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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第七十六話:レイナの《影との対話》とライトの光

 エルトリア郊外。人の寄り付かない旧訓練場。

 夜気を含んだ空気は冷たく、地面に残る無数の傷跡が、ここで何度も行われてきた危険な実験の過酷さを物語っていた。

「……正直に言うわ」

 レイナさんは、珍しく視線を伏せたまま口を開いた。

「この魔法、完璧に制御できてるとは言えない。使うたびに……“影”が、私の中に入り込んでくる感じがするの」

 闇属性・特級魔法《影との対話アブソリュート・シャドウ》。

 圧倒的な力と引き換えに、術者の精神を内側から蝕む危険な魔法だ。彼女は無理をして立っている。それを理解したとき、俺は思わず拳を握りしめた。

「だから、考えたのよ」

 レイナさんが、俺を真っ直ぐに見る。

「ライト。あんたの“光”を使えないかって。正反対の属性で、内側の影を中和したいの」

「……直接の結合は、無理です」

 即答したのはアルトだった。

「光と闇をそのまま混ぜれば、即座に相殺か暴走が起きます。最悪の場合、術者の精神構造そのものが壊れます」

「だから、直接じゃない方法よ! 私が『影(心)』を開いて、内側にライトを招き入れるって言ってるのよ!」

 レイナさんの決死の叫びに、アルトが眼鏡を押し上げた。

「……一つだけ、理論上の案があります。光と闇を混ぜない。間に“第三の魔力構造”を挟みます」

 アルトが全属性の適性を活かし、初級の光属性魔法を無数の数式で編み上げていく。それは幾何学的な光の紋様が幾層にも重なった、精密な「魔力の檻」だった。

「僕が構築したこの属性結界を“橋”にします。光と闇を直接触れさせず、同一平面に存在させるための緩衝材です」

「……始めるわよ」

 レイナさんが魔法陣の中心に立つ。

「ライトさん。昨日より出力を上げてください。ただし――光を保つ“意志”を絶対に離さないでください」

「……わかりました」

 俺は剣を握り、胸の奥に灯る光を引き上げる。

 逃げるな。怯むな。

 これは“繋ぐ”ための光だ。

「闇よ、全てを映せ――《影との対話アブソリュート・シャドウ》」

 漆黒の闇が、アルトの結界内へと流れ込む。

 一瞬――奇跡のような静寂が訪れた。

 光と闇が、反発することなく、アルトの描いた軌道に沿って回転を始める。

「……いける!」

 ステファニーさんが歓声を上げた。だが次の瞬間、アルトの顔から血の気が引いた。

「――っ!? 結界が……耐えられない!」

 精密だった光の紋様が、墨を流したように黒く染まっていく。

「違う、壊されたんじゃない……!」

 アルトが叫ぶ。

「闇が……僕が編み上げた中立魔力を、“自分の一部”として再定義して取り込んでいる……!」

 緩衝材は、闇を肥え太らせる糧へと変わった。

「くっ……まだだ……! 逃げるな、俺の光!」

 俺は歯を食いしばり、レイナさんの闇の奥底――手が届きそうで届かない、彼女の孤独な『影』に向けて必死に光を伸ばした。

 だが、俺が手を伸ばせば伸ばすほど、光は暴走し、反動がレイナさんの体を苛烈に焼き始める。

「ぐっ……、あ、あああ……っ!」

「レイナさん!」

「そこまでだ!」

 シエラさんの黒剣が一閃し、暴走する術式の中核を物理的に断ち切った。

 爆散する魔力の余波が、訓練場の石床を鋭く抉る。

「……失敗だ」

 アルトは膝をつき、震える指で地面を叩いた。

「これは、技術の問題じゃない。精度でもない。……属性の概念そのものが、僕の演算を拒絶している」

 レイナさんは、肩で息をしながら震える手を見つめていた。

「……これ以上、何をどうすればいいっていうの」

 その背中を、シエラさんだけが静かに見つめていた。

(……やはりな。ただの魔力同期や、外側からの制御じゃ無理だ。これは、地獄を見た者にしか辿り着けねえ答えだ。光と闇を合わせるには、生半可な理論じゃ足りねえ)

 彼女は、口には出さない。だがその視線は、確かに俺の「迷い」を捉えていた。

 ――その夜。

 宿の一室。暗い天井を見つめながら、俺は動けずにいた。

 コンコン、とノックの音。

「……入るぞ」

 シエラさんが部屋に入ってくる。

「お前、今日の失敗を“無駄”だと思ってるか?」

「……はい。俺のせいで、またレイナさんが……」

「違う。答えが技術の延長線上にないって、分かっただろ」

 シエラさんは立ち上がり、扉の前で振り返る。

「本当の意味で一つになるってのはな、技術じゃねえ。……『感情』だ。お前には相手を傷つける覚悟も、相手に傷つけられる覚悟も足りねえんだよ。本当の意味で命を預け合うってのは、そういうことだ」

 シエラさんの重い言葉が、部屋に冷たく、けれど熱く残った。

「自分で見つけな。その光と闇の先にしか、お前らが望む“最強”はねえんだからよ」

 扉が閉まる。

 俺は、胸の奥に残る微かな熱を感じていた。

 ――まだ、届かない。

 だが。

 いつか必ず、辿り着く。

 そう、信じたいと思った。

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