表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/113

エピローグ 果てまで続く青春


みっちゃん(・・・・・)、醤油とって」


「はい、康太郎さん・・・・・


 目玉焼きにかけるのは醤油派の康太郎が、向かいに座る水鳥から醤油を受け取った。 


 ……。


 お分かりいただけただろうか。

 

 九重康太郎と佐伯水鳥。この二人、なんと現在同居の身の上である。

 

 時は、康太郎がD世界との地球の切り離しに成功して既に一年近くが経過し、康太郎たちも大学受験を控えていた。

 志望校は、日本の最高学府である。

 D世界に行く前はよくて旧帝大が、大きく出たものである。

 ちなみに水鳥や、神木、穂波なども志望校は同じだ。

 この年の卒業生が頭一つ抜けていると後に言われるのはさておき。


 D世界切り離しの頃から程なくして、康太郎と水鳥は交際を始め、そのうち半ば家出同然の押しかけ女房のような形で康太郎の家に住み始めた。

 理由はお察しのところの家柄だったり格の違いとやらだったりだ。康太郎と付き合うことは、水鳥にとっては本懐であると同時に茨の道でもあったのだ。

 実家への捨て台詞に「遠くない未来、あなた方の方から頭を下げることになるでしょう」と言って出てきたそうな。

 だが実のところは、それほど水鳥と実家の関係は悪くは無い。

 何しろ、先祖がえりと噂される先見の明を持つ水鳥が見込んだ男が康太郎だ。

 既に身辺調査も終えており、その驚愕の経歴から、どんな形にせよ重要人物になることは目に見えている。それを抱え込めるのだから、彼らにとっても悪くない話なのだ。 

 

 最初はなんて無茶をと、同居には否定的(趣味の時間を邪魔される)だった康太郎も、なんだかんだで未来の嫁との仮想同棲生活を楽しんでいた。

 さもありなん。自分自身がリア充になったがゆえの掌返しというやつだ。


 もっとも、問題が無いわけではない。

 穂波やキャスリンは虎視眈々と康太郎を狙っているようではあるし、顔を合わせれば毎回修羅場だ。

 神木は何かあるたびに水鳥を小姑のように責めている。どうも二人を分かれさせたい魂胆があるらしかった。


 他にも数々の誘惑やら波乱があるものの、そこはそれ。康太郎も水鳥も一途故にそうそう不仲になることは無いだろう。

 ただ、康太郎はようやく、自分は女難の相があると気付いたらしい。そこはお前、女性陣と何度も殺し合いに発展している段階で気付くべきだろう。

 

 さて康太郎も最初はかなり嫌っていた水鳥も、今ではすっかり受け入れ、水鳥が言うところの既成事実まで作る始末であった。

 なんのことはなく、蓋を開ければ二人の相性はよかったからというのだから、わからないものである。



 Lululu……。


 康太郎の携帯電話に着信が入った。

 今ではすっかり見慣れたその番号に嫌な予感がしながらも、康太郎は通話のボタンを押した。


「はい、九重……はぁ? リョウメンスクナが封印を解いて暴れだしてる? 知るかそんなもん……だからって、受験を控えた高校生を引っ張るなよ……わかった、ギャラはいつもの3倍な……いいのかよ、わかったよ。やってやるから、高校への連絡とかは任せたぞ」


 若干イラ付きながらも、康太郎は通話を切った。


「康太郎さん」


「ん、また呼び出しだよ、まったく困ったもんだ」


 康太郎は一息にコップに入れていたコーヒーを飲み干すと、やおら立ち上がった。


「今日の勉強会は中止。ちょっと片付けてくる」


「わかりました……でもはやく帰ってきてくださいね」


「当然」


「それと、あの狐娘に決してかどわかされることが無いように」


「心配性だなあ、俺はみっちゃん一筋だよ」


 康太郎は困ったような笑みを浮べ、水鳥は少しすねながらも、目を閉じて少し顔を前に突き出していた。

 察した康太郎は、水鳥に顔を寄せ、二人は軽く唇を合わせた。 


 リア充爆発しろよもう。



 


***


 

「さて、行きますか」


 現在康太郎は、妖怪の世界に足を踏み入れていた。

 一度他の世界の境界を踏み外した者は、以後も踏み外しやすくなるとは、康太郎の知り合いの烏天狗の言葉だ。


 夏に妖怪の世界に足を踏み入れた康太郎は、現在では悪妖怪や荒御霊を修祓する妖怪バスターみたいなことをこなしていた。

 康太郎は、彼らの世界で言うところの現人神もしくは神霊のたぐいと目されているようで、何かと康太郎を頼ってくるようになっていた。

 日本政府にも認められているこの活動は、ギャラも破格である。

 それこそ金欠気味な高校生には考えられないほどの。

 

 康太郎も現金なもので、ギャラに目がくらんでいるところがある。

 行く先々で出会う美人妖怪娘たちと適度に親交を深めつつ、康太郎は今日も、人知れず空を駆けている。


 結局、D世界という青春が終わっても、康太郎の人生は騒がしいものであるらしかった。

 

 二つの世界の行く末を変えても、青春が終わっても、康太郎の人生は続く。


 騒がしく波乱に満ちた人生を、康太郎はこれからも青春と同じように、駆けて行くだろう。


 まどろむ愚者は、夢から醒めても愚者であり続ける……これはそんな九重康太郎という少年の物語。 

 




これにてD世界完結です。ありがとうございました。後日、あとがきを掲載予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ