第14話 ハイパーブースター禁止令
お気に入り登録が50件を突破! やったね!
そしてとうとう文章・ストーリー評価にもポイントを頂きました ヒャッホウ!!
ついでにPVも15000オーバー ユニークが2000オーバーになりました。(まあ、携帯が仕様上)
いや~人が見てくれてるってテンションあがりますね!
よーし、これからもがんばって書くぞ~!
今後もよろしくお願いします。
6日目。
言葉をほぼ完全にマスターした俺に次に課せられた課題は、ある意味、俺のD世界におけるアイデンティティを打ち砕くものだった。
「コウくん、今日は何しよっか?」
お姉さんエルフのカーナさんが朝食を終えた俺に訪ねてきた。
今は髪を結い上げてポニーテールにしている。うなじエロい。
ちなみに俺への彼女たちからの呼び名が変わったのは、俺の言語学習においての練習相手になってくれた経緯がある。
何でもコータローという名前はカーナさん(とついでにアルティリア)には言いにくいのだそうな。
閑話休題。
「そうですねー……言葉の習得がまさかこんなのに早く終わるとは思ってなかったんで、何からすればいいか迷いますね」
そうなのだ。
D世界というファンタジーに叩き込まれた俺だったが、このファンタジーは言葉がまるで通じないというハード仕様。
通訳できる人がいるだけまだマシとは思うものの、俺の英会話能力を思えばその習得は、例え片言レベルでも数カ月はかかるだろう見込みだったのだ。
まあ、美人先生が面倒を見てくれると決まったし、無鉄砲に冒険がしたいと逸っているわけではないので、長い目で見ていたのだが。
そんな展望を崩したのは、げに恐ろしき存在超強化の存在だ。
数か月で片言レベルが、1日でネイティブ並みとは『いともたやすく行われるえげつない行為』にもほどがある。
しかし、言語習得という最優先事項が片付いてしまったことが、逆に俺に迷いを生じさせていた。
問題は山積みである。知識の習得、戦闘力の向上、当面の目的設定などなど。
特に戦闘力の向上は俺にとっては死活問題だ。
まだ触りしか聞いていないが、D世界にはモンスターと呼ばれる存在がいて、基本的に町や里の外に出れば死と隣合わせらしい。
存在超強化という鬼札があるとしても、こればかりは言語の習得と同じように扱っていい問題ではない。
戦闘力は、ありすぎて困ることはないのだ。
それだけに息せき切って慌ててとりかかってもしょうがない問題と位置づけているため、逆に最優先事項とはなっていない。
戦闘力の向上がそんな調子なので、あらゆる問題の優先順位は拮抗している状態なのだ。
「そうねえ、私としても存在超強化がこんな代物だとは思ってもみなかったし……」
うん、気のせいか? 今のカーナさんの言い方が妙に引っかかる……。
しかし、その疑問は次のカーナさんの一言で霧散する。
「それじゃあ、コウくん。これからしばらくは存在超強化は禁止ね」
気持ちのいい、人好きのする笑顔でなにかとてつもないこと言われてしまった気がする。
「えっ、禁止って、なんでですか」
「次のコウくんのやることを決めました。言葉を習得したとはいえ、それだけ意思疎通ができると思ったら大間違いよ! なので、今日から実践編。覚えた古代エルフ語で里の人たちと仲良くなることを目標にします!」
俺の問いには答えず、カーナさんは一気にまくしたてる。
だがなるほど、確かに言葉を覚えたのはあくまでスタートラインに立ったにすぎない。
問題は、この覚えた言葉でいかにエルフたちとの交流を図れるかということだ。
これからしばらくはカーナさんの家に厄介なる身だが、彼女の家に引きこもるわけにもいかないからな。
だが――
「お話はわかりました。 でもそれと存在超強化を禁止することと、どう繋がるんです?」
「え? だって存在超強化を使ったら、何かの拍子で里の人たちをヤっちゃうかもしれないでしょ」
ヤっちゃうって、いや、それって殺って書いてヤルってこと?
「い、いやあ、さすがに敵でもない人をやるなんてことは――」
「コウくんはそう思っていないかもしれないけど、向こうはどうかしら? 隙あらば、なんて思っているかも?」
「あー……」
思い浮かんだのは銀髪エルフの妹の方。
あ、部屋の隅で俺たちのやりとりを聞いていたアルティリアと目が合った。
「……何よ」
うわあ、すげえ不機嫌そう。
「いや、でもそんな不意打ちを受けるようなら尚のこと、存在超強化を禁止にするって危なくないですか」
「一理あるけど、それも訓練だと思って。固有秩序が使えない局面があるかもしれないし。まあ一応里の方には私から言っておくし、そんなことは起きないだろうけど」
不意打ち云々はあくまでも冗談です、といった風のカーナさん。
しかしその態度が逆に俺に心配を募らせる。
「まあ、なるべくうまくやってみます。ところで実践って言っても具体的に何を?」
そう問う俺にカーナさんはピッと一本、指を立てて、
「コウくんには、これから学校に行ってもらいます」
学校、だと……? まさかの学園編スタートなのか!?
そんな風に思ってたことが、俺にもありました。
もうあれね、D世界に来てから思わせぶりなことが多くないですか?
学校って言っても、その学校というのは里にはただ一つある、小さなもの。
そしてそこに通うのは――
「ほら、人間、悔しかったらかかってこいよぉ!」
ゲシゲシと俺の脛を蹴りながら、甲高い声で煽るソイツはまごうことなきエルフの男だ。
しかし背は低く、顔立ちは幼い。
「何してくれてんだ、クソガキがあああああ!!」
「うわー人間が怒ったぞー」
「逃げろーー」
風の魔力を身にまとい、自らの速力に変換して奴らは俺から距離をとる。
そう、俺が放り込まれたのは、学校という名の『ちみっ子達の巣窟』だったのだ。
エルフはその長命故か子供が出来にくい種族なのだが、ある時期、たまたま子宝に恵まれた数年間があったそうな。
故に、同じ年代の幼いエルフがこの里に多くいて、臨時で学校を開くとになったのだとか。
俺はそんなタイミングで現れたらしい。
彼・彼女たちは読み書きや簡単な計算は親元で習っているので、内容は歴史や魔法理論など、ちみっ子が習う内容としては随分と高度だ。
しかしながら、こいつらはエルフ。
若い肉体でいる時間が他の種族に比べると長い。
よって見た目はクソガキだが、俺よりも年上だったりする。
そりゃ、高度な授業だってわかるだろうよ。
ちなみに先ほどのやり取りは、屋外での出来事で立派な授業の一つ、『実践魔法学』の最中のものだったりする。
講義内容はズバリ魔法の実践だ。魔法はエルフの長所であり、生命線の一つである。
ま、R世界における体育みたいなものと考えればいい。
えっ、俺は魔法使えないんじゃないかって?
そうだよ、だから俺は魔法をうまく実践するための生きた相手役、悪い人間様役という仮想敵なわけさ。
今回は風の魔法の実践だそうで、今現在は追いかけっこの最中である。
あ、俺が追いかける側ね。人間の盗賊から逃げるっていう想定だ。
ちみっ子達の未成熟な体だと侮るなかれ。
魔法で強化された奴らのそれは、通常時の俺の能力を軽く凌駕している。
加えて、存在超強化を禁止された今の俺は、ただのインドアオタクである。
追いかけども追いかけども、奴らに触れることは叶わない。
固有秩序というD世界の俺を支える絶対の個性が、封じられた今、俺は、なんて……無力!
いやっていうかこれ、炎とかの攻撃魔法の実践とかだと詰んでないでしょうか?
「あっ」
必死にちみっ子を追いかける俺の脚がもつれて盛大に転ぶハメになる。
「「「「「あっはっはははははは」」」」」
その滑稽な姿を見て笑い転げるちみっ子たち。
倒れた俺の視界の端に、カーナさんと俺のお目付け役を自称するアルティリアが写った。
「ぷっ……くくく」
「あははは、ざまあないわね!」
二人とも御笑いになってらっしゃる。
お前ら、絶対鬼だろ。
エルフたちと仲良くなろう実践編は、波乱の幕開けとなったのだった。
第15話へ続く。
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