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黒色のクッキーとあいつ

明日はチェスの昇段試合の日である。

重要な日の前に強い人と打ってもらうのはよろしくない。消耗するべきではないのだ。

こんな日は『あいつ』と軽く指して早めに寝てしまうのが良いだろう

うん。そうしよう

僕は人波を歩くときはチェスや『あいつ』のことを考える

道ですれ違う人はきっと、僕とは関係のない人だからだろう

長い人ごみをかき分け、ようやく我が家に帰ってきた

「ただいま」

「おかえり。今日は早かったね」

当然だ。今日は師匠の勉強会に行っただけだ。やつらは僕が明日昇段試合なのを知っているから厄介払いの如く追い払われた

「なあ、ちょっとチェス指さないか」

「嫌。だって全然勝たせてくれないのだもの」

「手を抜いてやるから」

「……結局負けるからいやだ」

仮にもプロが素人に負けたらダメだろ。本気でやって負けたら僕の存在価値はない。「はいはい」と返して一人で寂しくコンピュータのつよいと寂しく打つことにした

「ねえ、晩御飯食べる?」

「うん」

やっぱり二人で楽しく晩御飯を食べることにした

朝日がのぼり、目が覚める

昨日は食べた後そのまま寝てしまったのだっけ。昇段試合の日なのに呑気な回想だと独り笑む。

起き上がると下手くそな絵と一緒にクッキーと「食べてね。あと、頑張って」の文字があった

ラップに包みポケットにいれる

僕はゆるんだほほを叩き、試合会場へ向かった

試合は少し緊張していた割にはすんなり進んでいた

相手も苦しそうだ

「っふ、ふふふ」

「…?!」

そこはダメ

僕が余裕をもって攻めていた駒の役割が分断された

動揺は隠しきれず僕は休憩室に逃げた

反射でポケットに手を入れると割れたクッキーが入っていた

『あいつ』を思い出して少し落ち着く

自販機でコーヒーを買って、一緒に食べた

苦かった

それはそうだろう。焦げているんだから

小さく深呼吸し盤に戻る

見えていなかった道が見えてくる

キングを進める

「あ!!」

相手の顔が歪む

それでも僕のように逃げないのだから立派なものだ

冷静に分断された駒を狩られ、結局はスリーフォールド・レピティションに落ち着いた。要は引き分けだった

外に出たら日も落ちて代わりに星があたりを照らしていた

電話帳の1番上に登録している『あいつ』に電話を掛ける

「もしもし」

「もしもし、今日の勝負な、スリーフォールド・レピティションだった」

「スリー…レビション?」

「要は引き分けだった」

「そっか。惜しかったね」

「惜しくない。少しいい手を指されたら動揺して」

「うん」

「そのあと、頑張ったけど厳しすぎた」

「頑張ったね」

「クッキーが無いと負けてたかも、いや負けてたはず」

「だったら、今日は私の勝利だね。ところで」

「ん?」

「美味しかった?」

「苦かった……でも、嬉しかった。……ありがとう」

僕は何か成長できた気持ちになって大人げなく鼻歌を歌いながら帰った。『あいつ』が言うにはそういう事をするのが未熟で、可愛げがあるところらしいけど


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