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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
第2章 エルフの里編
12/113

第11話 Hな展開になるかと思ったが、そんなことは無かった

第10話の一部の表現や、誤字などを修正しました。



「俺は、旅に出ようと思っています」


(旅に……? その心は?)


「俺は、俺がここにいることの意味を知りたい。そのために、世界を回って情報を集めたいんです」


 そう、俺がアンジェルの仲介させてまでエルフの里に侵入したのは、そのためなのだ。


(…………)


 カーナさんからの返事がない。


「カーナさん? 何か……」


(コータローさん、貴方に命を奪う覚悟がありますか?)


「えっ……?」


 いきなり、何を物騒な。


(先ほどの戦いでも思いましたけど、貴方は他者を傷つけることに慣れていない。恐れているといってもいいかしら)


「うん? そう、なんですかね……?」

 

 慣れていないというのは、まあ分かる。

 だけど、恐れているというのは自覚はなかった。過去を振り返ってみても、暴力行為を働いたことはそこそこある。両者同意の上の喧嘩だったりだが。


「いや、でもほら。俺ってば結構こちらに来てから、やらかしてますけど。アンジェルとか、シオンたちとか、それにカーナさんにだって」


(それでも、相手には大きな怪我はさせてないでしょう?)


「ん、まあ。そうですね、結果的にというか。運がよかったというか」


(いいえ、運なんかじゃない)


 カーナさんは俺の言葉をきっぱりと否定した。


(私は、世界蛇様やシオンたちとの顛末を直接見たわけじゃないけど、それでも貴方と戦った私にはわかる。すべて貴方が意図して導きだした結果なのよ)


 …………。


(私のときでもそうでしょう? 私の障壁の強度をわざわざ確認したじゃない。 それはなぜ?)


「あれは……」


 ……言葉が続かなかった。至極もっともなことだ。

 なぜ、あんなことを聞いたのか? 

 それは、俺がどれだけやってもやりすぎないのだということを確認したかったからだ。 

 

 だから彼女の、あの程度ならいくらでもという言葉に俺は安心したと返したのだ。 

 

 理不尽さに怒りを燃やしていたにも関わらず。


 俺は、そのことについては答えることはしなかった。

 その沈黙を俺の返答と受け取ったカーナさんが、ゆっくりと話し始めた。


(貴方は、他者を傷つけることに恐れていないとしても、なるべくなら、傷つけずに治めたい。と考えているのは否定できないわよね?」

 

 俺はこの言葉には、首を縦に振って肯定する。


(貴方は、きっと平和な優しさのある環境で育ったのね。そんな貴方だから他者を気遣う優しさがある。それはとても尊いことだと私は思う)


 カーナさんは、けれどと、その瞳をスッと細めた。


(この世界は、貴方が生まれ育った場所とは違って、多くの危険を孕んでいるわ。いずれ、貴方は選択を強いられるわ)


「選択? どんな選択を強いられるっていうんです?」


 俺は薄々わかっていて、あえて彼女に聞いてみた。


(もちろん、命の選択よ。救う、奪う、犠牲を強いる……そしてその選択を誤ったときにはあなた自身の命が失われることになる)


 この夢は、剣と魔法のファンタジーな世界観だろう。

 そんな世界は、夢にあふれている一方で命は容易く奪われる世界だったりする。

 

 これも他聞に漏れずそうなのだろう。

ならばそんな世界を巡るということはだ。必然として命の選択する機会は、これからいくつも出てくるだろうってことだ。


(貴方はその優しさで、命を奪うべきときでもその命を救ってしまうかもしれない。でもそのとき、貴方はいずれ何らかの形で代償を支払うことになるのよ? だからそうなる前に私は問うているの。命を奪う覚悟はあるのかと)


 厳しいことを言ってくれる。けれど、こんな忠告もまた彼女の優しさから来るものだろう。

 

 俺はそんな彼女の優しさにありがたみを感じつつも、すでに用意してある答えを口にする。


「正直、その時にならないとわかりませんよ、命を奪う覚悟なんて」


 あくまでも軽く、さらっと。


「だけど、もし奪うべき選択を誤ったとして、そのしっぺ返しで俺の命が失われるとしたら……それは自業自得ってことでしょ。その結果を受け入れる覚悟なら、無くもないです」 


 思ったことを、ありのままに話した。

 それに彼女は誤解している。俺は優しくない。

 ほどほどに打算的で姑息な小心者だ。そして時に自分でも引くほど残酷にもなれる。

  

「甘いといわれればそれまでです。けど、すぐに変われるほど、器用でもありません。駄目ですか、それじゃあ?」


 どんな感想を持たれようとも、甘んじて俺はそれを受け入れよう。

 カーナさんは俺の答えに一つ嘆息して、


(覚悟があるなんて言ったら、それはそれで問題だと思うけど、今貴方の中に確かな答えがあるのなら、今はそれでいいわ)


 カーナさんの態度は、俺を責めるでも呆れるでもなく、泰然としたものだった。 


「……さっきの問いって、何か俺を試すとかそういったものじゃなかったんですか?」


 真剣味を帯びた声だったから、すこし身構えたものだが。

 だが彼女は、心外だと云わんばかりに言葉を続けた。

 

(私はただ、確認したかっただけですよ? 試すというなら、さっきの戦闘がそうですから)


 そうなのか、心配して損した。


(さて、これで治療は終わりました。どうです、まだ痛むところはありますか?)


 彼女が俺にかざしていた手を下ろした。


 痛むところは無い。なんというか、ぽかぽかします。血行がよくなっているのだろうか。

 心なしか、以前よりも体が軽い気がする。


「いえ、むしろ前より調子がいいくらいです」


(そうですか。それで、貴方の今後についてですが)


 おっと、いよいよ本題だ。彼女が教師役を引き受けてくれる云々が、そもそもの話だったはず。


(まずは最優先で言葉のほうを勉強しましょう。ずっと私が通訳しているわけにもいきませんし)


 俺としては一向にかまわんがね!!


(あと、こちらの文化等の常識と呼ばれるものを中心に、浅く広く教えていくつもりです。あまり先入観を持たれてもよくないと思いますし)


 ありがたい。エルフの里に侵入した甲斐があるというものだ。


(そして、それらに平行して、貴方に戦闘技術の基礎を鍛えちゃおうと思っています)


 にゃんと、そんなことまでしてくれるのか。


(今の貴方は、固有秩序と生まれ持ったセンスだけで戦っています。それでも十分すぎるくらいだとは思いますが、私が思うに、貴方の力はムラがありますし。選択肢も多いほうがいいでしょう?)


 さすがの洞察力というべきか。確かに、今の適当なやり方では底が知れるというものだ。


「わかりました、願っても無いことです。是非によろしくお願いします」


 俺はうやうやしく頭を垂れた。


(クスクス、はい。こちらこそ) 


 彼女もお返しにと、頭を下げた。 こちらにもお辞儀の文化はあるのだろうか?

 そんなことを思った俺だが、次に彼女から出された提案に俺は衝撃を受けた。


(そうだ、今日から私の家で寝泊りすればいいわ。そのほうが色々手間がかからなくていいし。ね、そうしましょ?)


 飛び切りの笑顔でそんなことを彼女はのたもうたのだ。

 

 ……なんですと? それってつまり、同棲ってことですか?















~~~~~~~~~

~~~~~~~~~
















 ええ、ええ、最初はこれはもうHな展開になるかと思いましたよ。

 

 だけどそんなことは無かったぜ。所詮は俺の夢だ、甘くは無い。

 

 あのあと、エルフの里長に事の顛末と俺の安全性の保障やら、カーナさんが俺の身元の引受人をするなどのことを報告に行ったのだが。


「アンタが! カーナ様と! 二人きりで! 冗談じゃないわ!!」


 などと一緒に報告を聞いていた銀髪エルフ兄妹の妹のほうが吠えたそうな。

 当然俺には、罵詈雑言を言われてるんだろうなあ、ぐらいしかわからなかったが。


 後で知ったことだが、カーナさんが賢聖と呼ばれるくらいすごい人で、アルティリアはそんな彼女を尊敬していたりしたそうな。


 そんな憧れのお姉さま、カーナさんが俺のような破廉恥男と一緒に住むなど我慢ならなかったという。


 「アンタ、カーナ様の優しさに漬け込んで、何かよからぬことをする気でしょう、そうに決まってるわ!!」


 断定しやがった。まあ、上の台詞はあくまで想像ですが。きっとそんなことをあの女はいったに違いない。

 言っとくが俺にそんなことをするつもりは無い。そんな度胸があったら、昨日の段階でお前を手篭めにしとるわ。


 まあそんなひと悶着があって、結局俺のほかにアルティリアもカーナさんの家に一緒にすむことになった。

 悪いね、シオン兄様。妹さんをとっちゃって。



 しかしそのせいでベッドで眠れるはずだった俺は、床に簡易マットレスの生活と相成った。

 まあ、敵でもない女性にはそれくらい譲る優しさはあるのさ、俺だって。



 さてさて、こうして俺の激動の夢生活三日目が終了となったわけで。


 最後に、これまでの出来事を振り返ってみる。

 初日は食われて終了。

 二日目はでかい蛇と殺し合い未遂。

 三日目はSっぽい美人とのバトル。


 ……なんて濃いんだ。日常なんてあっという間に過ぎ去るものじゃなかったか?


 ま、おかげで目を瞑ってから意識がなくなるまでが早い早い。


 やっぱり疲れがたまっていたんです……ね……。














~~~~~~~~

~~~~~~~~





 


 

  



 





 ~♪ ~♪ ~♪




 鳴り響く携帯電話のアラーム。聞きなれたけたたましい音だ。



「はい……安心の夢オチでしたよ、と」


 むっくりと起き上がった俺は、寝ぼけ眼で辺りを見回した。

 詰まれた漫画にライトノベル。

 壁にかけられた制服。

 やはり、いつもの俺の部屋だった。

 

 2度あることは3度目もあった。

 ならばもう、俺は今後もあの夢を見続けると考えてもいいだろう。

 

 それにしてもあのリアリティ。明晰夢だとしてもやりすぎな位だ。

 物語に出てくるVRゲームとはあんな感じなのだろうか。

 

 だとすれば、物語の登場人物たちが一様に興奮するのもわかる気がする。

 いうなれば、あの夢やVRゲームは、自分を主役とした大げさなロールプレイを可能とするデバイスなのだ。


 こうなったらもう夢だ夢だと、どこか冷めた気持ちは、この際どこかに捨て去ってしまったほうがいいか。

 

 せっかくなら楽しもうじゃないか。  


 どんなことでも楽しんだほうが、結果はよくなるものだ。





 無論、あの夢の正体を見つけるにしても、だ。





 








(さて、ちょっと本気になってみようか、九重康太郎) 



 俺は静かにそう、決心したのだった。

 


~~~~~

~~~~~


第12話に続く

 

 

 

これに見て三日目終了でございます。

感想・ご意見、お待ちしております。

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