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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第八十九話:勝利と役割の確認

 ネクロアが消滅し、タイラント・ゾンビが救済の光に溶けた翌日。

 エルトリアの宿屋の一室で、俺たちはようやく一息ついていた。窓から差し込む朝日が、昨夜の激戦が嘘のように穏やかな光を投げかけている。

「ステファニー、体調はどうだ?」

 シエラさんが窓際で剣を拭いながら尋ねる。その赤い瞳は、かつての因縁に一つの終止符を打った安堵からか、いつもより穏やかに見えた。

「はい……。魔力はまだ空っぽに近いですけど、心は……とっても、軽いです〜」

 ステファニーさんは、少し照れくさそうに、でも誇らしげに笑った。

 シエラさんは手を止め、椅子を回してステファニーさんと向き合った。

「かつて、あのベア――タイラント・アームドベアが現れた時、ギルドは高ランカーを総動員して討伐隊を組んだ。それでも多くの犠牲が出て、ようやく命を奪うのが精一杯だったんだ。だが、あの時は結局、魂を救うことはできなかった。ただ殺すだけで、永遠の呪縛から解放してやることができなかった。それが、ずっと心残りだった」

 シエラさんが、ステファニーさんの瞳を真っ直ぐに見据える。

「お前は、あの日多くの強者が束になっても成し遂げられなかった『救済』を、その光で完遂させた。少なくとも俺が知る中で、お前は最も“正しい形”で光を振るえる回復士だ。胸を張れ、ステファニー。お前は間違いなく、俺たちの最前線に立てる戦士だ」

「シエラさん……。はいっ、私、頑張ります〜!」

 ステファニーさんの瞳に、大粒の涙が浮かんだ。あの日、自分がただ守られるだけの足手まといだと思って泣いていた少女は、今、伝説の剣士に一人の仲間として認められていた。

「ライト、お前もだ」

 シエラさんが俺に向き直る。

「お前のあの《輝閃》でネクロアの多層結界を一点突破し、隙を作ったからこそ、ステファニーの光が間に合った。お前の成長が、この勝利の起点だったぞ」

「シエラさん……。ありがとうございます!」

 胸の奥に、じんわりとした熱が残っていた。勝ったという実感が、ようやく現実として追いついてきた。

 そんな俺たちを見ながら、レイナさんが腕を組んでふんと鼻を鳴らす。

「ま、あんたの癒しは特別だって認めてあげるわ。見直したわよ、ステファニー。あんたが隣にいるなら、私は最大火力でぶっ放せるものね」

「ふふ、レイナさん、ありがとうございます〜」

「アルトも、すごかったよ。あの魔力供給がなければ、魔法は完成しなかった」

 俺がそう言うと、アルトは鼻の頭をかきながら苦笑いした。

「あはは……。ちょっと、無理しすぎましたね」

 そう言って笑ってはいたが、アルトの顔色はまだどこか青白かった。魔力回路に無理を強いた代償は、一晩眠った程度では消えないらしい。

「よし、今夜は美味いものでも食おう。お前たちは、それだけの戦いをした」

 シエラさんが立ち上がり、窓の外を見つめる。だが、その瞳の奥には、消えない警戒の火が残っていた。

「ネクロアは倒した。だが、奴の背後にいた影……前に会った、俺とアルトの前に現れたあの『漆黒の鎧』の存在が気にかかる。俺でさえ――悔しいが――一太刀も交えられずに撤退を許した、底知れない化け物だ」

 シエラさんの視線が、一瞬だけ、誰よりも冷静に戦場を見ていたアルトへと向けられた。

「ネクロアが最後に言っていた『"あの方"の観測』という言葉……。俺たちの戦力か、あるいは成長速度か。その両方を測られていた可能性がある。つまり、俺たちはまだ、本当の敵の掌の上かもしれない」

「なら、次も戦うだけです」

 俺の言葉に、シエラさんが振り返る。

「今回、俺たちは勝ちました。一人一人が役割を果たして、ネクロアを倒した。次の敵が誰であろうと、俺たちは負けません」

 ステファニーさんが、小さく頷く。

「はい……。私、もう逃げません〜。みんなと一緒なら、きっと大丈夫です〜」

レイナさんは不敵に口角を上げ、杖の感触を確かめるように握り直した。

「次は、そいつに私の魔法がどこまで通るか……楽しみね」

 アルトが、拳を握り込みながらに言う。

「僕も、できる限りのサポートをします。次こそ、もっと上手く立ち回りますよ」

 シエラさんが、静かに笑った。

「……そうだな。お前たちがいれば、どんな敵が来ても負ける気がしない」

 勝利の余韻と、新たな決意。

 俺たちは、自分たちの「役割」を繋ぐことで、確かに強くなっていた。

「さて、飯の話に戻るぞ。エルトリアには美味い店があるんだ。今夜は盛大に祝おう」

「賛成です〜! お腹空きました〜!」

 昨夜、死と呪いに覆われていた空と同じ場所とは思えないほど、窓の外は澄み切っていた。

 戦いは終わった。だが、俺たちの旅は、まだ続いていく。



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