私は君の星空に……
夜空を見上げる。満天の星空を見上げながら誕生日を憎みながら飛び降りた。ここで消える方が家族にとっても世界にとっても絶対にいいと思った。僕は人とは違うから「バケモノ」や「存在しない方がいい」などと言われるだけなのだから、もういいだろう。
落ちながら思うことは”普通“でいたかった。
僕が普通であれば友に『天才には俺の努力なんて分からないよな。努力もしたことないバケモノは何も言わないでくれ』と言われずに済んだのかもしれない。
普通を知っていれば家族に気味悪がれなかった。
知っていれば母から『どうしてアナタみたいなのが産まれたの?』と言われなかった。
僕の人生では似たようなことばかりのことを言われ続けた。もう疲れたんだ。
生きることも天才でいることも何かを学ぶことも……全部全部疲れたんだ。
家族として愛してもらったことも友として友情を向けられていたことも分かっているから感謝しているんだよ。ただそれよりも……辛いや苦しいの方が多いんだよ。
だから今落ちているんだよ? 僕が生まれた日に飛び降りているんだよ。みんなはどう思うかな? なんとも思わないか。
「あぁ……死んだら星になれるかな?」
地面に当たったのだろう。意識が消えた。痛いも苦しいも悲しいも何もない暗闇に沈んだ。これで終わるんだ
って思っていたのにどうしてか目が覚めた。まだ星空が見えるから驚きだった。身体の痛みが少し楽になるまで地面に倒れたままでいた。
楽になって身体を起こしてみるがすごく痛い。団地の3階くらいから飛び降りるのでは死ねないみたいだ。6歳になったばかりで身体がまだ幼いから頭から落ちればいけると思ったのに。
はぁ……さっきの独白が恥ずかしい。近くに公園があるからそこのブランコにでも座ってどうしようか考えよう。
「ねぇそこでなにしてるの?」
声がした方を見て一瞬天使がいるのかと思った。もし彼女が天使だとしたらここは天国で僕が都合のいいような世界を見ているのだろう。
「・・・ブランコを漕ぎにきた。君は?」
「ほしをみにきた」
「好きなの?」
僕は無意識にそう言ってしまった。どうしてそんなことを聞いた? 純粋に心が弱っているからなのか? 関わらないようにした方がよかったはずなのに、どうして。
だってこの辺なら僕のことが有名で誰も近づいてこない筈だからなのかな。
・・・誰かと見る星空ってのはいいかもな。
「すき。ゆめがあるの」
「どんな?」
「てんぶんがくじゃ」
ん? てんぶんがくじゃ? 天文学者かな? 同じくらいの年齢に見えるけど、一体いくつな訳? よく年齢を聞くのは失礼だと聞くけど、この場合はいいのかな? ダメなのかな。
「あ!ツナのだいさんかけ」
「夏の大三角形では」
「そうそれ。あたまいい」
いや君が頭よくないだけでは? はぁ……仲良くならない方がいいかもしれない。こうゆうタイプは勝手に見限ってくるからもう関わりたくない。
「ねねこれおしえて」
「降りて来てくれないと」
「そっか」
彼女は木に登っていたから上から教えてほしいと言われても無理だ。いや僕が登ればいいってだけだろうが今は身体が痛いので無理。関わっても仲良くならなければいいだけの話だ。
「あっ」
彼女は木から落ちていたので慌てて助けるために痛む身体を無理やり動かしながら落下位置に潜り込む。ドスッと重いのが落ちてきた。僕は意識を無くした。
次に目を覚ました場所は病院だった。あの子は助かったのかが気になるけど体中が痛くて確認は出来そうにない。僕はどのくらい目を開けなかったのかも知らないと。家族が来る前に確認しないと、色々と言われるだろうから。
痛む身体を無理やり動かしてベッドから起き上がる。僕のせいで迷惑をあの子にはかけたくないから行かないと。
『何をやっているの!! 安静にしなさい』
「・・・誰?」
『アナタの母親に決まっているでしょ』
全身が黒く染まっている物体に触られているのが凄く不快だったけど、一旦は言うことを聞くようにした。言葉が逆再生されているような声で聞こえるのが嫌だ。逆再生で聞こえている筈なのに僕は何故分かるんだ?
まぁなんでもいいだけどあの子が無事なのかを聞かないとゆっくりしてられない。母親と名乗ったモノにあの子がどうなったかを確認するが返事が返ってこない。だから最悪なことを考えてしまった。
あの子がもし大怪我や……最悪死んでいたらどうしよう。僕はそうなったら、どう償えばいいんだ? 何もなしていない僕に何が出来る? 過去をやり直せばいいのか?
『無事よ。だから寝ていなさい』
「母さん……会わせて」
『無理。息子をこんな目に合わせたんだから』
「黙って会わせろ。じゃなきゃ殺す」
『っ!? 分かったわよ』
母親にこうも殺意を向けたのは初めてだ。にしても何故僕は出会って初めての子にここまで気にしているんだろうか。まぁこれから分かるだろうからそれは後でいいや。今は僕に何があったのかだ。
元々人の形がしっかりと認識出来ていなかったことがある。例えば顔の左半分が肥大化していたり、体が肉塊で顔があるって感じのが。それがひどくなったからこうなっているのだろう。
少しのやりとりだったが彼女に依存してしまった可能性がある。それはいけないことだろうから離れないといけないな。僕は人間ではないのだから、これ以上依存をしないようにしてないとな。僕は何をするかが分からない。
『連れて来たわよ』
「ありがとう母さん。そっちの人は?」
『ソレの母親』
「・・・母さんは出て行ってくれるよね」
『も、もちろんよ』
母が出て行ったのをしっかりと確認した後、僕はまず謝罪をした。母が言ったソレ発言と腕に巻いてある包帯についての。
完全に怪我をさせてしまったのは僕がしっかりと守れていなかったからなのだろう。だから僕は謝罪したがあの子の母親は目を見開いていた。
『本当に空星と同じ年なの?』
「すごいでしょ」
『アンタがドヤることじゃないでしょ』
「えへへ」
あの時はまだ暗かったから分からなかったけど、水色の髪なんだなぁ。母親も同じ色だから親子って分かるな。ん? 空星って呼ばれた子がしっかりと認識できるのは分かるけど、母親がわかるんだ?
心のあり様なのか、それともこの子の親だからなのか。分からないことだらけなのだが、存外悪くないかもしれないな。
「あっ!そういえばなまえは?わたしはラホ」
「心杜です」
「ミトくん!!えへへ」
『心杜くんね。いい名前ね』
名前を褒められたのは初めてだ。ルーレットで止まった文字を組み合わせただけらしいから何も意味がない筈の名前が……褒められた。
なんで……視界がぼやけてるんだろ? 僕が泣いているのか。嬉しいのにどうして、涙が出てるんだ? もう涙なんて枯れたと思っていた。
「どこかいたいの?」
「違……う。ただ、嬉、しい」
「ママぁ〜」
『空星、心杜くんをそっとしておいて』
誰かに名前を褒められたことなんてなかった。僕の親が付けてくれた名前でその想いは〈誰かの心を杜人になって〉らしい。何も実現していないけど、誇らしく思うよ。
こんなに嬉しいことなんて生きている時に経験するなんて思ってもいなかった。こう思えるのであれば飛び降りなかったら良かったよ。
「ミトくん、ケガがなおったらいっしょにみよ!!」
「星……一緒にみたじゃん」
「うん!! だからいっしょにみよう」
『コラ、アンタは少しの間は星見るのは禁止』
「えぇ~いやだぁ」
『全くもう。ごめんね、心杜くん』
星かぁ……誰かと一緒に見たことはなかったなぁ。彼女……空星と一緒に見たのが初めてなのかな? 僕が覚えている限りでは初めてだな。
また見たい。彼女と一緒に見て…………また僕から離れていくんだろうなぁ。まぁ僕から離れて行くまでは楽しませてもらおう。彼女が、彼女たちが笑う世界に僕は居ないだろうからね。
って思っていた時期が僕にもアリました。
「ミトくん、何してんの?」
「いやここが新居かって思って」
「いいなぁ~私も一人暮らししたいよ」
「泊りに来てもいいよ」
「本当!? やったぁ!!」
出会ってから約10年、僕と空星の関係は続いていた。もうすぐ高校生になるので僕は家を出て一人暮らしすることにした。
一人暮らしを決めたアパートは4LDKだ。中学の卒業式の翌日には空星に告白したのだが「私も好きだよ」と言われて成功したと思っていた。
恋人同士だと喜んだなのに彼女は「ママもパパも好きだし、友達も好きだよ。改まってどうしたの?」と言われた。その好きじゃあないって言いたかったが……日和った。
はぁ……異性として何も思われていないのは分かった。僕の好きは多分彼女には伝わらないからこのままでいいか。
「ねぇミトくん、私は思い出しました」
「何かあった?」
「前にも言ったけど、私は君の星空に……なるって」
「ソレがどうした?」
「私は君から返事もらってない」
そう言って彼女は頬を膨らませた。うん、可愛い。いや、そんなことは今はどうでもいいんだが一体何を言いたいのかが分からない。
僕は確かにあの時に返事はした。「うん」って……アレ? 空星がソレを言ったのって6年前のことだよね? 僕が君に恋をしているってことに気が付いたのが4年前だよ。
ちょっと待ってそれ以前から空星は僕が好きってことなの? いや待ってこの前の告白は・・・何も意味がなかったってこと?
「それでどーなの?」
「ちょっと待って」
「えぇ~」
「卒業式の翌日に告白したよね?」
「あ~アレ? 告白だったの?」
「うん」
「そっか。で返事は?」
まぁそうなるよねぇ。なんて答えたらいいのかが分からないけど、僕の言葉で何かを紡がないとなぁ。時間稼ぎじゃあなくて……僕の想いを伝えないと。
すぅ~どうすればいい? 空星みたいにいい感じに言えないと思うんだけど!! よく思いついたよね? 私は君の星空に……なるっていうセリフ。・・・あぁそうか。
「僕は君の心の杜になるよ」
「・・・120点、まだまだだね?」
「はぁ!? 何点満点だよ」
「さぁ? 私にも分からないよ」
「なんだそりゃあ……」
「なってよ。私の帰る場所にね」
「あぁなるさ、何があっても」
君の帰る場所にはなれたかな? 君が旅立ってもう、何年経ったかなぁ? 子供たちも立派になって、いるよ。孫だって出来たし、孫にも子供が出来た。みんな、君の綺麗な水色をしている。
いい子たちなんだ。君が帰って来ないからって僕が寂しくないように交代して戻ってくるんだよ。いつになったら君は帰って来てくれるんだよ。
「もう待てそうにもないんだ」
綺麗な星空の下、僕は彼女が登っていた木に座っていた。あぁ……もう寝くなってきたなぁ。こんな所で寝たらまたみんなに怒られるなぁ。
『お父さん、またこんな所で寝て』『おじいちゃん、ダメだよ』『だぁ!!』とかみんなでワイワイと騒ぎながらな。
「ハァハァ、やっと着いた」
「あぁ……最後に君を見れるなんてなぁ」
「ズゥッ、ごめんね?」
「いいさ、君はあの時と変わらないままだぁ」
「少しは歳をとったのよ? ミトくんはもうしわくちゃだぁ」
宇宙飛行士と一緒に飛び立った日と何も変わらない。君は綺麗なままで、僕の天使だと思える時のままだ。もう本当に最後なんだろうなぁ。幻覚でいい最後に__
「ずっとあ____
私が宇宙に行ってからもう50年にもなるのに……誰とも再婚もせずに居たなんてバカじゃないの? 最後の、言葉くらいも言えない程、弱っていたなら、大人しく家に居てよぉ~
「イ゛ぃいやだぁ~、や゛っど……がえでぎだのにぃ」
行かなきゃよかった。ミトくんはずっと私を支えてくれていたのに……私は何も、恩返しができていないよ。時間の流れが違うだなんて考えてもいなかった。
小学校でイジメられた時も、先生に襲われそうになった時も、ママパパが亡くなった時もミトくんが助けてくれたから生きれたのにぃ。
「私の帰る場所になるんじゃなかったの? 先に逝くのは私でしょ」
はぁ……今度は私がいるから。私が子供たちの帰る場所になるから
「君が……私の星空になって」
『なるよ。君を愛しているからね』
「っ……」
ミトくんのバカ……逢った時から私は君しか想ってないよ。私がミトくんのいた場所を護るから……残りの人生はそれだけに費やすから。
50年も帰っていない私を受け入れてくれるなんて思ってないけど、ゆっくり向き合って行くから……自分勝手だけど、君が安心出来るように私が頑張って行くから。
「ミトくん、愛してる」
少し彼の体温が残っている唇にキスをする。
帰って来て急いで家に帰ったら君が居なくて、子供達に聞いたらここにいるかもって……だから来たけど遅かったなぁ。
覚悟が揺らぎそうだけど、ここからは私が引き継いで行くからね。ミトくん……君が生きた証は絶対に残してから行くから。




