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まどろむ愚者のD世界  作者: ぱらっぱらっぱ
最終章 遥か蒼のD世界
109/113

第?部 第??話 まどろむ愚者の■■■(後編)




「…………ゆっくりじっくり、焦らず、丁寧に」


 膝を抱えながら小さく呟くアルティリアの視線の先にあるのは、跪き、頭を垂れるようにして蹲っている闇で出来た人型だ。


 この人型こそが、康太郎だ。

 今の康太郎は、カーズ・ライズ・ペインによって、アルティリアの闇に取り込まれ、ゆっくりと身体に闇を取り込んで行っている。

 その闇の中で、康太郎は記憶遡行を行っているはずだ(・・・)

 アルティリアは、こちら側の世界にやってきてからの全ての時間を康太郎に追体験させているのだ。


 ただしそれは、アルティリアによる願望が混じった、補正がかかった追体験だ。

 

 闇が完全に康太郎に馴染んだそのときは、康太郎は元の世界への執着をなくした完全にD世界の住人となるだろう。

 

 精神へ介入し、記憶から根こそぎ操作してしまうという点で、キャスリン=グッドスピードの固有秩序の第二段階と類似している。

 キャスリンのそれは彼女自身の精神と同調させる。言うなれば、記憶の追体験に、彼女自身が没入するというものだ。


 だが、アルティリアの操作はあくまでそう仕向けているだけに過ぎない。

 彼女は康太郎がどのような形で追体験をしているかまで知ることは出来なかった。

 

 だから、アルティリアは知らなかった。

 キャスリンならば間違いなく気付き、最優先で消していたであろう記憶を。

 D世界に帰順させるのであれば、絶対にあってはならない(・・・・・・・・)、ある人物の記憶を。 

 あらゆる事象を観測する奈落の獏でも、人の内面を見透かすことは出来ない。

 ある程度の類推は出来ても核心には至らないだろう。


 故に、アルティリアがどれだけ康太郎の中のD世界への想いをその記憶に負けないほど高められるか。これはそういう勝負だ。

 ただし、アルティリアは、一度でうまくいかずとも諦めたりはしない。

 康太郎が復活するたびに、何度でも屈服させ、何度も記憶を改変してやろうと思っていた。






***

 

 

 

 ショタっ子拾った。

 前島に友達のドラゴンが奪われたとかなんとか。

 なんかこう、身につまされたというか、妙に同情してしまった。

 そんな心情的な動きも合ったが、打算もあった。

 前島はどうやら魔物を従えるオリジンを持っているようだから、取り巻きが沢山いることになる。

 だとすると露払いは必要だろう。

 どうも見込みは有りそうだし、アティと一緒に鍛えてやることにした。



***


 トラックにはねられて生き返った俺の身体は、当然というかおかしかった。

 髪と目の色は蒼くなるだけに留まらず、D世界の力が使えるようになった。

 

 シャレになってねーし!

 現実に超人がいたら浮くに決まってるし!

 というか蒼い髪の時点ですげー悪目立ちしてるのに!

 やっぱ日本人顔には蒼は似合わんよな……

 

 とりあえず、前島には聞かなきゃいかん事が多すぎる。



***


 アグレッサーとしてアルティリアとショタっ子ことドラゴニュートのシンの相手をして早くも一週間。

 なかなかいい仕上がりではないか。

 俺の譲渡によるブースターがかかれば、防衛戦の立ち回りなら王種にも引けを取らないだろう。

 俺のコーチがいいんだな、うん!

 


 さて、ぼやっとしてると冒険者が連合組んでキャスリンを攻めるので、その前に他のみんなを出し抜いてやろうか。




***



 ミサイル!? ICBM!?


 ふざけろクソがアアあああああああああああああああ!!!!!



***



 もう一人いやがる。

 間違いなく、D世界には俺と前島以外に、確実にもう一人R世界の人間がいる。

 現代的な大陸間弾道弾を持ち出してくるのは、俺達の世界の人間しかいない。

 加速度的に事態は進行して行く。

 だからまずはなんとしても、前島こと、キャスリン=グッドスピードを確保しないとな.


***



キャスリン、マジ強ええ……、つうか、やりにくい。

 よりによって合気……AIKIだと!?

 ふざけやがってなんだそのインチキくせえ武術は! 

 そもそもの話、オリジン無しで(・・・・・・・)オリジンで強化されている俺とタメ張る(・・・・・・)ってどういうことだ!

 俺の立場がねえぞ、どうなってる!?

 だからこそ、このままやられっぱなしでいられるか。

 ドラゴンスクリューを決めてやる!




***



 心にもぐり、心を解き、心を結ぶ。

 本当は弱いから、小さいから――だから私を守れ。

 一部の叛意も許さない、身も心も捧げて私を守り通せ。

 それがキャスリンの固有秩序の源流だ。

 彼女の固有秩序を受けた俺には理解できた。

 叶わなかった、叶わないはずの関係を構築しようとすることは、届かない理想を思っていた俺にも少しは共感できるものはあった。

 だけど、届かなかった過去を無かったことにできない。

 過去に蓋をして、嘘で上塗りしても、いつか必ず露出してその歪さをあらわにするだろう。

 俺達に出来るのは、届かない理想に少しでも近づこうと今を努力することだけだ。


 だから――この女には負けるわけにはいかない。



***



 キャスリンを倒したところまでは良かったが、キャスリンに操られてノコノコやってきたアンジェルと戦う破目になってしまった。

 正確には、操られたことに激怒してキャスリンを殺そうとするアンジェルを止めようとして、だが。

 蛇としての本来の姿を捨てて、プライドをかなぐり捨てて向かってくるアンジェルはまさに神がかり的に強い。

 

 血で血を洗い、正面から互いの力をぶつけ合う。

 今じゃ仲良くなっているが、俺にとってアンジェルは初めて俺を殺した因縁の相手だ。

 アンジェルに負けることは、死を意味する。

 俺はもうD世界で死ぬわけには行かなかった。

 D世界がただの夢ではないと確定した以上、安易に死ぬことは許されない。

 今までがそうだったからと、これからも甦る保証は何処にもないのだから。



 

***



 左手を食われながらもアンジェルをなんとか倒したと思ったら――アルティリアがさらわれていた。

 どういうことやねん。

 


 ばたん。



***

  

 アルティリアはどうやら帝国の特殊諜報部隊とやらにさらわれたらしい。

 意外にも心にぽっかり穴が開いたような、何かが抜け落ちたような、この喪失感。

 ああこれは、俺も随分とアイツに心を砕いて預けていたらしい。


 おーけー。さらったそのナントカとは徹底的に戦争だ。

 アティは必ず、助け出す!!



***


 

 ……どうにも、あの気持ち悪いあの女、佐伯水鳥を俺は無視できなくなっている。

 慣れというのは怖いもので、いまやすっかり、俺のパーソナルスペースに、あいつがいる。

 とはいえ、本当の一線は越えたりしないのだが。


 なぜなら俺は、ほなみんにほれているのだから。



***



 ほなみんにフラれた。


 脈ありとか調子乗ってすみませんでしたwww


 もうD世界とかどうでもよくなってきた。



***

  

  

 D世界にいけなくなった。


 WHY? 急にどうして?


***

 

 

 D世界にいけないわ、ほなみんにふられるわ、どうなってんのマジで?

 俺からこの二つを取ったら、なん~も残ってないんですけど?

 空っぽすぎるぞ、俺。


 そういえば、佐伯のやつが、俺の前に姿を見せない。学校には着ているみたいだが。

 アイツもようやく俺を見限ったか?

 まあ、静かになっていいじゃないか。



 ……でも静か過ぎる気はする。寂しさすら覚えてきた。なんでだ?



***


 

 いろいろ考えて、もう一度ほなみんにアタックすることに決めた。

 最初の時は、やんわりと断られただけだった。

 だから、もっと積極的に、押そう。

 本心を聞くんだ。

 フラれるのだとしても、これでもかと言うほどに想いをぶつけた結果なら――。



***



 やっぱダメでしたーーー!!


 泣いてやるーーーーーーーーー!!



***



 スッキリしました(意味深)

 クラスの連中にも陰鬱な空気をどうにかしろと言われてたし、神木君にも白い目で見られていたし、残念だけど、これでよかったんだ。

 

 本気で恋をして、本気で駄目なら……本気にならずに後悔するより、ずっといい。


 

 ……そういえば、佐伯の奴も久しぶりに会った気がする。

 相変わらずといえば相変わらずだが、どこかほっとした感じがする。



***


 ほなみんの問題が片付いたので、次はD世界へアプローチをかけようと思う。


 D世界で旅をしていたもともとの目的は、どうやったらD世界ヘ行かずに済むかということだった。

 だけど、今こうして実際にいけなくなって、俺は痛感したんだ。


 俺は、あのD世界が大好きなんだということを。

 あの世界で旅をして、冒険することに心を躍らせていたことを。


 言うなれば、あの世界は何も持たない俺が得た貴重な高校時代を捧げる大切なもので……青春そのものと言っていいのだろう。


 そんなD世界との繋がりを、こんな唐突に終わってしまうのは、納得できない。

 終わらせるなら、俺自身の手で(・・・・・・)納得して(・・・・)終わらせたい(・・・・・・)

 これが、俺のD世界への気持ちだ。

 

 だから、そのためにはどんなことでもしよう。

 犯罪まがいのことだろうが、誰かに迷惑をかけようが、関係ない。


 俺は、俺のD世界・・・・・のために、動くんだ。



***


 地球で天式無拍子を使ってアメリカに不正入国。そっこーで、キャスリン=グッドスピードを見つけて拉致してやった。

 案の定、向こうもこちらのことをはっきりと認識してたから、ビンゴって奴だ。


 そして明かされるD世界についての情報。

 ADS、Dファクター、ネイティブ、グランド……。

 異世界の資源を現実的に狙っているなんて、御伽噺も笑っちゃうレベルの話だが、奴らは極めて真面目で、それどころかD世界に付いての研究は、世界中のあちこちの裏で進められているらしい。 

 

 とりあえずこいつらも潜在的には敵確定だ。

 俺のD世界に手出しはさせない。

 

 だが、今だけは、こいつらの力を利用する。

 おれ自身を実験台として提供し、D世界への転移を試みる。


 ADSシフターと呼ばれるカプセルに乗り込み、俺は、D世界へ――。

 


***



 エネルギーの境界と次元を越え、俺はD世界へ到達した。

 今度は、魂だけではなく、身体ごと……それはまさに、D世界が夢の世界ではない、現実に存在するものとしての証だったが、そんなことよりも俺の心は、D世界を感じることが出来た喜びで満たされていた。


 ありったけの思いを、声にして出したらD世界が少し揺れた……まあ、大目に見てやって欲しい、

嬉しかったんだから。



***


 

 さて、落ち着いたところで、俺はアルティリアを取り戻すべく、帝国へ飛んだ。

 もう迂遠な手段は使わない。

 一番上へ直談判してやる。


 そして俺は帝国皇帝を脅しつけるようにして面談し、帝国特殊諜報部隊へのコンタクトをとることに成功した。


 そこで肝心のアルティリアは既に解放されていたという事実を知るのだが、それで話は終わらない。


 帝国特殊諜報部隊の隊長マスターは、俺のかつてというには早すぎる元・想い人、ほなみんこと穂波紫織子だったのだから。




***


 

 D世界に対する思いが、俺と穂波さんでは、まったく異なっていた。

 俺が大好きでしょうがないD世界を、彼女は心底恨んでいた。

 そんな俺達が対立するのは、必然だったといえる。


 彼女の固有秩序オリジン、想ったものを作り出すマテリアルマスター。

 俺は彼女の圧倒的な力に押され、だからこそ気付くことができた。


 俺の固有秩序オリジンの本当の力を。


 俺の本当の固有秩序オリジンは、身体能力強化ではなく、「理想」へ身体を作り変えるD4ドライブ。

 D4ドライブの力を使い、彼女の思いの全てを受け止めつつ、俺は彼女に勝利する。

 

 そして……D4ドライブを使って、俺は彼女の魂をD世界と完全に切り離すことに成功した。

 これで彼女がD世界に対して関わることは、もう無い。

 

 そして、彼女の境遇が、俺の、D世界との納得できる終わり方を決定付けたんだ。

 

 

 

***




 俺は地球で工作をする一方で、D世界では隊長の空いた帝国特殊諜報部隊の隊長になり、D世界から、地球からの干渉を断つ活動を始めた。

 Dファクターやネイティブを、見つけては送還し、二度とD世界に関われないようにしていく。



 そして……。



***




 そして俺は、D世界を守る守護者となる。

 アルティリアや、他にも知り合った連中と連携して、俺は、俺のD世界を守っていくんだ。


 この宝物の、この世界を。



 まどろむ愚者のD世界……<完>









 ……。



 …………。



 ………………。



 ……………………。



 …………………………。



 ………………………………。



 ……………………………………。



 …………………………………………。



 ………………………………………………。



 ………………………………………………………。



 ……………………………………………………………。



 …………………………………………………………………。



 ………………………………………………………………………。



 



 ――康太郎くん。クリスマスの日を、私にください。



 彼女のその勇気を、一途さを、俺は尊敬したんだ。


 


 

***



「えっ」


 アルティリアは目をむき、思わず声を上げた。

 闇の人型となった康太郎の闇がひび割れ、光が漏れ出していたからだ。

 ひび割れはどんどん増えていき、光もまた、強くなっていく。

  

「そんな、どうして」


 アルティリアは、力を向けて闇を強化した。

 だが駄目だ。修復しても修復しても、すぐに闇から光が漏れ出していた。


 そして――。


 硝子の砕けるような音と共に康太郎の背中の闇が裂け、そこから、闇に染まっていない康太郎が飛び出した。


 その様はまるで、さなぎから羽化する蝶のように見えた。


「コウ……」


 闇から抜け出た康太郎には、少しだけ変化があった。


 髪が黒くなっていたのだ。


 それは、闇に染まった証だ。闇に染まった康太郎は、改変された理力を現すかのように、蒼から闇の色へと変じていた。


「違う……こんなはずじゃ」


 だが、ちがったのだ。

 康太郎の髪は、黒にはなっていなかった。

 正確に言うならば、鮮やかな蒼の色がより濃くなったため、黒と見間違えたのだ。

 あえて言うなら黒味を増した深蒼の髪。


 康太郎はキョロキョロと辺りを見渡す。

 そしてアルティリアの方を向くが、


「ッ……!」


 まるで、アルティリアのことを興味が無い言わんばかりに、無関心な瞳であった。

 そして興味を抱くことなく、すぐに視線を逸らした。

 今まで死闘を繰り広げていた彼女から、康太郎は視線を外したのだ。


 それは、アルティリアの心に楔を打ち込むのに、十分な効力を示した。





***



 ああ、さっきまでの走馬灯のようなアレは、アルティリアの仕業かと、康太郎は得心した。

 そしてだからこそ、あそこまでありえない結末を迎えたのだと。

 アルティリアはD世界への思いを強くすることで、康太郎の心変わりを誘発しようとしたようだが、それは完全な誤りだ。

 D世界への思いを強くするほど、康太郎はD世界への決別の思いを強くするのだから。

 

 宝物のD世界。青春のD世界。

 そのD世界を一番ゆがめているのは自分自身だと認識したとき、康太郎の腹は決まった。

 自分を含む全ての地球からの干渉を断つ。

 大切だからこそ、自分がゆがめてしまわないよう、自分の手が届かないところに置くのだ。

 

 そしてもう一つ。

 それは佐伯水鳥の存在だ。

 D世界にすべての決着をつけた後は、彼女への思いに応えるとという大事なイベントがあるのだから。 


 穂波に本気の恋をした今だからこそ、水鳥の思いも理解できる。

 そして彼女がどれだけ、すごい女であるかということを理解できる。


 勇気を出し続け。決して諦めずに、想いを貫く。

 それは並大抵のことではない。

 康太郎は尊敬する。佐伯水鳥を尊敬する。

 彼女がずっと康太郎に向けた想いは、かけがえのないものだ。

 水鳥がずっと康太郎を見ていたというなら、康太郎もその分、水鳥を見ていた時間があったということ。

 ああ、だから、今更で申し訳ないのだが、穂波に恋をしていたのは嘘ではないが……


 ――実は前から、俺は、君のことが、大好きだったんだ。

 

 だから、約束を果たそう。

 果たされなかった約束を、埋め合わせよう。

 けじめをつけるために。

 今更だと、虫がいいと、振られようとも構わない。

 それだけのことを自分はしていたという自覚はあるから。

 でも、だからこそ、今度は康太郎から、貰ったものを返したいのだ。

 

 

 ああ、そうだ。そのためにも、ここで倒れているわけには行かない。

 俺は、D世界の全てと決着をつけて、水鳥に会う。


 そのために必要なことはなんでもする。何でもやる。どんな自分にも成ってやる。

 理想とか、そんなんじゃない。

 ただ、俺がやりたいことのために。彼女に想いを伝えるために。


 さあ、この闇から抜け出そうか。



――D4ドライブ・Determination、スタート。



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