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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
第3章 眠れる刃の城塞都市
27/113

第25話 追い詰められる二人



「うわ~、こりゃどっちにしろ予定は変更せざるを得ないじゃないか」


 ドアを開けたら刹那で不意打ちという剣呑な再会から少し落ち着いた俺とアルティリアは、互いのベッドの上に腰掛けている。

 そして俺はアルティリアから、店主であるウォーケン・クルス氏から渡されたという請求書とにらめっこをしていた。


「始末ってこのことかよ……まあ確かに軽率が過ぎたか……」


 刀宴亭の壁に椅子に床にその他の修理代・弁償代の請求書である。俺が無拍子で壊した数々だった。ちなみに時価なので具体的な金額は書いていないが、見積もりや工期も含めれば2週間は足止めを受けることになるだろう。


「まったく、アンタの知り合いだからっていきなり私にソレを渡されたのよ? たまったもんじゃなかったわよ」


 腕を組んでぷんすかと憤慨するアルティリア。よくよく見れば、一月前と比べれば所々に以前とは違う部分が見受けられた。


 背中まで長く伸びていた銀髪は、今では肩の辺りで切りそろえられていた。以前の長さも魅力的ではあったが快活な印象を持つ彼女にはこっちの方が似合っているくらいに思える。


 また纏う雰囲気もまた、少し野性味を増したというか、すこし逞しくなった感じがしている。


「ま、お前が現れたことに驚いてやったことだから、別にお前に責任を分け合う気はないけどさ……さて、何処から話すか」


 俺は一月前の里に居たときのような気安い態度を潜めて、少しばかり詰問するような態度に気を引き締めた。

 その変化をアルティリアも察したのか、若干緊張を纏い、姿勢を正した。


「まどろっこしいのは無しにして率直に聞こうか。アルティリア、お前、俺を追って、ここまで来たのか」


「……ええ、そうよ。里長からの命を受けてね」


 里長がそんな命令を? 俺が出て行くことには賛成の立場の人だと思っていたんだが。


「里長は仰っていたわ。『異世界人である彼はこの世界に混乱を招きかねない存在だ。故に、世界の理を守る一員として、彼を自由なままにさせておくことは出来ない』ってね。それで、里でアンタの監視役をしていた私が、引き続きアンタの外での監視役を仰せつかったというわけよ。わかった?」


 酷い理由だ。酷すぎる。どれだけ信用がないのだ、俺は。里の皆様と最後の最後で妙なすれ違いがあったかもしれないが、それなりに信頼関係は築けたと思っていたのに。

 

 しかし非常に困ったことになったのは事実だ。


「んで? 監視役を命じられたからって、そんなあんまりな命令を受け入れたっていうのかよ、お前は」


「しょ、しょうがないでしょ! 里の中じゃアンタのことを分かってるのはいみじくも私が一番だし、アンタがとんでもないやつってのを一番分かってるのも私だし……」


 アルティリアはなぜか明後日の方向を向きながら、俺の問いに答えた。何故か彼女の声には言い訳じみた響きが含まれていた。


「おいこら、ちゃんと俺の目を見ろよ」


 俺はほんのちょっぴり存在超強化(ハイパーブースター)を使った上でアルティリアに対して睨みを利かせた。


 アルティリア少しだけ肩をびくつかせたが、すぐに気丈な態度を取り戻して、俺に向き直った。


「な、なによ、そんなに睨んじゃって……」


「お前、本気で俺についてくる気なのかよ」


「あ、当たり前でしょ、アンタをほっといたら何をするか分からないし……」


「それで、俺がお前の言う何かとんでもないことをした時には、それを止めると?」


「そ、そうよ……」


 アルティリア、お前は、本当にそう思っているのか? もしそうなら――


「じゃあ、お前は俺の敵になる覚悟があるっていうことだよな?」


 存在超強化(ハイパーブースター)を臨界点へ。


 俺が意識的に放っている威圧も最大限に膨れ上がる。


「ふあっ!?」


 ベッドの上に座っていたアルティリアが後ろに倒れた。俺が瞬間的に威圧を高めた性でよろめいたのだろう。 


 俺はベッドから立ち上がり、アルティリアのベッドの上に近づいていく。


 そして俺は仰向けに倒れて動かないアルティリアの上に覆いかぶさった。


「ひっ……!」


 アルティリアからかすかな悲鳴が上がった。俺が彼女の細い首に手を添えたからだ。


「細い首だよな……簡単にくびり殺せそうじゃないか」


 そしてほんの少し、呼吸を阻害せず、けれど掴まれていると感じられる絶妙な力加減で、彼女の首にそっと力を入れた。


「俺の邪魔をするってことはさ、俺にこういうことをされる可能性ってのも考えているわけだよな……?」


 段々、アルティリアの顔が青ざめていく。うわ、俺、意外にサドっ気あるなー。こいつのおびえる顔が綺麗なんて思ってるよ。


……まあ、そろそろいいかなー。


「なーんて、冗談に決まってるだろ?」


 俺は存在超強化を解いて、アルティリアの細首から手を離した。


「えっ……なに……?」


 うっすらと涙でにじんだ瞳で呆然と俺の顔を見つめるアルティリア。うう、演技とはいえ、少々やりすぎたかな……? 


「だから冗談だよ。ブラフだよ、ハッタリだよ、ちょっと脅かしただけだって」


 俺がイマイチ良く分かっていないアルティリアに同じような言葉を色々と吹っかけた。


「…………っ!」


 青かった彼女の顔が徐々に元に戻り、それを通り越して赤みを帯びていき――


「このバカーーー!!」


 アルティリアを見つめていた俺の顔に、彼女の懇親のストレートパンチが炸裂した。


「ぐへえっ!」


 存在超強化を意図的にカットした俺が彼女のパンチをよけられるはずも無く、俺は盛大に吹っ飛んだ。


 そして倒れた俺に対し、追撃のストンピングを繰り出すアルティリア。


「ぶはっ!? ちょ、お前、これはやりすぎ!」


「うるさいうるさいうるさい! 本気で! 本気でコウに殺されるかと思ったんだから!」   


 げしっ! げしっ! げしっ!!


「コウのくせに! コウのくせに! コウのくせに~~!!


「おい、こら、やりすぎだって、うるさくて他の客に迷惑だろうが!」


「うるさい、うるさい、うるさい!!」


 だめだ、どうも効き目が強すぎたらしい。アルティリアは完全に錯乱しているようだった。


 どうしよう、このまま蹴られると、俺の方が参りそうだし、何の説明も無いままもう一度存在超強化をつかってトラウマを広げてもダメだし……


 と、俺が考えあぐねているときだった。


「ちょっと、何の騒ぎよ、ナイン!!」


 部屋の鍵を開けて、扉を開けたのはヨシノだった。


「…………えっ?」


 流石のアルティリアも、部屋に乱入されたことで意識を取り戻したのか、俺をストンピングしようとした姿勢で固まった。


「ナ、ナイスだヨシノ……お前は俺の命の恩人だぜ……」


 ヨシノは状況がいまいち掴めず、頬をポリポリと掻いた。


「な、何してるのよ、あなたたちは……」

 

「えっと……スキンシップ?」


 なんとも下手ないいわけだった。














~~~~~~~~

~~~~~~~~













 その日の晩は結局、アルティリアは俺の話を聞こうとはしなかった。


 むしろ、あの脅しの後が本題だったんだけどなあ。


――なあ、アルティリア。俺はお前のこと、このD世界で出来た大事な友人だって思ってるんだぜ?


――たとえ、俺の夢の人物だからって、俺はお前のことをどうでもいいなんて思ったりはしていないんだ。


――だからこそ、俺はお前に俺の監視の任務なんて馬鹿な真似をして欲しくないんだよ……。 


 俺はアルティリアを思って少しばかり落ち込む気持ちと一緒に、眠りについた。





~~~~~~~~

~~~~~~~~

















 アラームの音と共に目を醒ますいつもの朝。


 最近は若干、起きるのが少し憂鬱になっているのが実情だ。


 エルフの里を出てフツノで活動するようになってから一ヶ月。


 それはつまり、現実でも一ヶ月が経過したことを意味する。


 D世界と違って少なくとも俺の周りは平和そのもの……と思っていたのもすでに過去のこと。


 現実でもちょっとした珍事が起こっていたのだ。




~~~~~~~~

~~~~~~~~














 玄関を出ると、絶妙なタイミングでやってきた黒塗りのベンツが俺の家の前で止まった。。


 ベンツの後部ウィンドウが下り、顔を覗かせてきたのは、肩のところで髪を切りそろえている、清楚な雰囲気を纏った少女だ。


 最も俺にとっては、清楚とかそんな印象以前に――

 

「おはようございます、康太郎くん。偶然ですね。」


 何が偶然だコノヤロウ!


 少女の名前は佐伯さえき 水鳥みずどりという。3週間前、突如として我が高校に転入してきたお嬢様である。


「おはよう佐伯。っていうか、俺はお前に名前で呼ばれる筋合いはないんだが」


「んもう、つれないですね、康太郎君は。でも、そんなところもまた――」


 そして俺のことを好きとか吹いてきた、とても信用ならない女である。


 コイツにちょうど一月前に呼び出され告白されたときに、俺はきっぱりと断ったのだ。しかも結構悪辣に。


 なのに、この女ときたら、そんなことはお構い無しとばかりに転入までしてくるという脅威の行動力を発揮したのだ。


 そして、振りまくトラブルの種……本当に妙なことになっているのだ。


「康太郎君、学校までお送りしますわ」


「遠慮しておく、つーかいい加減、俺に付きまとうの止めろ」


「嫌です」


 え、何その返し。ちょっと怖いんだけど。


「ともかく、俺は俺で学校に通うから。じゃあな」


 俺は自転車でベンツの入れない狭い路地から学校へ向かうことにした。    




~~~~~~~

~~~~~~~

 












 今日は一学期末のテストの順位発表の日である。


 我が校は進学校というだけあり、生徒の学業成績について公表することで競争心を煽って学力を伸ばそうという方針だそうだ。


 廊下に張り出された順位表の前にはそこそこの数の生徒が集まっていた。今日は割りと早く登校したってのに、先約が多いなあ。


 一番最初に目に付いたのは、不動の学年1位、穂波さんである。相変わらずだなあ。続いて学年6位の神木君だ。

 

 神木君は少し順位を落としたかな? でも上位陣はケアレスミスで順位が入れ替わったりする世界だしな。基礎学力では心配ないだろう。


 そして忌々しい名前、佐伯水鳥の名前をなんと学年8位に見つけてしまった。


 私立のセレブリティが通う高校出身だけあって、進学校のうちでも遜色ない学力はあるということなのだろう。


 ちなみに俺? 言わせんなよ、こいつらに比べたら一枚落ちるってのっての。器用貧乏なめんな。


「おはよう、コウ」


 後ろから声をかけてきたのは神木君である。


「おはよう、神木君。神木君6位だったよ、ほら」


 そう言って、俺は神木君のの書かれた場所を指し示した。


「ああ、本当だ。僕にしては上出来だね」


 またまた、ご謙遜を。いつもより調子が悪いくらいではないのかい?


「おはようございます、康太郎君、神木君」


「おはよう、佐伯さん」


「ちっ」


 来やがったな、佐伯め。


「コウ、流石にその態度は――」


 言うな、神木君、俺だって辛いんだ。無視できればそのほうがいいんだけど、そこまで俺は図太くない。

 

 だったら、嫌ってもらうほうがいいじゃないか、お互いにさ。脈なんてないんだから。そのほうがあとくされもないし。


「おや、私は8位ですか。まあまあですかね~。それでえ~っと康太郎君は……」


 なかなか見つけられない佐伯。それはそうだ、そんなところに俺の名前があるわけない。


「ほら、佐伯さん、コウの名前はあそこだよ」


 ステイ神木君! なに親切心を発揮してるんだ!!


「康太郎君は……35位……?」


 悪いかよ。俺の頭じゃソレくらいが限界だよ。ちなみに我が高は全部で1学年10クラス、1クラスあたり平均38人だ。


 全体の1割以内に入っているので、相対的には上の順位だ。だが、上位陣と比べれば歴然とした差がある。よって危ない成績ではないが、褒められるようなものでもないのだ。


「これで分かったろ、佐伯。俺が勉強できるってのは、ただの風評で、実際はこんなものだ。だからこんな俺は見限ってだな……」


「流石、康太郎君ですわ」


 えっ? 佐伯、お前何を言っている?


「各教科の点数を敢えて均等にするなんて、普通ではできませんわ!」


 ええええええええっ、なにそのポジティブ!? どうしたらその考えに行き着くの!?


「いや、それは単なる偶然っていうか、俺の器用貧乏が成せる業ってだけでな?」


「謙遜は美徳ですが、しすぎるのもだめですよ、康太郎君!」


 びしっと指を俺に向けて立てた佐伯。その妙な持ち上げはどうにかならんのか。


 おかげで俺の思考回路はショート寸前なんだが? もう会うのがつらいんだけど……?  





~~~~~~~~

~~~~~~~~










 放課後のチャイムと同時、俺は教室を飛び出した。佐伯を振り切るためである。


 目指すは図書準備室、最近の隠れ場所の一つだ。そこにはあの娘も来ることもままにある。


 そう、綺麗形の美人さん、不動の学年1位にもなっているクールビューティ、図書室の君こと、穂波さんだ。



<続く>

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