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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第九十五話:レイナへの打診と承諾

 翌朝。霜が降り、吐く息が白く染まる静寂の訓練場。

 アルトは、ライトとレイナの二人を呼び出していた。その瞳は、一睡もせず理論を研ぎ澄ませたことによる、不気味なほどの透明感を湛えている。

「……話って何よ。朝っぱらから。その顔、まるで今すぐ死ぬ幽霊ね」

 レイナが腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らす。だが、アルトの指先の微かな震えと、彼が抱えるノートに散った血の跡を見た瞬間、彼女の杖を握る力が一瞬、止まった。

「ライトさん、レイナさん。……どうしても、二人にしか頼めないことがあります。クロノスを倒すための理論――《原初爆ぜる一撃オリジン・バースト》です」

 アルトは、血とインクで汚れたノートを震える手で差し出した。

「奴が因果を断裁し、自分に都合のいい未来だけを繋ぎ合わせるなら、僕たちはその『前提』ごと焼き尽くすしかない。……レイナさんの闇と、ライトさんの光を、一点に衝突させます」

 凍りつくような沈黙が流れた。レイナの瞳が、一拍おいてから冷徹な色を帯びる。

「……正気? 私の闇は、触れるものすべてを呑み込み、虚無に帰す力よ。ライトの光とぶつけるなんて、ただの消滅か、良くて自爆。……あんた、自分の言ってること分かってるの?」

「分かっています。だから、その激しい衝突を僕が仲介する。……シエラさんに教わった【慈愛のピース・メーカー】の理論を、僕の演算に組み込みます」

 アルトは二人を真っ直ぐに見つめた。

「成功確率は……正直に言って、一割にすら届きません。演算が一ミリでもズレれば、僕の脳は内側から弾け飛び、二人の魔力回路もろとも周辺数キロを地図から消す爆心点になります」

「……」

「確率論では語れないギャンブルです。それでも、僕には十分な勝機に思える。……何より、もし失敗した時、最初に死ぬのは演算の核になる僕自身だ。二人を一人にはさせません」

「慈愛なんて、ヘドが出るわ。そんな甘い言葉で縛られるくらいなら、私は一人で堕ちる方を選ぶ」

 レイナは一歩、後ずさりした。視線を逸らし、自らの闇が宿る杖を見つめる。それは拒絶ではなく、アルトという「楔」にかかるあまりに重すぎる負荷を、彼女の誇りが許せなかった。

「一人にはさせない。……レイナさん、僕に、あなたの孤独を預けてください」

 ライトが、二人の間に割って入るようにして、アルトの肩に手を置いた。

「……アルト、お前がそこまで準備したなら、俺は信じるよ。前衛として、俺は一歩も引かない。俺の光を、すべてお前に預ける。だから、お前は俺たちの命を繋いでくれ」

 レイナは、長く、深く息を吐き出した。

「……最悪ね。ギャンブルにもなってない。揃いも揃って、救いようのない馬鹿だわ」

 レイナが、自嘲するように笑った。

「いいわ。あんたがそこまで覚悟を見せるなら。私の闇を、その不気味な『慈愛』に託してあげる。……失敗したら、地獄で呪ってあげるから。覚悟しなさいよ」

 それは冗談めかしていたが、声音に笑いはなかった。本気の、命を懸けた契約の言葉だった。

「……はい。ありがとうございます」

 アルトが深く頭を下げた。張り詰めていた緊張が、一瞬だけ安堵に溶ける。

「さっさと訓練を始めなさい。その『楔』とやらが外れた瞬間に、私たちが消し飛ぶんだから」

 レイナが杖を構え、深く、重い闇の魔力を練り始めた。

 訓練場を照らす朝日は、三人の影を長く、そして一本の道のように一つに繋いでいた。

 命を削る――主にアルトの脳を燃料とする、地獄の訓練が、今、始まった。

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