第5話 内見
長屋は車窓を流れていく外の景色を眺める。36世紀の世界は、21世紀と大して変わらないように見えるだろう。
「長屋君ってさー」
ハンドルを握っている西原が口を開く。
「資料で見ただけなんだけど、16歳なんだよね?」
「えぇ、まぁ」
「今の長屋君くらいだと、多感な時期だよねー。ぶっちゃけ、21世紀が恋しいとかない?」
「ないわけないですね。ただ、今見えている景色は21世紀と大差ないので、寂しいとかホームシックみたいなことはないです」
「そっかー。ならこの世界に馴染めるかもね」
そんなたわいのない話をしていると、車はとあるマンションの駐車場に入る。
「ここが長屋君の新しい家だよ。とは言っても、まだ荷物はないんだけどねー」
二人は車を降りて、マンションの玄関へ入る。目測で10階建ての、そこそこ立派な建物だ。
エレベーターを使って6階へと上がる。
「ここの603号室が、人類維持局が借り上げた部屋だよー。今更だけど、内見する?」
「そうですね。見ておきます」
「念のため鍵を持ってきておいてよかったー」
西原はそう言いながら、部屋の鍵を開ける。部屋へ入った第一印象は「意外と広い」であった。
10畳くらいのリビングに、そこそこ広いキッチンや寝室がある。風呂トイレも別で、長屋にしてみればかなり優遇された物件だ。
「悪くないですね。二人でも十分暮らる広さですし」
そんな感想をこぼした長屋に、西原が爆弾を落とす。
「あ、私は一緒に住まないよ?」
「えっ?」
思わず長屋は聞き返す。
「え、あの……。保護者、ですよね?」
「そうだね。でも長屋君は15歳超えてるし、一人で生活できるでしょ?」
「それは……、そうかもしれないですけど……。じゃあ西原さんはどうするんですか?」
「私は私の家があるし、保護者の肩書きはあくまで名目上のものだからね」
「マジか……」
長屋は唖然とする。やはり21世紀の常識は通用しないのか。
「じゃ、内見はこのくらいにして、そろそろ移動しようか」
「移動ってどこにですか?」
「今回の宿だよー。さすがにライフラインが整ってないこの部屋じゃあ、生活していくのも無理だろうし。ひとまず外の環境に慣れるためにも、公共の場所を利用してみないとね」
西原はそんな話をしながら、部屋の外へ出る。長屋もそれに続き、鍵を閉めて車へ戻る。
そして車を走らせて10分ほどのところにあるホテルに到着した。典型的な駅前にあるタイプのビジネスホテルだ。
長屋が車から降りようとすると、西原に止められる。
「まずはお金と身分証を渡しておくねー」
そういってもらったのは、黒の財布と、国民照合番号が記載された行政身分カードであった。
「今はこれだけあれば何とかなるはずだから。身分証は紛失すると後で大変なことになるから、絶対に無くさないようにねー」
「はい」
長屋は返事をしながら、身分証を眺める。名前は同じだが、生年月日、住所が異なっている。おそらく、戸籍を作ったときに都合の良いように書き換えたのだろう。
「それと、緊急の連絡先を財布の中に入れておいたから、後で確認しておいてねー」
長屋が確認してみると、メモ用紙に携帯の電話番号と思われる数列が書かれていた。ご丁寧に西原と他数人の番号が書かれている。
「それじゃあ、チェックインしちゃおっか」
二人は車から降りて、ホテルのフロント出受け付けをする。その際、身分証の提示を求められたので、もらったばかりの身分証を出す。
ほんの数秒で返却された。
(そりゃ偽造した書類じゃないからな……)
こうして受け付けは終わり、部屋の鍵を渡される。
「じゃ、私は帰るよ。明日も予定があるからよろしくねー」
そういって西原は帰っていった。
「……未成年をホテルに残す保護者ってなんだよ」
そんな愚痴が長屋の口からこぼれ落ちたが、これはこれで気楽なものだ、と思うことにした。




