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転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?  作者: 紫 和春


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第9話 学習

 研究所を後にして、ホテルに戻った長屋。ベッドに横になるものの、机の上に置いてある書籍が気になる。


「中学社会の勉強ねぇ……」


 そこには高校入試で使われるような、中学社会の要点をまとめた本が置かれていた。

 それには馬渕のおせっかいというか、親切心があった。


『長屋君は36世紀(この世界)の常識や学習が足りてないはずよ。特に社会ね。その辺りの教養を養うという点でも、予習をしておいたほうがいいわ』


 そんな話をしていたのだ。そういうわけで、この「要点だけ! 現代日本の社会」という教材をもらったというわけである。


「教養が足りない、か」


 それを言われてしまったら、どうしようもない。とにかく勉強をしていくほかないだろう。

 それに、高校の編入にあたって、このようにも言われた。


『あなたのことは、脳の物理的な衝撃により記憶の一部が失われていると学校側には説明したわ。勉強についていけなくても、記憶障害による弊害だと言えば、何とかなるはずよ。仮にあなたが21世紀(過去)の人間だとバレれば、あなたの身に危険が降り注ぐわ。それだけは注意してちょうだい』


 馬渕からの忠告も受けて、長屋は気を引き締める思いだ。


「……勉強するか」


 長屋は社会の教科書を開くのだった。

 そこからは割と大変だった。特に公民は21世紀との違いがあるため、その常識をすり合わせる事が一番大変だ。

 それでも、21世紀から文明が停滞していると馬渕が公言しているだけあって、似通っている部分は多い。そこをとっかかりにして、36世紀(この時代)の常識や文化をインプットしていく。

 そんなことをしていると日付が変わる。長屋は一度睡眠を取って、翌日に備えることにした。

 次に長屋が目を覚ますと、時刻は朝の8時を回っていた。部屋に散らばった荷物をまとめ、部屋を後にする。

 フロントでチェックアウトと料金の支払いをしていると、そこに西原が迎えに来た。


「お疲れ様ー。チェックアウトできたー?」

「はい、なんとか」

「それじゃあ長屋君のおうちに行こうねー」


 そういって車で送っていってもらう。

 部屋の前に到着すると、昨日購入した荷物を搬入する業者が待っていた。


「お疲れ様ですー」

「お疲れ様でーす。今日はこちらの荷物の搬入と、組み立てでよろしかったでしょうか?」

「はい、お願いします」


 西原が部屋の鍵を開けると、業者がすぐに重い荷物をどんどん運んでいく。そして部屋の中で開封し、手早く家具の組み立てを行っていった。


「こういう運送業者でも、女性の方が活躍しているんですね。こうだとは思っていましたが、いざ目にすると不思議な感じがします」


 長屋が小声で西原に話しかける。


「そうだよねー。でも私からすれば、男女比が同じくらいの世界が不思議な感じするけどなー」

「そういうもんなんですかね……?」


 時代が変われば、常識も変わる。そのことを長屋は一番実感していた。

 こうして数時間後には、必要最低限の家具家電が揃った、贅沢な一人暮らしの部屋が完成した。


「ご利用ありがとうございましたー」


 業者が帰り、部屋には長屋と西原だけになった。


「さて、あと必要な物は、これから随時購入していってねー」


 そういって西原はある物を取り出す。


「これ、どこでも使えるネット口座のキャッシュカードねー。あとはネット口座にアクセスするためのアカウントとパスワード、そして口座開設時の書類一式だよー」


 そういって角型2号の封筒を長屋に渡す。


「何から何まで、ありがとうございます」

「いいよー。これも私の保護者としての役目だからねー」


 長屋は受け取った書類の中身をざっと確認する。その中に、最初の入金額が書かれた紙があった。4億円と書かれている。


「ぶっ! 預金残高4億円!?」


 時代の変化によるインフレを考慮した場合、21世紀換算で約4000万円である。


「これだけあれば、しばらくは大丈夫だって馬渕さんの指示だよー」

「だからって限度がありませんかこれ?」

「一人暮らしは何かと物入りだったりするからねー」


 やはりこの時代の一般常識はどこかズレている。そんなことを考える長屋だった。

 部屋の鍵とその他必要なものを受け取り、西原は部屋を去る。これから長屋一人での暮らしが始まるのだ。


「とりあえず、高校までの道を調べとかないとな……」


 そういってスマホのマップで道を調べ、実際に歩いてみようと外出する。

 高校までは、歩いて20分ほどになる。これなら普通に通えるだろう。

 マップに示された通りの道を歩く。その間にも街の中を見てみるが、21世紀に比べて一軒家はかなり多く、それに比例するように空地も存在する。

 昨日の夜、社会の勉強をしたときに知ったが、数百年前から人口が1000万人を下回り、人口減少は現在も緩やかに続いているらしい。それがこのような住宅街の光景を生み出しているのだろう。

 そんなことを考えながら高校まで歩く。到着した高校は、21世紀となんら変わりないように見えた。


「県立新和光高等学校……。舌を噛みそうな学校名だな……」


 今の時間は、特に生徒の出入りはないようで、閑散としている。


「……帰るか」


 道順の確認は出来たので、帰って勉強の続きをしようと考えていた。

 そんな時である。


「あ、あの!」


 ふと声をかけられたので、長屋は振り返る。そこにはどこかで見たことある黒髪ボブで青みがかった瞳をした女子学生がいた。


「急に声をかけてごめんなさい。あの、間違えてたらごめんなさいなんですけど……、この間、ショッピングモールでぶつかっちゃった人、ですよね?」


 長屋はすでにピンときていた。問題は、その女子学生が新和光高校の制服を着ていたことである。先日迷惑をかけた相手は、長屋が転入する予定の高校に在籍し、かつ顔を覚えられているのだ。

 長屋は半分パニックになりながら返事を返す。


「あっ、あぁ、はいっ。そっすね……」

「あの時はごめんなさい! 私もうっかりしてて……」

「いやいやいやいや、お互いに怪我がなければ、ねっ。大丈夫ですから、ははは……」

「それで、その……。やっぱりなんでもないですっ!。失礼しますっ!」


 そういって彼女はピューッとその場を去ってしまった。


「……はっ。な、なんとか凌げた……」


 冷や汗をかいたが、向こうから離れてくれれば万々歳だ。しかし、来週からはそうは言ってられないだろう。


「俺の高校生活に、平穏があらんことを……」


 流れゆく桜吹雪を前に、長屋はそのように祈った。

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