第七十三話:複合技《永護》の完成
レイナさんとアルトの攻撃連携が確立されてから数日が経過した。
エルトリアのギルド訓練場。今日は、ステファニーさんとアルトによる防御ラインをさらに引き上げる、極限の訓練だ。
「いいか、今のままでも十分強力だ。だが、ステファニーの魔力消費をさらに抑え込み、かつ『強度』をもう一段階引き上げたい。アルト、いけるか?」
シエラさんの問いに、アルトは資料室で練り上げた理論を胸に、静かに頷いた。
「はい。二重連結を使います。ただ供給量を増やすだけじゃなく、僕の魔力波形をステファニーさんに完全同期させます。ロスをゼロに近づければ、理論上は……」
二人が手を繋ぎ、アルトが二重の魔法陣を展開する。眩い光が二人を繋いだ。
「これ……すごいです〜……! 供給される魔力に混じり気がなくて、消費と供給が……ほぼ、釣り合っています〜……!」
「今です、ステファニーさん!」
「《生護》――っ!」
淡い黄金のドームがパーティを包み込む。だが、その光の密度は以前とは比べ物にならないほど濃い。
「アルト、ステファニー。そのまま維持してろ。……行くぞ、レイナ!」
「手加減なしよ! 焼き尽くせ!《流星炎舞》!」
上級火魔法の極大火球がドームを直撃した。……だが、爆炎が晴れた後、ドームは傷一つなく、揺らぎすらしていなかった。
「なっ……私の上級魔法を、正面から無傷で!?」
「驚くのはまだ早い。この出力なら……敵からの特級魔法だって防ぎきれるはずだ」
シエラさんの確信に満ちた言葉に、俺たちは息を呑む。
だが、アルトの額からは滝のような汗が流れていた。
「……維持は、できます。でも、この超高出力の波形同期は……僕の精神が数十分も持ちません。あくまでこれは、ステファニーさんの魔力を削らずに温存するための処置です。常時発動はできませんし、すべきじゃありません」
そしてシエラさんは、この術の「制約」を改めて突きつけた。
「いいか、勘違いするな。これは無敵の壁じゃねえ。ステファニーは同時に一つしか魔法を維持できねえんだ。 つまり、《生護》を張っている間は、個別の回復魔法は一切使えねえ。もし外に出た誰かが大きな怪我を負えば、治療のためにドームを解かなきゃならねえんだ。その時、ステファニーの魔力が底を突いてたら話にならねえ。だからこその魔力温存だ」
負傷=要塞の崩壊。
さらにドームの中からは攻撃魔法も遮断されるため、俺たちは守りを捨てて外へ打って出る必要がある。
「……不便ね。でも、あいつらが私に指一本触れさせないって言うなら、信じてあげるわよ。私は外で、敵を根こそぎ焼くだけだわ」
レイナさんはチッ、と小さく舌打ちしたが、その瞳には信頼が宿っていた。
(アルトとステファニーさんは動けない。だが、戦場に『絶対的な安全地帯』が常に存在し続けるというのは、前衛にとってこれ以上ない救いだ……!)
俺は剣を引き抜き、ドームの境界線を見つめた。
「ライト、レイナ。俺たち三人は、あの二人の『盾』であり『矛』だ。一歩も引くんじゃねえぞ。……誰一人、回復が必要なほどの怪我を負わなけりゃいいだけの話だ」
シエラさんの言葉に、全員が力強く頷く。
アルトが連結を解除し、肩で息をしながら立ち上がった。
「これが、僕たちの……《永護》です。皆さんの『帰る場所』として、僕は絶対にここを維持し続けます」
絶対的な要塞と、それを守る牙。
俺たちの戦闘システムは、ここに完成した。




