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転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?  作者: 紫 和春


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第2話 説明

 翌日から体の調子を取り戻すためのリハビリが始まった。なんの変哲もない普通の歩行から始まるが、体に力が入らなかったり関節の曲がり具合に違和感を覚えたりと、頭で思っているような動きができないことが多々あった。


「大丈夫ですよ、ゆっくり歩いていきましょう」


 理学療法士の女性が補助に回りながら、長屋に付きっきりでリハビリをしてくれる。


(体が動くのは動くんだが、どこかだだとした感覚を感じる……。体を再構成したとか言ってたし、今の俺は出来立ての赤ちゃんみたいな存在なのだろう)


 そんなことを考えながら、長屋はチラリとリハビリテーション室の様子を見る。リハビリに使うであろう道具は揃っているが、長屋以外の患者はいない。長屋に付き添っている療法士と数人の看護師がいるだけである。


(ここはVIP専用病棟か何かだろうか……。いや、馬渕って人は病院じゃないって言ってたし、それと何か関係あるかもしれない……)


 思考が一瞬逸れたところで、長屋は何もない場所で足を踏み外す。


「うおっ……」


 歩行補助の柵を強く掴んだことで、転倒は免れた。今の長屋の体は、本当に赤ん坊そのものであることを無理やりにでも理解させられるだろう。


「今のは少し危なかったですね。でもいい感じに歩けてますよ」


 理学療法士の女性はそのように言う。


「体の疲れはどうですか?」

「少し、重い感じがしますね。疲れてるかも」

「今日はこのあたりにしておきましょう。また明日、同じようにリハビリしますからね」


 そういって長屋は車いすに乗せられ、自室へと戻っていく。

 自室に戻ると、すでに馬渕がタブレットを用意して待っていた。


「リハビリお疲れ様。体の調子はどうかしら?」

「思っていたより動かないですね」

「体の原子分子同士がまだうまく繋がっていないのも原因だと思われるわね。これは時間とともに解消されていくはずだから、今しばらくの辛抱よ」


 そんな説明を受けながら、長屋は看護師の手によってベッドへと横にさせられる。

 横になったところで、馬渕は長屋に数枚の紙を渡す。


「それじゃあ、そこに書かれている内容を中心に、36世紀の世界の説明をするわね」

「お願いします」

「まず大前提として、この時代の世界は21世紀と大して変わっていないわ。文明レベル、技術力、少子高齢化社会、使用する言語……。これは2075年程度の人類社会で停滞していると考えられています。大きく異なる点は一つだけ」

「それは……?」


 長屋は馬渕のことを見る。


「男女比よ」

「男女比……?」


 少々困惑する長屋をよそに、馬渕は説明を続ける。


「2030年頃の統計では、男女比は大体10対11くらいだったわ。もう少し詳しく見ると、男性5500万人に対して、女性は6000万人強。それが22世紀以降から男性の数が減少し続け、現在では男女比は1対100くらいになっているの」

「1対100……!?」


 思わず長屋は聞き返す。

「何がどうやったらそうなるんですか……!?」

「驚くのも無理はないわ。現在考えられている原因は主に三つよ。資料1ページの下のほうを見てちょうだい」


 馬渕は、長屋に資料を見るように促す。


「一つ目は遺伝的多様性の淘汰が急激に加速したこと。二つ目はY染色体の退化・消失が予想より早かったこと。三つ目は人類の性的奔放性が上昇したことよ」


 そのように原因を説明されるが、長屋はさっぱり分からないといった表情をする。


「順に説明していくわね」


 馬渕は説明を始める。


「まず遺伝的多様性の淘汰。これは人類が有している遺伝子が多様性を失ったことによる淘汰のことよ。そのままの意味ね。長屋君は人類の祖先が1万人を下回った出来事を知っているかしら?」

「聞いたことはあります」

「この時に人類の人口が急激に減り、そこから再興したことによって遺伝子のボトルネック効果が発生し、世界中の人類の遺伝子は比較的似たようになったわ。それが世代を経るごとに多様性が失われ、今や人類の遺伝子の配列が均一になりつつある。21世紀にはすでにこの効果によって人類が滅亡することが予想されていたくらいね」

「なるほど……」


 長屋は素直に納得してしまう。


「次にY染色体の退化・消失。哺乳類の雌雄の決定はY染色体によって決まることは習ったわね?」

「ええ、まぁ」

「哺乳類の性染色体に関する長期的な研究によれば、このY染色体は世代を下るごとにY染色体の機能が低下していることが分かったの。つまり男性が生まれにくくなる。性染色体の袋小路説なんて呼ばれたりもしているわ。しかし、特殊な例においては、性染色体以外が雌雄の決定を担っていることも判明しているの。やがて人類もそうなるとは考えられているものの、人類自体の進化はそこまで至っていないわ。つまり、一時的に男性の絶対数が減少することは必至というわけ」

「ははぁ……」


 長屋はこれも、分かったような、分からないような感じの返事をする。


「そして最後に、性的奔放性の上昇。単に人類が性行為を頻繁に行うようになったってだけね。しかし、この行為がさっきの二つの原因を加速させている節があるわ」


 そういって馬渕は視線を長屋に戻す。


「この三つの原因によって、地球人類はかつて経験したことのない絶滅の危機に陥っているわけね」

「そうなんですか……」


 このように説明はされたものの、どこか他人事のように聞こえる。


「そしてここからが本題よ。あなたが36世紀の世界に召喚された理由でもあるわ」

「これが関係してくるんですか?」

「ええ。36世紀では遺伝的多様性が欲しいけど、残念ながらそんな重要な資産(遺伝子)を持った人類はいない。そうこうしているうちに女性の割合がどんどん増えていく。となればやることは一つ」

「……もしかして」


 長屋は心当たりがあり、ドキッとした。


「思っている通りよ。まだ遺伝的多様性が存在していた過去から人類を召喚する。ちょうどあなたみたいにね」


 長屋は脳がクラッとして気絶してしまいそうになった。

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