新しい家族
新しい家族
すべてを失っても、歯車は回る。
三人は瓦礫の隙間から差し込む、スラムの濁った――それでも確かな朝の光へ向かって歩き出する。
背後の地下通路は沈黙し、「ルナ」や「プロトタイプ」という名前は崩落した土砂と一緒に闇の底へ埋もれていった。
「さて……工房はあらかた吹っ飛んじまったが、俺の腕があればどこでもやり直せる。……まずは、お前のその右目を直しにいくぞ。……次は、今よりもっと綺麗に笑うお前の顔が見れるような、最高のレンズを嵌めてやる」
アイナはふっと息を吐いて、ゼノの横顔を見上げた。
ゼノ、目の色はルナとお揃いがいい
アイナのその言葉に、ゼノは一瞬だけ足を止め、驚いたようにアイナを見た。隣を歩くルナも、目を見開いて振り返った。
「……お揃い、だと? お前、さっきまで『ルナじゃない』って、あんなに言い張ってたのにか?」
呆れたように鼻で笑いながらも、ゼノの口元はどこか穏やかに緩んでいた。
「……いいの? 私と同じ、この青色で……。あなたは、私とは違う自分になりたいんだと思ってた」
ルナは不安そうに、それでも期待を隠しきれない目でアイナの顔を覗き込んだ。アイナは二人の顔を見比べ、迷いなく頷きた。
「うん。だって、ルナはもう『過去の記録』じゃないでしょ。今、私の隣にいる、大切な友達だもん。お揃いのほうが……私たちらしいかなって」
その答えに、ルナの表情がふっとほどけた。花がほころぶみたいな笑顔が、煤けた朝の光の中で眩しいほどに映えた。
「……嬉しい。ありがとう、アイナ。じゃあ、私が使ってた予備の光学チップ、ゼノに渡すね。それを使えば……本当に私と同じ色が見えるようになるから」
「……へっ。勝手に決めやがって」
ぶつぶつ言いながら、ゼノはアイナの肩を抱き寄せる手に力を込めた。その手は乱暴で、でも落ちないように支える力加減だけは、どこまでも正確だった。
「まあいい。最高級のサファイア・レンズでも調達してやるよ。ルナとお揃い……。ふん、双子の姉妹を養うことになるとは、俺も焼きが回ったな」
からかうみたいな言い方なのに、声の奥には――確かな覚悟が混じっていた。
「よし、決まりだ。まずはこのスラムのさらに奥、『ジャンク・ヘヴン』へ向かうぞ。あそこには俺の古い知り合いがいる。そこで新しい目を嵌めて……お前ら二人を、完璧に整備し直してやる」
朝日の光が、スラムの埃をきらきらと反射させている。アイナの右側の視界はまだノイズだらけだ。けれど、そこに恐怖も迷いもありえないだった。
三人は、新しい「家族」としての第一歩を、同じ速度で踏み出していった。




