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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第九十六話:剣士と回復士の役割

 訓練場の一角。

 アルト、シエラ、ステファニーの三人が向かい合っていた。

「よし、始めるぞ」

 シエラは剣を肩に担ぎ、かつて果たせなかった答えを噛み締めるように目を細める。

「アルト。お前が目指す【慈愛のピース・メーカー】は、争う二つの属性を調和させる理論だ」

 一拍置き、シエラは自嘲気味に鼻を鳴らした。

「だが正直に言えば、俺自身は完成させられなかった」

「剣士として鍛え上げた俺は、魔力を分割制御する時間を持たねえ。構築、詠唱、制御――それらを同時に走らせる思考回路がねえんだ。かつて挑んだ時は、力で抑え込もうとして魔力が『デッドロック』を起こし、脳がショートするのが関の山だったよ」

 シエラの視線が、アルトを射抜く。

「段階詠唱は技術じゃねえ。思考そのものを加速し、並列処理マルチスレッドできる者にしか辿り着けない領域だ。――それができるのは、世界でお前だけだ」

 アルトは、走る頭痛を噛み殺しながら、静かに頷いた。

「はい。……ですが、完成のヒントは、ステファニーさんの癒やしにありました。必要なのは、力で抑え込む“支配”じゃない。――全肯定オールパスです」

「え……わ、私ですか〜?」

 ステファニーは戸惑いながらも、シエラの合図で杖を構えた。

「《聖癒ディヴァイン・ヒーリング》〜」

 柔らかな黄金の光が、アルトの精神を包み込む。

 その瞬間、アルトの脳内に膨大な解析ログが走った。ステファニーの癒やしは、対象の拒絶反応を無視して浸透するものではない。一瞬で対象の波形に同期し、例外エラー(エクセプション)も痛みもすべて受け入れた上で修復する――究極の互換性と許容。

「……これが、慈愛……」

 アルトはその構造を演算回路にコピーし、仮想の“ボルト”を組み上げていく。

 相反する力を無理やり固定する、一本の異物。

「支配しない。ライトさんの光も、レイナさんの闇も、その性質を否定せず、損なわせず――僕という多重実行環境の中に、一つのプロトコルとして収めるんだ」

 数日後。

 訓練場には、ライトとレイナも加わり、五人全員が揃っていた。

「ライトさん、レイナさん。お願いします。二人の力を……僕に預けてください」

「ああ。信じてる」

「……演算ミスったら、末代まで呪うからね」

 ライトの剣から放たれる光の剛性。レイナの杖から溢れ出す闇の流体。相反する二つの激流が、アルトの両手へと流れ込む。

(……っ! 凄まじいコンフリクト(競合)だ……! 思考回路が、限界を超えて焼き切れる……!)

(ライトさんの堅牢なデータと、レイナさんの非構造化データを、僕の脳内で仮想メモリ化して……一気にパッチを当てる!)

「【慈愛のピース・メーカー】――接続リンク!」

 アルトの掌から溢れたのは、ステファニーの癒やしに酷似しながらも、より冷徹で、より精密な調律の光だった。反発し合う光と闇を、アルトの演算が強引に、しかし優しく――一点へと縛り付ける。

「いける……! 《原初爆ぜる一撃オリジン・バースト》――!」

 衝突の瞬間。三人の中心に、「バグったテクスチャ」のような歪な虚無の球体が生まれた。

 光を喰らい、影を削り、色彩情報が欠落したかのように景色を消し去る消滅領域。

「……これが……因果を喰らう力……」

 レイナの声が、わずかに震えた。自分の闇が、アルトの演算の中で初めて「居場所」を与えられたような、奇妙で、危険な全能感。球体は完全な制御下で数秒間滞留し、そして音もなく、世界から消え失せた。

「……成功、しました……」

 アルトは膝をつく。全身から冷や汗が噴き出し、鼻先から赤い線が落ちた。

「アルト!」

 駆け寄る二人を、アルトは震える手で制する。

「……大丈夫です。魔力逆流バックドラフトは抑えられました。ただ……演算負荷で、脳のリソースが物理的に削られた感触があります。……一度の戦闘で使える回数には、厳格なリミットがある」

 アルトの眼鏡の端に、警告アラートのような赤い残像が揺れる。魔力暴走という致命傷は回避したが、これは使うたびに脳というハードウェアを摩耗させる、禁忌の切り札。

「……見事だ、アルト」

 シエラは深く頷いた。「お前は、俺が辿り着けなかった“包容”という解に行き着いた」

 ステファニーの必死の癒やしを受けながら、アルトは北の空を見据える。

「成功率は……三割。高くはありません。でも――博打の土俵には立てました」

 五人の絆が、究極の消滅理論を実行可能な戦術へと昇華させた。

 フォートレス・ノールまで、あと少し。

 アルトの指先には、消滅魔法の冷たい残響が――

 前世の徹夜仕事の疲労に似ている。

 しかし決定的に取り返しのつかない重みが、呪いのように刻まれていた。

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