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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第八十五話:絶望を焼く慈悲

 黄金の光が、シエラさんの傷を完全に癒した。だが、その光の余波がタイラント・ゾンビに触れた瞬間、戦場の空気が一変した。

「グオオオオオオッ!?」

 それは、怒りでも威嚇でもない。魂を直接焼かれるような、純粋な苦痛の咆哮だった。光に触れた腐肉が煙を上げ、再生を拒絶して灰へと変わっていく。

 ステファニーさんは、自分の手から放たれた光が生み出した現象に、目を見開いた。

「効いて……る? 私の癒しが……効いてるの〜……?」

 その声は震えていた。だが、それは恐怖ではなく、自分の力が初めて誰かを――たとえそれが敵であっても――救えるかもしれないという、希望の震えだった。

 シエラさんが即座に号令を飛ばす。

「ステファニー! 癒しをアンデッドに放て! 特に、タイラントに集中しろ!」

「え……で、でも〜……!」

「躊躇うな! お前の癒しは、アンデッドにとって最強の毒だ! お前ならできる――お前にしかできない役割がある!」

 シエラさんの言葉が、ステファニーさんの背中を力強く押した。彼女は震える手で杖を構え、恐る恐る、しかし確かな意志を込めて詠唱を紡ぐ。

「《活泉ライフ・ストリーム》〜っ!」

 放たれたのは、中級の生命魔法。透き通った黄金の奔流が、戦場を駆け抜けた。

 その光が触れた瞬間、周囲を徘徊していた雑魚アンデッドたちが悲鳴を上げた。彼らの腐敗した肉体が蒸発していく。それは破壊ではなく、浄化だった。死の魔力で無理やり繋ぎ止められていた魂が、ようやく解放されるように空へと溶けて消えていく。

 そして――。

 タイラント・ゾンビの巨体に、癒しの光が直撃した。

「グ……ガアアアアアアアッ!!」

 これまでにない、凄まじい苦悶の咆哮が戦場を揺らした。数トンはある巨躯が激しく身悶えし、超再生を司っていた紫のオーラが黄金の光に焼き切られていく。

 ステファニーさんは、その光景を呆然と見つめた。

「効いてる……私の癒しが、効いてるの〜……!」

 彼女の声には、驚きと、そして確かな実感が宿っていた。自分が無力ではないこと。自分の力が、誰かを――たとえそれが敵であっても――その苦しみから解放できること。

 上空のネクロアが、静かにその光景を注視していた。紫の瞳に、初めて分析と警戒の色が混じる。

『……想定外だ。タイラントの死霊回路が、生命によって直接侵食されている……』

 その声に、冷徹な観測者としての余裕はもうなかった。代わりにあるのは、予測を超えた「イレギュラー」への、忌々しさと知的好奇心が混ざり合った沈黙。

 アルトが、荒い息の中で叫んだ。

「そうだ……! 死の魔力で強制的に動かされているアンデッドに、高密度の生命エネルギーを注ぎ込めば……不死の構造そのものが崩壊するんだ!」

「ステファニーさんの癒しは、生きている者を救うだけじゃない――死者を、永遠の苦しみから解放する力なんです!」

 俺の言葉に、ステファニーさんは自分の手を見つめた。これまで「役立たず」だと思っていた自分の力が、今、戦場のすべてを塗り替えている。

 レイナさんが、その背中を見つめながら静かに呟いた。

「……あなたの癒しは、優しさの光ね。生者には命を与え、死者には安らぎを与える。それこそが、本当の救済なのかもしれないわ」

 ステファニーさんの瞳に、涙が滲んだ。だが、それはもう恐怖の涙ではなかった。

「私……私、わかりました〜! みんなを癒して……そして、あの悲しい化け物たちを、ちゃんと眠らせてあげます〜!」

 彼女の杖から、これまでにない強い光が溢れ出す。

 タイラント・ゾンビが、再び苦痛の咆哮を上げる。その巨体はなお蠢いていたが、漆黒の外殻は剥がれ落ち、再生は完全に沈黙していた。

 シエラさんが剣を構え直す。

「いいぞ、ステファニー! お前の光で奴を完全に無力化しろ! 俺たちが、決着まで持っていく!」

「わかりました〜っ!」

 守られるだけだった少女が、戦場を支配する「光の導き手」として、その役割を果たし始めた。

 ネクロアは、もはや嘲笑を浮かべていなかった。その視線は、もはや実験体を眺めるものではない。

『……生命か。死を侵す力、か。面白い……実に、面白い……』

 戦いは、ついに最終局面へと突入しようとしていた。ステファニーさんの覚醒が、絶望的だった戦況を、一気に逆転への終着点へと導き始めている。

 俺は剣を握りしめ、仲間たちと共に前を向いた。

「行くぞ、みんな! ステファニーさんの光と共に――タイラントを、解放する!」

 黄金の光が、闇を焼き始めた。

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