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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
第3章 眠れる刃の城塞都市
29/113

第27話 弁償は荊の道

活動報告も更新しております。


作品に関するお知らせなどもありますので、時々でいいので、ご覧ください。




「姉者、姉者ーーー!」


 城塞都市フツノにある居住区の一等地。


 その中でも一際多い大きい洋館の中をこれまた一際大きい男が駆け回っていた。


 ラフに着こなした衣服から覗かせる陽に焼けた浅黒い肌、鍛え上げられ名工の鎧を思わせる剛健な体躯、黙っていれば歴戦の勇士を思わせる精悍な顔立ち……男としての力強さ、勇ましさを体現したかのような存在だ。

 

 だが、この男、その図体に似合わずやけに愛嬌に満ち溢れており、姉を呼び回りながら走るその姿は、愛玩種の犬の様であった。サイズは大型犬を遥かに凌駕していたが。


「どうしました坊ちゃん」


 その男を、洋館に勤める壮年の家令が呼び止めた。彼の教育係でもあった家令は、彼のもう一人の親のような存在でもある。


「聞いてくれ、フィグリス! ファーテールが敗れたらしい。しかも、相手はランカーに上がったばかりのルーキーだ」


 男は興奮を隠さずに言った。


「ほう、それはそれは。よろしゅうございますな」 


「ああ、名はナインというらしい。 俺があと1年もすればそこそこ(・・・・)やるようになると思っていたファーテールの奴を、無傷で倒したやがったというじゃないか。もしかすると、俺達を近いうちに引きずり出すかもしれん挑戦者が現れたかもと思ってな。姉者にそれを教えようと思ったのだ」


「そうでしたか。ですが、お嬢様は冒険者ギルドからの要請を受けて先刻出て行かれましたよ」


 男はその報告に残念そうに肩を落とした。いちいち感情表現が大げさな男である。

 

「行き違いになったか。しかし、ギルドからの要請とはただ事ではなさそうだが」


「いえ、なにやら奇妙な依頼がお嬢様の指名で入ったようでして、話を聞きにいくそうですよ」









~~~~~~

~~~~~~





  ヴァンガード・クラスタ・ギルド。通称:冒険者ギルド。冒険する開拓者――ヴァンガード――のための支援を目的とする互助団体である。


 グラント統一帝時代以前にまでそのルーツをさかのぼるその支援組織は、現在、世界4大大陸のいずれにも存在していた。

 

 ヴァンガード、つまり冒険する開拓者というのは、文字通り、未探索領域の調査、開拓を生業とする者達で、現在の<何でも屋>たる冒険者のルーツと呼べる存在だ。


 開拓する手は猫の手でもという古来の経営理念を現在でも守り、初回のギルドへの登録には、特別な資格や経歴は問わず、その間口はかなり広いため老若男女の様々な人種がギルドには集う。

 反面、定期的な査定が存在し、実績の上げられない者は容赦なく登録を外され、冒険者特権ともいうべき通行税免除や身分証明等のすべては無論無効の上、再登録には厳正な審査を通過しなければならない。


 そんな組織のフツノ支部は、やや騒然していた。

 その原因は二人の人物の邂逅によるものだった。

 一人は、番外のエクストラランクとして冒険者の中でも別格、同時に闘技場におけるランキング序列1位という顔も持つ女性。

 

 名をアリエイル・トナミ・ガードナーという。

 

 赤のショートカットに自信をあふれた勝気な笑みが良く似合う美少女といって差し支えない容姿だった。


 もう一人は、闘技場ランキング序列4位になったばかりのルーキー。こちらにはどうにも華がない。

 だが、流石に4位ともなるとそのネームバリューはフツノにおいては無視できないものとなっている。

 名はナイン……という名前で通している九重康太郎という勘違い野郎だ。


 二人の間柄は、依頼を受けた冒険者と依頼主。

 つまり、彼女に依頼を申し込んでいるのは、康太郎の方であった。


 話は、およそ半日ほど前にさかのぼる。













~~~~~~

~~~~~~




「いい加減、機嫌直してくれよ」


――もきゅもきゅ。


 無言で一心不乱に朝食をかきこむアルティリア。

 

 刀宴亭の食堂で俺とアルティリアは朝食をとっていた。


 作法を守りながら綺麗に、なおかつがっつくという矛盾を孕んで器用なことを食べ方をアルティリアを見て、俺は再会した時の印象以上の逞しさを感じていた。


 昨日――D世界の時間で――のハッタリ以後、アルティリアには取り付く島もないという風に一向にこちらの話を聞こうとしない。


 一方で、特に俺を避けて離れるということはしないのが、また奇妙である。


 この際、命の危機に晒された、自分ではあの男の監視役など務まらないし、したくもないという風に考えて里にもそういう報告をしてくれれば、俺の当初の目的としては果たされるのに。


 だが、結果としては不機嫌オーラを噴出しつつも、俺からは離れない、という最悪の結果である。


「だからさ、昨日のことは全面的に俺が悪かったって。」


――もきゅもきゅ。


頭を下げる俺を、ちらりと一瞥し、けれども何も応えることなく、食事を続けるアルティリア。


 こりゃダメだ。もう少し、彼女の溜飲が下がらない限り、話を聞いてくれそうにない。


 一旦彼女の説得を諦めた俺は、食べ終わった食器を纏めて、マスターのウォーケン氏の厨房へ返し、フロントに居るオーナーのハルノさんのところへ。


「ハルノさん、ヨシノいます?」


「あらナイン君、ちょっと待ってね。ヨシノー? ナイン君がご指名よー?」


 少しして、彼らオーナー一家の部屋からヨシノがやってきた。


「おはようナイン。 ってなによ、お母さん、そんなにニヤニヤして……」


「クスクス、よかったわね、ナイン君からデートのお誘いよ」


 ハルノさんの冗談に、ヨシノが少し怪訝な顔をする。


「はぁ? ナイン、ソレ本当?」


「いや、デートっていうか、ちょっと買い物に付き合ってほしいんだが、今日は空いてるか?」


 俺の言葉に、ヨシノの顔に少し赤みが差した。

 

 彼女のトレードマークであるポニーテールが心なしか跳ねた気がする。


「ふぇ、いや、それってデートじゃ……」


「いや、だから買い物」


 俺はきっぱり否定する。俺の行きたい店は、そんな嗜好とは無縁の店ばかりだからである。

 逆にデートという概念に失礼だろう。


「い、いやでも、店の手伝いあるし……」

 

 ちらちらとハルノさんを見るヨシノだったが、


「いいわよ別に。むしろナイン君は今やうちで一番の上客なのだから、この際ヨシノがいっぱいサービスしてあげなさい」


 と、ハルノさんから逆に業務命令を言い渡されてしまった。


「じゃ、じゃあ、しょうがないわね。デー……じゃない、買い物に付き合ってあげるわよ」



 と、そんなやり取りがあって商業区やってきた俺とヨシノ、ついでにアルティリア。

 いや、アルティリアは俺達を尾行しているような感じで、一定の距離を離れてついてきていた。

 なので、正確には二人と一人であったりする。


 そして気がつけば、俺の両手には抱えきれないほどの荷物。


「よお、あんちゃん。試合見たぜ、ほれこれもってけ、オマエの勝利祝いだ」


「あらヨシノちゃん、ファイターさんとデートなの? ちょうどいいわ、これあげるわ」


「おおう、ナインか。おまえランキング4位になったんだってなあ! そうだ、これもってけ、うちの新商品。ついでに宣伝してくれ。新星上位ランカー御用達ともなれば箔がつくからな」


 などなどと、道中でおっさんおばちゃん兄ちゃん姉ちゃんになぜか色々押し付けられて、目的を達成する前にそんな状態になっていたのだ。


「買い物に出ただけでこれか」


「だって、ナインも上位ランカーだもん。わ、私も宿屋の娘としては利用してもらって嬉しいし、誇らしいわよ。」


「そういうもんかね」


「そういうもんよ。最初出会ったときは、いきなり私を抱えて逃げ出す変な奴だったのに、随分と出世したよね」


 ヨシノと出会ったのはこの街に入って割りとすぐのこと。

 彼女が荒くれ者のファイターらしき数人の男に絡まれているのを俺が介入したことがきっかけだった。

 俺は絡まれているヨシノたちの間に割って入り、彼女を抱えて逃走したのだ。 

 今でも思うに、自分らしくない。R世界では無理な、俺のちょっとした見栄が働いたことだ。


「無用な喧嘩は避けるべきだろう」


「でも結局、あとでアイツらと闘技場で戦うことになって、ぼこぼこにしてたじゃない」


「一般人に手を上げようとした報いだよ。それにあの場所でなら喧嘩じゃない。命と金をかけた、れっきとした仕事だ」


「そういうものかなあ?」


「そういうものだよ……っと、ここがそうか?」


 そうして俺達は、ようやく第一の目的地である「ドニー工房」と看板が立てられた店にたどり着いた。


「こんにちわー」


 ヨシノが挨拶しながら、扉を開けた。


「いらっしゃいー、あらヨシノちゃん、こんにちわ」


 出迎えたのはどことなくミニマムなこじんまりとした少女だ。

「こんにちわ、エルドアさん」


 エルドア・ドニー。

 少女と思っていたその人はドニー工房の共同経営者のうちの一人、御年60越えのドワーフさん。すなわち、合法ロリ。


 そう、合法ロリなんだ。くそ、なんて甘美な響きなんだ、合法ロリ……!


 ドサァ!


「え、ちょっとなに、ナイン。なんでそんな四つん這いになって悔しそうにしているの?」


 くそ、やられた!


 エルフが居るんだ。獣人その他種族の存在もいままでに確認していた。だが、ドワーフ少女は盲点だった……!!


 ドワーフというと、どうしても髭もじゃの頑固職人のイメージが先行してしまうが、それが女ドワーフになると髭の豊かさは髪にいき、その豊かで長い髪とちんまいながらも確かに女性のそれ特有の肉付きを兼ね備える、真実その手の趣味の人にはたまらない超萌え種族になるのだ!!


 流石だぜD世界。俺の盲点さえも暴きたてて突いてくるその心憎いばかりのセレクトはよお……!!


「ヨ、ヨシノちゃん。なにこの男……」


「ただのバカよ、気にしたら負けだわ」


 いつの間にか入ってきたアルティリアが俺のことをそんな風に説明した。

 

 久しぶりに口を開いたかと思えばそれか。まあ、しょうがないといえば、しょうがないか。口を開いただけ、マシというものか……。


「まあいいか、それでヨシノちゃん。今日はどんなご入用なのかしら」


「ええとですね、言いにくいんですが、実はうちの食堂の椅子とテーブルが壊れてしまいまして、新しいのを用立ててもらおうと――」



「ええ!? 椅子とテーブルって、ドラグツリーの椅子とテーブルを!? それを壊したって一体何があったの!?」


 ヨシノは俺が勢い余って壊したことを伝えた。


「あ、あんた、見かけによらず、化け物みたいなのね~~」 


 実に率直な意見だ。ちょっと傷つくぞ。


「それで新しい椅子とテーブルを注文したいんですけど…」


 エルドアさんは深くため息をついた。


「ごめん、その注文は受け付けられないわ」


「え、ええ? どうしてですか? お金なら、このナインがいくらでも出しますよ?」


 言い方ってもんがあるでしょうが、ヨシノさん!


 そりゃ俺が壊したからどんだけ高価だろうが俺が弁償はしますけど!


「お金の問題じゃないのよ。あなたの店の食堂の調度品はね、ドラグツリーという高位のレアモンスターの素材で作られた、金を出せば買えるという代物ではないのよ」


「え、うちの食堂のテーブルとかって、そんなに凄いものだったんですか!?」


 知らなかったのかよ! 宿屋の後継が、そんなのでいいのか。


「ドラグツリー製の…なるほどね」


「アルティリア、お前も知ってるのか。ドラグツリーってなんだ?」


「……」


 またそれか。お前もう何? なんなわけ? 確かに俺が悪かったけど、嫌なら嫌で俺の傍になんでいるんだよ?


「すみません、エルドアさん。ドラグツリーって具体的にはどういうモンスターなんですか」


「ドラグツリーっていうのは、文字通り竜の樹。正確には竜ではないのだけれど、ドラゴンと遜色ない力をもつ魔物よ。元はイビルツリーという樹が変性して生まれた魔物でね、それがさらに他のイビルツリーを取り込んで融合することで生まれる突然変異種。核を壊されない限り無限に増殖再生する体。アースドラゴンと同じで飛べはしないけど、パワーはそれに匹敵する。 イビルツリーの群生地が滅びの危機にあるときに彼らの生存本能の生んだ奇跡と言われているわ」


 イビルツリーという魔物が生存のために生み出す奇跡……か。なるほど、レアといわれるわけだ。


「そのドラグツリーの体は、凝縮された魔力の塊と同じ。それを素材にして作った道具はそんじょそこらの金属なんて歯牙にもかけないほど破格の頑丈さを誇る逸品になるわ。ちゃんとメンテナンスを施してやれば、いつまでも劣化することなくね」


 なるほどな、刀神の友人という初代は伊達ではないらしい。その宿に対する取り組みは尋常ではなかった。調度品一つ取ってみても、そんなこだわりあるものだったのだ。


 ということは、あの宿屋自体、おそらくそうしたオーバースペックの塊である可能性が高い。拡張しないというのもうなずける。しないのではなく、できないということなのだろう。


「イビルツリーの群生地を楽に滅ぼせるほどの腕前でなければ、出現させるのも困難。それにイビルツリーの群生は森の中を擬態しながら移動するから、発見も難しい。だからレアリティは高いのよ」



 支払い額が時価である理由がわかった。そんなレア素材だから、正規の方法では入手も困難。そしてそれだけの有用なレア素材。市場に出回ったら、一体幾らまで上がるか、分かったものではない。


「そ、そんなのがうちの店に使われているなんて……」


「困ったな……単純に金の話でもなくなっちまったな」


 本当に困った。そろそろ出て行こうと思っていた矢先にこんなトラブルに見舞われるとは。


 やはり衝動で逃げ出すのはよくないということだな。やはり、逃げるならば、確信的に、打算を以って逃げるべきだ。


「だったら、ギルドに依頼を出してみたらどうかな」


 そういって現れたのは、痩身の優男だった。


「あら、あなた、お帰りなさい」


「ただいま、エルドア。話は途中からだけど聞かせてもらったよ」


 ああ、そっか。こっちが共同経営者の旦那さんなわけか。


 ブレッド・ドニー。祖父がエルフというクォーターエルフの男性だ。

 歳は御年70歳。エルフの血故か、少し顔にしわがあるものの、まだまだ働き盛りといった風情だ。

 

 クォーター……そういうのもあるのか。


 どうも、最初に出会ったのがアルティリアのエルフの里であったから、このフツノにおける異種族玉石混合ぶりには当初は驚いたものだったが、あの里の方こそがマイノリティなのかもしれないな。


「この街にはエキストラランクの冒険者もホームを構えているし、条件次第では引き受けてくれるかもしれないよ?」


 俺は、この旦那さんの意見に従うことにした。


 どの道、今までの賞金は捨てる覚悟だったのだ。ならばなんとかドラグツリー入手を請け負ってくれる冒険者がいればこの状況を打破できるかもしれない!



 






~~~~~~

~~~~~~





 ギルドによる前に、もう一つの目的地である大工の店に寄り、こちらの事情を話した。

 

 やはりこちらも壁に使われている石膏には、レアリティの高いゴーレム種のものが使われていたということだった。


 しかし、こちらは高級品ではあるが、ちょうど冒険者がギルドに素材を回したことで市場にそれなりに出回っているらしい。値は張るが入手は可能ということだ。


 って、いやまじでおかしいだろう、刀宴亭。



 さて、そんなこんなでようやくギルドに到着した。


 おおう、談話できるフリースペースに、掲示板には依頼の数々。

 

 受付には美人受付嬢数人が粗野な冒険者達に対し、毅然と、しかし丁寧に応対していた。


 まさに、古きよきギルドシステムが円滑に運転されている様子だった。


 あ、番号札による順番待ちシステムなのか。これならば、立ちで後ろに待つことも無く、その間は新しい依頼なんかをチェックしたり、情報収集に時間を割いたりできるわけだな。


 って、どこの銀行かケータイショップだ!


 ま、律儀に番号札をとって待つんだけどさ。


「あ、アンタ、この前闘技場に出てた! アンタにはお礼を是非言いたいと思っていたんだ!」


 ヨシノと適当にだべりながら、順番を待っていると、一人の冒険者が俺に話しかけてきた。


 彼は中級のランクに上がったばかりの冒険者で、装備の新調をしようと考えていたのだが、残念ながら資金不足で断念していたそうなのだが、先日の俺の試合でたまたま俺の方に公営賭博で賭けたら見事に予想が当たって、装備を新調することが出来たそうな。


 意外なところで、意外なつながり。お礼を言われる筋合いは俺には無く、むしろ俺に賭けたあなたの度胸と運を誇れ、みたいな話をして、和やかに別れた。


 冒険者にもいろんなタイプがいるのなーと思いながら、待っていると、ようやく俺の番が回ってきた。


「ヴァンガード・クラスタへようこそ! 初めての方ですね? ギルドへの登録ですか? それとも素材の買取でしょうか?」


 と、なんともテンプレートなマニュアル対応であると思っていたら。


「あ、いや、俺は……」


「うん? うーん?」


 何故か受付嬢が身を乗り出して、俺の顔をまじまじと見てくる。


 いやだから近いんだよ! 怖いよ。違う意味のドキドキで冷や汗出ちゃうよ!


「ちょっと、なんなのよ、あなた。ナインが何かしたって言うの!?」


 ヨシノがちょっと異常な事態に抗議をしてくれた。


 ありがたい。やっぱ持つべきものは常識人の友人だよな。


(何かって……クス、ありすぎて困るくらいよねえ?)


 いきなり高等技術の念話で俺だけに話しかけるの止めてくれませんかねえ、アルティリアさん!?


 っていうか使えるようになったのね、地味に凄いよ!


「あーやっぱり、ナインさんだ! 私、貴方のファンなんですよー!」


 いきなりファンとか。ちょっとまて、いきなり俺に好意を向けてくる奴など、佐伯だけでお腹一杯なんだが。


「あ、でも私はにわかじゃなくて、ファーテールさんと戦う前からひそかに注目してたんですよー」


 そう受付嬢はひまわりのような快活なで裏表のない笑顔を見せた。


 どうやら、彼女は純粋に、ファイターとしての俺のいちファンであるようだ。


「どうしたんです、ギルドになんて。もしかして、ギルド登録を!? ナインさんみたいな凄腕なら大歓迎ですよ~。ばっちりサポートしますから」


 凄い期待させてしまって申し訳ないですが、俺は冒険者になるつもりはないのです。


「違うんだ、実は――」


 俺は受付嬢に、ドラグツリーの素材入手の依頼をしたいことを経緯を含めて説明した。

 経験のない俺では、イビルツリーの群生地を見つけることは不可能であるからという理由も含めて。


「ド、ドラグツリーですか? さすがナインさん、斜め上のご依頼ですね。でもそんな高難易度の依頼を出しても、ずっと放置されてしまう可能性もありますし……」


 受付嬢は心底困ったという反応を示す。


「なんとかなりませんかね。どうしても早くに入手したいんですよ」


 ここで足止めとか勘弁願いたい。

 

 もともと棍の扱いの習熟と金の取得という、一挙両得のねらいがあってフツノのファイターになったのだ。


 いまや一回のファイトマネーで、結構な金が動く。仮に今度の弁償で全財産を叩いたとしても、1,2回戦って勝てば、十分な金額になるはず。それに棍の扱いもモノにしたといっていい。


 であるなら、もうフツノに用はないのだ。


「ねえ、ナイン、どうしてそんなに慌ててるの? 別に急がなくても、弁償については待ってもらえるように私からも言ってあげるし、代用品でしばらく間に合わせるって手もあるしさ」


 ヨシノのフォローの声が上がる。


 ありがたいが、俺はもはやフツノを出て行く気なのだから。


「……わかりました。ほかならぬナインさんのご依頼です。私も一肌脱ぎましょう! ちょっと待っててくださいね。マスターに相談してきます!」


 受付嬢はパタパタとカウンターの奥に引っ込んでしまう。


 そして数十分後。


「お、お待たせしましたー! ナインさん」


 待合で待っていたら俺をさっきの受付嬢が呼んでくれた。


「期待してもいいんですかね?」


「はい! マスターと相談して、このフツノに常駐しているエクストラランカーの要請を駄目元でしてみたらとアドバイスを受けまして。魔導通信で連絡して、ナインさんの名前を出したら、話を聞いてくれると、言ってくれまして! 今からこちらに向かうとのことで――」


「もう来ているわよ」


 受付嬢の声をさえぎったのは、ギルドの入口にいる少女だった。

 

 赤いショートカットが勝気そうな笑みに良く似合っている。特にこれといった特徴もないクリーム色の服にベストを合わせた程度の軽装だが、一点、腰に差した剣が妙に浮いていた。


 彼女が、その名を口にした。


「ギルドからの要請を受けて出向いたわ。初めまして。私はアリエイル・トナミ・ガードナーよ。あなたが依頼主のナイン、かしら?」


 



<続く>

 

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