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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第七十一話:レイナの嫉妬

 レイナさんとアルトの連携が失敗してから、さらに数日が経過した。

 アルトは宿の資料室に籠もり、夜遅くまで魔導書と計算紙に向かい合っている。だが、訓練場での彼は、依然としてステファニーさんとの調整を優先していた。

 エルトリアのギルド訓練場。

 アルトとステファニーさんの《連結》は、もはや呼吸のように自然だ。

「ステファニーさん、魔力の流れはどうですか?」

「はい〜……とっても安定してます〜……! アルトくんの供給があると、本当に楽ですよ〜……!」

 二人は手を繋ぎ、微笑み合う。その周囲には、完璧に調整された魔力の残光が美しく漂っていた。

 俺とシエラさんは、その完成された連携に満足げに頷く。

 ――だが。

 その光景を、レイナさんは訓練場の隅から、壁にもたれて黙って見つめていた。

 繋がれた手。

 通じ合う視線。

 ステファニーさんの穏やかな笑顔。

 その全てが、レイナさんの胸を強く締め付けた。

(……置いていかれる)

 自分だけが、アルトの隣に立てない。

 自分だけが、彼の計算の外にいる。

 ステファニーのことは好きだ。あんなに優しくて良い子はいない。……だからこそ、今の自分が醜くて、耐えられなかった。

 アルトが《連結》を解除し、手を離す。

「今日の訓練はここまでです。お疲れ様でした、ステファニーさん」

「はい〜……お疲れ様です〜……」

 二人が歩き出そうとした瞬間。

 重い足音を立てて、レイナさんが詰め寄った。その瞳は、暗い炎を宿している。

「ねえ、アルト」

「あ、レイナさん。……はい、何でしょうか」

「……何、じゃないわよ」

 レイナさんの声が、微かに震える。

「あいつとは完璧にできるのに、なんで私とはできないのよ!? 私のことは後回しにして、ステファニーばかり優先して……!」

「レイナさん、僕は別の方法を探して……」

「嘘よ! 言い訳ばかり並べて、私のことなんてどうでもいいのよ! ……私だけ、置いていかれるじゃない……っ!」

 悲鳴のような叫びだった。

 ステファニーさんが、震える手でレイナの肩に触れようとする。

「レイナちゃん……そんなことないよ〜……アルトくんは――」

「黙ってて!!」

 鋭い怒鳴り声が訓練場に響き渡った。

 ステファニーさんの表情が凍りつく。その優しさに満ちた瞳に、さぁっと悲しみが広がっていくのが分かった。

「……あ」

 レイナさんの顔が、一瞬で青ざめる。

 自分が誰を傷つけたのか。一番言いたくなかった言葉を誰にぶつけたのか。

 後悔が波のように押し寄せたが、それを口にするプライドも、資格も、今の彼女には残っていなかった。

「……もういいわ。放っておいて」

 レイナさんは絞り出すように言うと、俺たちの視線から逃げるように訓練場を走り去った。その背中は、今にも折れそうなほど小さく震えていた。

「レイナちゃん〜……」

 ステファニーさんの瞳から、涙がこぼれ落ちる。

「……嬢ちゃんはな、負けるのが怖ぇんだ」

 シエラさんが低く呟いた。その一言に、今のレイナさんの苦しみの全てが詰まっている気がした。

 アルトは、レイナが出て行った扉をじっと見つめていた。

 その指先は、彼女の魔法が放っていた「微かな熱の余韻」を空中でなぞっている。

(……火を重ねるから、食い合ってしまうんだ)

 アルトの瞳に、一筋の鋭い光が宿った。

(レイナさんの『完成された火』をいじるんじゃない。……外側から、彼女の熱量を加速させる『風』。それも、ただの風じゃない。……そうか、それなら!)

 アルトは誰に言うでもなく、自身の手に魔力を灯した。

 その魔力は、先ほどまでの穏やかな供給とは一線を画す、鋭く研ぎ澄まされた計算の結果を反映していた。

「シエラさん。明日……明日、もう一度だけ、レイナさんとの時間をください」

 アルトのその言葉には、迷いはなかった。

 少年はついに、プライド高き魔術師を救う「答え」に辿り着こうとしていた。

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