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詩集

意識の底

作者: ロースト

意識の底


ゆらゆらと波に乗っているかのような感覚を、酔いそうになりながらも味わい落ちていく意識。そして落ちたその場所は自分の深層心理の底、意識の外側、心の隙間、闇ともいうべき場所。


自分でさえも満足に視ることのできない闇に億劫になりつつも現状を考える。確かなものも、信じるものもない此処では自分と言う人格を留めるにはそれしか方法もないのも事実だが、この状況を逃れるにはそれしかないのもまた理由だ。

気が狂いそうになる程の長時間、何もせずにじっとしている。思考はまとまらず、行ったり来たりとただ同じところを同じようにぐるぐる回る。ただ暗いだけと言ってしまえばそれだけだが、何もない、此処は私にとって恐怖しかもたらさない。そのことがさらに私を精神的に追い詰めていく。


視界は暗い。果たして、自分は眼を開けているのか?もしかしたら瞼を閉じているだけかもしれない。それでもこれ以上開くことなど無理なことだ。それでも、触れば帰ってくる眼の感触が眼を開いていることを伝える。

だが何処にも、何もない。光なく、まったくの闇の中では身体の感触はあっても、視覚情報がないから実際のことなのか断言できない。それではやはり確かなものなど無いのだ。人は自分の眼で見たことしか信じないとよく言うが、それは的を射ている、とはこういう時にこそ実感できると言うものだ。感触が帰ってきても信じられない。自分の腕で触ったと思っていても、そうではなかったら?自分の眼を触ったと思っていても、そうではなかったら?感触など、幾らでも偽装できるのだから。不安で不安でしょうがなく、自分自身の身体を抱こうにも、それさえも出来ない。


人の神経は狂いやすい。ちょっとしたことで勘違いをする。それは脳自体が認識できないせいでもあるが、心理状態の変化でも誤認する。そこが人間の弱いところの代表とも言える。人間の最大の弱点とも言えるのかもしれないが、そこが都合よく働けばそこは人間の最大の武器にもなりえる。今回はマイナスに働いているようだが。

感情というものは非常に厄介で、不安定で、強く弱い。だからこそ、今、自分はこんなことになっているのだろう。心を鍛えることは難しい。いや、心を保つことは出来ても、鍛えることは出来ないのかもしれない。どんな人間でも心折れることはある。些細なことで傷ができる。そして一度傷ついた心は修復に時間がかかる。容易には消えない傷を残すのだ。


呼吸音どころか鼓動も吸収されてしまって静かどころか痛い静寂。声を出しても音にならない。正確には音が耳に届く前に消されてしまうのだけれど。こちらにあるのは黒という視覚情報だけ。それも、全てを闇に包み込まれ、色など判別できない漆黒とも言うべきもの。視覚の誤認によって闇は蠢いて見える。

この闇は普通の闇ではなく、自分の心の闇なので、心情が変化しなければ晴れることのない闇だ。だが、自分にはこの闇を振り払うことなどできやしない。ましてや、こんなところで闇を晴らすことなどもってのほかだ。

 闇は塗りつぶすかのような平坦な黒であり、空間があるようには見えない。それでもそこには実際に空間が広がるのだから、こちらの恐怖をより仰ぐ。この空間の端がどこなのかがわからない。もしかしたら無いのかもしれない。空間は区切りなく、広がり続け、どこかでループしているのかもしれない。すべては吸収され、秘匿されている。感知はできない。


すべてがあやふやで頼りなく、静かな闇はこちらを食いつぶそうとしているかのように動くこともなくそこにただ存在する。けれどそこに何かがあるのは感覚で識っている。闇に含まれた自身を構成する欠片たちは光が届かないせいで完全に周囲と同化してしまっている。感覚でしか知れないそれらは現在の自分にどこかしら似たところがあるはずなのだが、自身を持っていえないのは知ることしか出来ていないからだ。存在の証明がないのに、そこにあるということは確信できる。だが、安心はそこに無い。


欠片があるところに向かって手を伸ばす。だが掠りもしない。そこに在るとわかっているのに、触れることの出来ないそれは、感覚でさえもあやふやで。炎のように大きく揺らぎ、今にも無くなってしまいそうなほど不安定である。

 一つ一つ、ゆっくりだが確実に消えていっているその炎。自分はここで、何をすべきか。そもそも、私が何故こんな状況に陥っているのかがわからない。自分は表で何らかの傷を心に負い逃げてきたのだろう。現実に耐え切れず、傷を負ってここに迷い込んだ。ならば何をすべきか。何をしたいのか。ここは私にとって『怖いところ』だ。それでも、ここにいた方がよいと、ここにいたいと思ってしまうのは戻るよりもましだと思っているからに違いないのだ。だが、それがわかっていても、私は戻るべきなのだろう。表に。

ここを怖いと思うのは自身がここにいることをよくないと思っている、何よりの証拠だから。この矛盾した心は私を惑わせる。

では、ここから出るにはどうすればいい?基本に忠実になれば、原因を探るのが一番だ。ここに来ることとなった、理由。私の思い出せない、思い出したくない現実と記憶。だが、そんなことは考えるまでもなくわかる。自分自身のことだから。どんなにわかりたくなくても、わかってしまう。


私は自身を構成する欠片の炎に触れた。今の自分を構成する、昔の出来事、現実、社会、それらのものに触れた。他の炎にもあるはずのその情報。私の情報、私という自身の一部。では触れればいいだけだ。それで解決する。ただ、あの炎たちに触れる自信が、今一度戻りたいと思う心が、あるかという話で。正直、今の自分にそんな気分はない。だが、何れはしないといけない事なのだ。

そう、諦めてしまったら話は速い。触れるだけ、そうすれば元に戻る。だが、このまま何も変わらずに戻ってしまってよいのか。今は戻れたとしても、現実は変わっていない。何も解決していないのに、戻ってしまってよいのだろうか。またここに来ることになるだろう事がわかっているのに。なら、自分はここで何をすべきか。わからない。いや、すでに変わったのかもしれない。現実に立ち向かう覚悟をしたのだから。もう一度こちらに来ても、立ち向かえるのだろうか。わからないが、今のままなら、あるいは。

それではもうここでの自分の役目は終わったのかもしれない。それならば、早急にここから出たほうがいいのだろう。ここは本来、来るべきところではないのだから。それに、こんなところに長居したら自信の精神も危うくなってくる。


そんなことを頭の片隅でと考えながらも、体は行動を起こす。すべての炎に触れる。


視界は暗い




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