧倒的なまでの物量差……まったく会う奴会う奴、一筋縄じゃいかないのばっかりじゃないか。


「なら、全部倒して、細胞を削りきればいいわけだ」


 そんな俺の言葉にウォルさんは嘆息したようで、


「発想がそっちに行くか……まあ、それもいいだろう。時間はたっぷりある。君が新しい発見をするまでじっくり付き合おうではないか」


 黒い霧が広がり、俺の周りを幾人ものウォルさんが現れて囲んだ。


 そして一斉に俺に向かって襲い掛かり、俺の視界を埋め尽くした。












~~~~~~

~~~~~~



諸事情によりしばらく更新が遅れますので、できている範囲で公開します。


感想等引き続きお待ちしております。


この小説は皆様の善意に支えられております。

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