第37話 オカルト
その後、家に帰宅した長屋は、スマホで大統領の特使について検索する。
しかし、出てくる情報はどれも他国との外交における外交官の職業しか出てこない。つまり、ナナという人間は公的には存在しないことになる。
「そもそも一人の民間人に特使なんて派遣しないだろうよ……」
こういう場合は伝令かメッセンジャーというような役職か、そもそも人間を寄こす前に手紙か何かで事前に連絡するはずだ。
それでもなお、長屋には何かあるという意味を持っているのか。
「つーか、俺は大統領肝入りの政策で誕生した人造人間だったけな……。紙の通知なんか出さないよな……」
だが、大統領から命令されて来た特使なのだから、素人の類いではないだろう。その素顔は、軍の秘密部隊に所属する軍人かもしれない。
とにもかくにも、長屋は情報収集するためにネットサーフィンをする。それにより、時間はあっという間に溶けていく。大統領官邸の公式ホームページから大統領周辺の動向を確認したり、様々なニュースサイトを巡って外交問題を覗いてみたり、はたまたYYで大統領に関する情報を収集してみたり……。
それでも、特使ナナの存在は確認できなかった。一般人にはここまでが限界だろう。
そんな時、長屋の目にある動画のサムネが入ってくる。
『歴代大統領に隠された秘密! それは〇〇!』
とあるオカルトチャンネルだった。公開されている情報から存在しない結論を導き出す創作物の発表会とも言えるそれを、長屋は本来なら見ることはない。
そう、本来なら。
長屋の指は、吸い込まれるように動画をタップしていた。
『裏社会に興味のある皆さん、ごきげんよう。案内人のアヌンナヌスです。今回取り上げる裏社会トピックスはこちら。「大日本共和国大統領は神の存在だった!」です』
荒唐無稽という言葉は、まさにこのことだろう。しかし、長屋は食い入るように見てしまう。
機械で奏でる女性の声は続ける。
『皆さんは、我が国の大統領についてはもちろん知っているでしょう。男女平等が叫ばれて幾数年も経っているこの国で、唯一男性のみが就ける職業です。日本が共和国制に移行した際、当時与党だった第一国民党の若手議員が国会で野党の党首や議員を銃撃したことで有名ですね。ではなぜそこまでして男性特権を固持したのか。そこには厚労省の外局、人類維持局が関わっています』
「人類維持局が……?」
今や長屋は陰謀論の虜になっていた。
『人類維持局の最大の目的は、人類を維持させること。そのためには何がなんでも男性の数を増やす必要があります。そのためには、生まれてくる子供の数を増やすことが重要です。しかしゴールは違えど、それ自体は達成しています。では残るピースは何か? それは、男性の神格化です。世界中に存在する神話、伝承、寓話、その他諸々は、男性が中心となって作られています。その物語になぞらえて、大日本共和国は形作られているのです』
「はぁ……」
いまいち要領が掴めない。
『ここで人類維持局のエンブレムを見てみましょう。人類の果てしなき繁栄を願って作られたというものですが、このマークは4000年前に地中海に存在していたという超文明「シーザリース文明」で宗教的な意味を持っていたという「ザリオの塔」にそっくりなのです。さらにこの「ザリオの塔」に座するのはシーザリース文明の最高神ナガヨースと言われ、この構図は現在の日本にそっくりなのです』
「……」
この頃になると、長屋は半分冷めていた。真偽不明のこじつけに近い行為であったからだ。
『そしてナガヨースは輪廻転生を司る神としても有名でした。つまりこれは、大統領という職を永遠に繰り返す存在であるということに他ならな━━』
ここで長屋は動画を止めた。
「欲しい情報はなかった……」
半分失意の中、長屋はスマホの画面を消すのだった。




