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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
第2章 エルフの里編
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第13話 九重康太郎の、いともたやすく行われるえげつない行為 




「だからね、アルティリアさん。毎度毎度言ってますが、大きな声で無理やり俺を起こすのはやめてもらえませんかね? 俺は貴女と違って繊細に出来てるんで」


 俺はむしゃむしゃと朝食のパンを貪りながら、銀髪妹エルフに抗議した。


「はん! 何言ってんだか。大体朝起きないコウがいけないんじゃない。それにね、アンタが繊細なんて冗談もほどほどにしなさいよね。カーナ様に叩きつけられてもピンピンしてるくせに」


 同じく朝食のサラダをもぐもぐ咀嚼しながら言い返したのはアルティリア。

 

 D世界での10日目、カーナさんと戦ってからすでに一週間が経過し、図らずも同じ屋根の下で暮らす彼女との関係もこうして適度な言い合いが出来るレベルにまでなっていた。


「おはよう、コウくん、アティ。 朝から仲が良いわね」


 仲が良いなどとのたもうたのは、庭園の水遣りを終えてコテージに戻ってきたカーナさんだ。


「カ、カーナ様、何言ってるんですか! いったいどこをどう見たらコイツと仲良く見えるんです!?」


「おはようございます、カーナさん」


「ちょっとコウ、何普通に挨拶してるのよ。アンタも否定しなさいよ」


 鋭く俺を睨み付けるアルティリアの視線を避けつつ、


「え~? だって事実じゃん。ね~、カーナさん?」 

 

 ね~、と声を合わせて同調する俺とカーナさん。


「な、な、アンタねえ!?」


 その美貌を赤くゆで上がらせるアルティリア。

 俺は既にアルティリアの扱いは心得ているのだ。

 ふっ、銀髪美少女エルフと言っても、チョロイもんっすよ。


 

「ご馳走様でした」


 まだ何かぎゃーすかまくし立てるアルティリアを無視して、俺は食器を片付けた。


「それじゃあ、カーナさん、朝のお勤め、行ってまいります」

「はい、行ってらっしゃい。午後からは訓練があるから、張り切りすぎないでね」

「はは、それは向こうに言ってくださいよ」


 俺は壁にかけてある茶色の上着を着込み、意気揚々と出かけた。


「こら、コウ! まだ話は終わっていな~い!!」 


 そんな俺の後をアルティリアが怒りながら――それは決して憎悪からくるものではない――追いかけてくるのだった。








 

 さて、そろそろ簡単にだが、この一週間を俺が何をしていたかを話そうと思う。

 

 いい加減、俺がなぜ彼女たちと普通に会話できていたり、名前の呼び方が変わっていたりすることに違和感を感じているでしょう?













 遡ること一週間前。R世界も合わせるとざっと2週間前になる。


 俺がカーナさんに師事したのは、兎にも角にもまずは『言葉』だった。


 コミュニケーションの手段がなければ、俺が『先』を求めることは不可能であると考えたからだ。


 そこで、カーナさんやアンジェルの使用していた翻訳魔法や念話を覚えることを検討したのだが、それらは現代の魔法の中ではかなり高度らしく、加えて念話は使える対象が限られているということもあり、習得はお勧めされなかった。

 

 さらに付け加えると、里の『外』でこんなのを使おうものなら高度であることとその希少性から、どこぞの組織や力ある個人に目をつけられかねないという。


 そうして正攻法に地道に覚えるしかないという結論にいたるのだった。


 

 

 ま、そもそも俺は魔力が生成できないという特殊な体質らしく、魔法そのものが使えないというオチがあったんだけどね!!

 

  

 

 さて実際にカーナさんには習ったのは、里でメインで使われている古代エルフ語とエルフの里を含むほぼ世界全域で通用すると言われている『グラント語』だ。


 このグラント語の存在が、翻訳魔法や念話が、より高度な存在となっていった原因の一つである。


 さて、グラント語について語るにあたっては、少々このD世界の歴史にも触れることになる。

 

 現在、D世界は大まかに4つの大陸に分かれているのだが、それら4大陸がかつて一つの巨大な大陸であったころにその大陸に住まう人類(エルフなども含む意思疎通が可能な他種族を含む)を統一した帝国があったという。

 

 

 その名もグラント帝国。

 

 

 その初代皇帝グラント一世がまず最初に行ったのは、人工言語、後のグラント語の開発と普及であった。

 

 当時においても各種族によって言語や文字には独自のものが使われており、意思疎通をするにしても、通訳を用いるのが常であった(当時においても翻訳魔法や念話は、使い手が少なかったということも付け加えておく)。

 

 そしてグラント帝国が成立した背景には各種族間の闘争の激化があったと言われ、コミュニケーションに難儀し誤解や軋轢が生まれていたのも原因の一つであったという。


 グラント一世は善政を敷いた賢帝とされているが、その彼をして、少なくない反対を押し切り、果断な強引さをもって進められたのが、グラント語の開発と普及だったのだ。



 そんなグラント語は、その時代の賢者たちの『永久にでも使えるように』という思いを込めた知恵の結晶ということもあって、遠い未来の現在でも公用語として使われている。


 

 もっとも今現在使われているのは、当時のグラント語そのものではなくて時代の流れにあわせて徐々に洗練された改良版で、地域によって訛りなどの特色もあったりするらしい。



 俺はそんなグラント語の読み書き・会話を日常生活で問題なく使用できるレベルまで1日でマスターした。

 

 

 えっ? そんなにグラント語は単純なのかって? バカ言っちゃいけない。

 幾千年も通じる言語ですよ? しかも洗練されたもんで、表現も非常に豊かだこと!

 

 外国の方が日本語を学ぶのに苦労するのがよくわかったというもの。


 

 そんな困ったときの存在超強化(ハイパーブースター)ですよ!


 

 存在超強化(ハイパーブースター)で強化された俺の思考や記憶力は、膨大なグラント語にまつわるあらゆる知識を瞬く間に咀嚼し、吸収し、俺の体に定着させていったのだ。


 ああ、この力、是非にR世界で使いたかった!! 


 そうすれば、日本で我が物顔で英語で話してくる外国人たちに対抗して、日本語でまくし立てて追い返すこともなく、有意義な国際交流が出来ただろうに!!


 いや、もうどこぞのダンボール大好きな蛇の人のごとく、マルチリンガルになるのだって夢じゃないのに!! 



 まあ、さすがに存在超強化を使いすぎたおかげで、その日の晩はずっと高熱にうなされていたわけだが。まさに知恵熱である。


 

 そして古代エルフ語も同じ要領であっさりと一日で覚えました。



 そんな風にしてあっさりと、本来あるはずだった誰しもが背負うあらゆる苦労と費やす時間を置き去りにして言語を習得するなど、なんて『いともたやすく行われるえげつない行為』であろうか。

 


 再三言うが、これがR世界で使えないことが、本当に無念だ。








 第14話に続く。




   

 

 

 






今回は設定回もかねており、少々短めでお送りしました。


感想・ご意見などお待ちしております。




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