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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
第3章 眠れる刃の城塞都市
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第28話 共犯者

活動報告も更新しております。


作品に関するお知らせなどもありますので、時々でいいので、ご覧ください。

「事情はわかった。いくつか条件を飲んでくれるのなら、依頼を受けてもいいわ」


 冒険者のエクストラランカー、アリエイルに一連の経緯を話した結果、意外に色よい返事を聞くことが出来た。


 エクストラランカーとはランクでは計り知れない存在に対する称号であり、例外なく、一級の戦闘力や知識、経験を持っているらしい。


「条件とは? 金については、とりあえず俺の全財産を提示させてもらったけれど」


「お金はいいわ。そうね、あれの4分の1くらいでいいわよ。さて、条件だけど、二つある。一つは、ドラグツリーの討伐は、あなた自身の手で行うこと。倒したドラグツリーの一部は、私も分け前としてもらうことよ」


「あれ? 聞き間違いかな? 今、俺が討伐しろって言われた気が……」


「言ったわよ」


「だって、依頼を受けてもいいって!」


「ドラグツリーを入手するのが依頼でしょう? だからイビルツリーの群生地を見つけるお膳立てはしてあげる」


 つまり俺にドラグツリーを倒すだけの実力が無ければ入手は不可能ということ。

 しかし、彼女を除く誰が、イビルツリーの群生地までの道筋を立ててくれるというのか。

 受付嬢は依頼を出しても誰も受けない可能性を示唆していた。

 

 だいたい、こんな大物に動いてもらえること自体が破格だ。

 

「私が、今回そもそも依頼内容を聞こうと思った気になったのはね、依頼主が貴方だからよ、ナイン」


「……どういうことだ?」


「私達が注目していたファーテールを無傷で簡単に破ったその力、それを確かめたくてね。ドラグツリーならば、それを見る相手としてはなかなかのものだし、丁度いいと思うし」


 彼女のその理由を聞いて、俺はつくづく、脳筋みたいな人に縁があるのだと思う。カーナさん然り、ファーテール然り。


 だが、俺の目的を考えれば、ドラグツリー程度の敵は、超えなければならない壁だろう。


「わかった……。その条件を飲もう、よろしくお願いします」


「うん、引き受けましょう。引き受けるからには、ちゃんとお膳立ては責任もってやってあげる。……それにしても不思議ね、貴方」


「うん? なにが?」


「本当にただの、何の力も無さそうな人間にしか見えないもの、あなた。それなのに、ファーテールを倒すなんてね。ドラグツリーとの戦いでは、その強さを是非披露して欲しいものね」


 まあ、今は存在超強化(ハイパーブースター)を一切使っていないしな。覇気も何もないというのはあっている。


「それでは、明日、早速出発しましょう。集合場所は、フツノの西門前に、朝の8時に集合よ、いいわね、ナイン」


「はい、わかりました」


「それじゃあ、楽しみにしてるわ。グッバイ!」


 そういうと彼女の姿は掻き消えた。長距離転移の魔法を使ったらしい。

 

 カーナさんでなくとも使えるんだな……、彼女の実力の高さの片鱗がうかがえるな。


「さて、それじゃあ、目的も達成できたし、今日は早めに寝なきゃな」


 俺は席を立ち、今回、最も尽力してくれた受付嬢に礼を言った。


「いえいえ、依頼人あってこそのヴァンガード・クラスタですから。それに仲介手数料も高い金額ですのに、ちゃんと支払いいただいていますし、私はただ仕事をしただけです。それよりもドラグツリーはかなりの強敵ですので、がんばってくださいね、ナインさん!」


 俺は彼女の快い応援に、サムズアップをして応えるのだった。


 若干寒かっただろうか、その様子を見ていたヨシノとアルティリアのジト目が痛かった。







 

~~~~~~ 

~~~~~~



 その日の晩の食事は、ドラグツリー退治の俺のために、精力がつく特別メニューを振舞ってくれた。


 いや、元々俺が招いた問題なのだが、応援されるってどうなのだろう。


 さて……寝る前に、一つ、決着をつけなければならない、相手がいたな。






~~~~~~

~~~~~~




「アルティリア、話があるんだ。開けてくれないか」


 俺とアルティリアは相部屋だったが、特別にベッドには敷居代わりのカーテンが備えられていた。


 おかげで着替えを覗く事も無く、少々残ね……じゃない安心だ。


 俺はカーテン越しにアルティリアに語りかけた。


「アルティリア、頼む、開けてくれ」


 しかし、アルティリアからの反応はない。


 だがだからといって俺は話すことを止めなかった。


「分かった、開けてくれなくてもいい。そのままでもいいから、俺の話を聞いて欲しい」


 そう前置きして、俺はカーテン越しにアルティリアに話し始めた。


「まず、昨日のことは本当にすまなかった。冗談が過ぎたよ。だけど、すこし弁明させてもらえるなら……最悪の場合、冗談が冗談ではなくなる……そんな可能性もあるってことは覚えておいて欲しい」


「……怖かった」


 カーテン越しからアルティリアの声が聞こえてきた。


「コウにやっとの思いで会うことが出来たと思ったら、すぐにあんなのだもの……本当に怖かった」


「うん……ごめんなさい。脅かすにしても、やり方はあったよな」


「でも……あんな可能性もゼロではないのよね?」


「……ああ、限りなくゼロに近いけど、ゼロではないかな」


「そう……なんだ」


 それっきり、アルティリアからは言葉が無くなった。 

 

 気まずい空気が続くが、それを先に破ったのはアルティリアだった。


「……私もね、思ってること、全部、ちゃんと、正直にコウに話す。だから、コウもこれから何をしていくのか、そういうのも含めて、何故私にあんなことをしたこととか、全部、正直に話して」


 それは、あの意地っ張りで、素直ではなく、勝気なアルティリアにしては、妙にしおらしい声で。

 思わず、そのギャップに、少しだけドキリと感じてしまう。


「ああ、もちろん。今日は、俺のすること、やろうとしてること、全部話して、その上でアルティリアに聞きたいことがある」


「それは、なに?」


「まずは、俺のやろうとしてることそれを、聞いて欲しい」


 おれは咳払いをひとつして、ゆっくりと話し始める。


「俺が異世界人って話は前にしたよな。俺の最終目的は、元の世界に帰ることなんだ」


 正確には2度とD世界の夢を見ないようにすること、だ。


 だが、アルティリアたちにとっては、俺はずっとこの世界にいる存在だから、嘘ではない。

 

「でも、そのためには圧倒的に情報が足りない。だからこの世界の成り立ちとか、歴史とか、伝説とか、とにかく色んなものを手当たり次第調べようと思っている」


 D世界がなんなのか、この世界に来た本当の理由はなんなのか。もしかすると、それは現実であるR世界に原因があるかもしれない。だが、これだけのリアリティある夢であるD世界、すなわち、俺の内面にもしかして原因があるのかも、とも考える。


「もちろん、アンジェル以外の王種にも会う気でいる。王種でしか知らない理もあるかもしれないしな」


 恐らく、いや間違いなく、軽く戦闘にはなるだろうな。


「そんなわけだから、世界中を回っていろんな国を見て、調べるつもりだ。俺の欲しいと思った情報があるのなら、そこがどんなに危険でも、俺は突っ込むつもりだ。王種なんて分かりやすい例だろ? それは当然に国の暗部とかも含まれる。無断で城に潜入して、お尋ね者になる可能性もあるな。王家の人間しか知らない秘密とかだったら、その王家の人間を脅したりもするかも。そしたらもう国事犯だな」


「…………それで?」


「俺の監視役をするってことは、そんな危険に突っ込むも同じだってこと。一緒にいれば、アルティリアも共犯だって思われる可能性は極めて高い」


「…………そうね」


「俺の個人的な事情に、俺の知ってる大事な人を巻き込めると思うか? アルティリア、俺は君のことを、大事な友人の一人と思っている」


「……」


 アルティリアが少し、息を飲んだのが分かる。


「そして俺は、自分の命すら満足に守れない弱い男だ。一緒にいる誰かの命が危険に晒されたら、俺にはその人を守ることは、きっと出来ない」


「……世界蛇様を圧倒するだけの力があるのに」


「あれは、俺が勝手に、自由にやったからだ。自分のことしか考えていなかったからだ」


「……」


「一人なら、俺だけなら、どれだけ罪を重ねてもいい。どれだけ命を賭けることになってもいい。でも、それを誰かに付き合ってもらうなんて、俺には耐えられない」


「……」


「それに、さ。たとえば、俺がものすごいやばい、言葉に尽くせない非道を行うとして、それを止めてくれる嬉しいお節介な奴がいたとする。でも、その非道の先に俺の欲しいものがあるのなら、俺は迷っても最後には、非道を行ってしまうだろう。例え、その止めてくれる奴を殺すことになってもだ」


「……それで、あんなことをしたの?」


「言い訳にしかならないけどな。本当は、あのあと、すぐにこの話をする気だったんだ」


「馬鹿……本当に馬鹿ね、アンタ」


「返す言葉もない。俺は馬鹿だよ」


「でも……」


 部屋を仕切っていた、俺とアルティリアを隔てる、薄くて、けれども分厚い壁が取り払われた。


「私も、もっと馬鹿だから、おあいこね」


 それは、アルティリアの手によって。


「アンタの話は分かった。だから今度は、私の番。ちょっと長くなるけど、いい?」


「……ああ、ちゃんと聞く」










~~~~~~

~~~~~~





 私はね、昔から冒険に憧れていたの。


 正確には、里の外の色んな種族が暮らしている世界に、かな。

 

 でも私は、里を捨てるという選択も出来なかった。


 使命の意味も分かっていたし、誇りにも思っていたから。


 でもカーナ様の武勇伝を聞いたりして、憧れの気持ちも消えなかった。


 けれど、決心できないまま、そんな思いも風化しかけていたときに、コウが現れた。


 最初に見たのは、丁度コウが世界蛇様と戦っているとき。


 裸のバカが世界蛇様を弄っているなんてまさに悪夢だったわ。


 それから裸のアンタを間近で見たり襲われたり……何よ、私も悪いって? 

 

 正当防衛よ、変質者に対するね。


 それから一緒に家で住むようになって、あんたの間抜けだったり、でも時に鋭すぎる雰囲気にすこし肝を冷やしたり……なんだかんだで、それまでに無く騒がしくって……でも、今だから思うけど、楽しかった。


 でね、一番私に迷いを抱かせたのは、想樹の一件よ。


 私にとっては世界蛇様と謁見して意見を言うなんて命知らずもいいとこの愚行よ。だから、あの方に自分から会うのだけでも私には立派な冒険だったの。


 それだけでもすこぶる勇気が必要だったのに、コウは、その先まで見せた。


 私達には一生拝むことは出来ないであろう想樹を、コウは、いとも簡単に見せてくれた。


 アンタといると、私の常識は、こだわりは、葛藤は、いとも簡単に崩されてしまう。

 

 そのことがね、悔しいけど、私をワクワクさせてくれるの。

 

 興奮するの、未知の体験をすることは。


 嬉しいの、道を切り開いて進んだ先に、コウが見せてくれる未知を見ることが。


 コウとこれからも一緒にいて……私はどんな未知が見れるのだろうって、考えるだけで、ドキドキした。


 なのにその矢先にアンタは死んで……と思ったらすぐに生き返って……挙句の果てに黙って出て行って……滅茶苦茶よね。


 もうどうしていいのか分からなくなって、参っていたところに、里長とカーナ様が、私にコウの監視役の任務をくれたの。


 私にはまさに僥倖だった。だって、これで任務っていう名目があれば、里を捨てることなく、コウの後を追えるもの。


 そうして一ヶ月してフツノに来て……ようやくコウに会えた。


 出会い頭は色々強がったけど……本当は嬉しかった。


 これで、私は、またコウと一緒に冒険が出来るってね。


 ねえ、コウ。


 私がどんな人か、これでわかってもらえたかな?


 そう、アンタがやろうとしてることの全ては、私が望んだことでもあるの。


 だから私は止めないよ。だって、私こそが、それを求めているのだもの。


 その先に私の命が消えることになってしまっても、私は後悔しないよ。


 えっ? それは困るって?


 だったら、守ってよ。無理でも何でも。


 無理だって? 


 コウの意気地なし。臆病者。小心者。


 いいわ、だったら、強くなればいいんでしょ。アンタの心配がなくなるくらいに。


 自分ひとりで命の面倒を見れるくらいに、強く。

 

 だからね、コウ。アンタの旅に私もつき合わせてよ。

 

 監視とかそんな建前でもなんでもなく。


 私は、私の意志で、アンタの傍にいたいのよ。


 共犯者? そんなの望むところよ。危険が怖くて、冒険がしたいなんて言わないんだから!











~~~~~~

~~~~~~





 

 アルティリアの話を聞き終わった俺は、頭を乱暴にガシガシ掻いた。


「まったく、なんだかなあもう」


 確かにこいつは馬鹿だ。俺と共犯になるのが望むところだなんて。

 けど、そこまで言ってくれて、うれしくない……はずもないだろうが。


「いいのか、アルティリア」


「かまわないわよ」


「何度でも言うぞ。危険だぞ」


「百も承知」


「犯罪者扱いになるかもだぞ」


「覚悟の上よ」


「そのせいで里に戻れ無いかもしれないぞ」


「そのときは、新しい故郷を作るまでよ」


「死ぬ可能性は結構高い」


「私が強くなるまでの間くらいは守りなさいよ。それくらいの甲斐性はあるでしょ」


「お守りはゴメンだ」


「なら対価を支払えばどう?」


「たとえば?」


「たとえば……私の体とか?」


「冗談でも言うんじゃない!」


「割と本気です」


「……」


「……」


「ごめんなさい」


「うむ」


「……」


「……」


アティ(・・・)


「えっ?」


 アルティリアは少しだけ驚いた顔をした。


「俺たちは共犯になるんだろう? だったらせめて愛称で呼ぶのは許せよ。お前だって俺のことコウって呼んでるだろ」


「あれは、言いにくいからで」


「俺もアティの方が言い易い」


「なら、認めるのね?」


 俺はその言葉に、少しだけ口の端を歪めて、応じた。


「……認めるも何も、俺たちは共犯者だ、そうだろ? アティ(・・・)?」


「ええ、そうね、コウ」


 そして俺たちは、どちらからとも無く、互いの右手を差し出し、握手を交わした。














 こうして俺は、D世界では本当の意味で一人ではなくなった。


 この先も共に往く、唯一無二の相棒(アティ)が傍にいるのだから。




<続く>

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