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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第九十話:レイナの確信

 夜、エルトリアの宿の食堂は俺たちの祝勝会で賑わっていた。

 ステファニーさんは珍しく食欲旺盛で、アルトは顔色の悪さを微かに残しながらも笑顔を見せ、俺も久しぶりにゆっくりと食事を楽しんでいた。

 だが、一人だけ――レイナさんは、杯を傾けながら窓の外を見つめていた。

 宴が一段落し、ステファニーさんとアルトが先に部屋へ戻った後。レイナさんは、テーブルに残ったシエラさんと俺に静かに語りかけた。

「ねえ、シエラ。あんた、ずっと一人で何でもできる剣士だったわよね」

 唐突な問いかけに、シエラさんは剣を拭う手を止める。

「……突然どうした、レイナ」

「いいから答えなさいよ。以前のあんたは、仲間の役割なんて期待してなかった。そうでしょう?」

 シエラさんは少し考え、自嘲気味に鼻で笑った。

「……ああ、そうだな。かつての俺は、一人で斬り、一人で勝てばそれでいいと思っていた。仲間は『守らねばならない弱点』でしかなかったからな」

「でも、今は違う。そうね?」

「ああ。……ステファニーが道を拓き、アルトが繋ぎ、ライトが隙を作った。あの一連の流れの中に、俺の剣が組み込まれた時……一人では絶対に届かなかった場所に手が届いた。認めざるを得ないな」

 レイナさんは小さく頷き、自分の杖を強く握りしめた。

「私も、今回の戦いで気づいたわ。……私はずっと、自分の魔力さえ高めればそれでいいと思ってた。でも、そうじゃないのね」

 彼女の瞳に、計算高い魔導師としての、冷徹で熱い光が宿る。

「一人で放つ最大火力の炎とは、明らかに質が違う。……なるほど、これが“噛み合う”ってことなのね。整えられた舞台で放つ一撃の、この凶悪なまでの効率……」

 レイナは、その違和感にも似た心地よい手応えを、自身の魔力回路で噛みしめていた。理論ではない、肌に刻まれた実感。もし、この連携が完成したなら――それはもはや個人の魔法ではない。制御を誤れば、敵も、味方も、世界すらも焼き尽くす兵器だ。

 理解した瞬間、彼女の背筋に冷たい震えが走る。だが、その「正しすぎる恐怖」が、彼女に未知の高揚感を与えていた。

「次は、あの鎧を止める連携よ」

 レイナさんの視線が鋭くなる。

「ネクロアを倒したのは、偶然じゃない。私たちが役割を繋いだ結果よ。なら、次の敵がどれほど異常でも、この『繋ぎ』を磨けば必ず隙は生まれるわ」

 シエラさんが、剣を鞘に納めた。その表情が一段と険しくなる。

「……ああ。ネクロアは倒した。だが、あの漆黒の鎧は――悔しいが、格が違う。かつて森で対峙した時、奴はただそこに立っているだけで、世界そのものを歪ませているようだった」

 シエラさんは、自分の掌を見つめ、当時の感覚を反芻するように拳を握った。

「結局、一太刀も交わすことなく奴は去った。だが……踏み込もうとした俺の直感が、全力で警鐘を鳴らしていたんだ。あそこから先は、俺の知っている理屈が通じない。あのまま斬りかかっていたら、俺の剣が届くより先に、何かが決定的に終わっていた気がする」

 シエラさんは窓の外に目を向け、小さく吐息を漏らした。

「……正直に言えば、今でも怖い。だが、独りで立っていた頃より、剣は軽い。不思議なものだな」

「だからこそ、よ」

 レイナさんが不敵に笑う。

「そんな理屈の通じない相手、一人で挑むのは馬鹿のすること。……あんたの剣も、私の炎も、アルトの知恵も、全部重ねて叩き込んでやるわ。奴がどれだけ歪んでいようと、その隙間を埋めるのが連携でしょ?」

 俺も、自分の剣に手を置いた。

「レイナさんの言う通りです。俺たちは、もうバラバラじゃない。次は、この連携をさらに高めて、あの鎧に挑みましょう」

 あの鎧を前にした時、自分がただ“時間を稼ぐ側”では済まない未来を、俺は直感していた。逃げ場はない。誰かが決定的な一歩を踏み込まなければ、この連携は完成しない。

 ――その役目が俺なら、剣を置く理由はなかった。

 シエラさんが、俺たちを見つめて静かに笑った。

「……頼もしい限りだ。お前たちがいれば、あの時踏み込めなかった領域へも、今度こそ踏み込める気がする」

 窓の外を見上げれば、星々が冷たく輝いていた。

 あの夜とは違う。今度の闇は、進むべき道の輪郭を、はっきりと浮かび上がらせていた。

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