第六十八話:アルトの創意工夫
アルトの加入後、俺たち五人での連携訓練が本格的に始まった。
エルトリアのギルド訓練場。
ステファニーさんは特級回復《生護》を展開し、パーティ全体を守る。
その絶対的な防御力は誰もが認めるものだった。
しかし問題はその後だ。
「はぁ……はぁ……」
ステファニーさんが息を切らし、よろめく。
特級スキル使用後、魔力枯渇を起こしてしまう。
シエラさんが素早く駆け寄り、ステファニーさんの身体を支える。
「お前も変わんねえな」
シエラさんが呆れたように言う。
「ご、ごめんなさい〜……」
ステファニーさんが申し訳なさそうに謝る。
俺とレイナさんも心配そうに近づく。
「ステファニーさん、大丈夫ですか?」
俺が声をかける。
「あんた、魔力管理が下手すぎるわよ」
レイナさんが少し厳しく言う。
ステファニーさんは涙目で頷く。
「わ、わかってるんです〜……でも、みんなを守りたくて〜……」
その言葉に誰も責めることはできなかった。
シエラさんがステファニーさんに魔力回復のサポートをしながら静かに言う。
「お前の防御が完璧でも、魔力枯渇じゃ意味がねえ。ここがお前の弱点だ」
ステファニーさんは俯く。
シエラさんはステファニーさんの特級防御を継続させるためには、自分が常にケア役を担わなければならないと認識していた。
しかしそれによりパーティ全体の戦術が限定されてしまう。
シエラさんは少し離れた場所で訓練を見守るアルトに視線を向ける。
「もう一人、魔力の供給役が必要だな」
シエラさんが呟く。
その言葉をアルトは聞いていた。
アルトはステファニーさんの魔力枯渇を見て、静かに考え込んでいた。
「シエラさん」
アルトがシエラさんに近づく。
「お前に?」
「はい」
アルトが頷く。
「僕の魔力を、ステファニーさんに供給する方法を思いつきました」
シエラさんは興味深そうに目を細める。
「ほう。どうやる?」
「治癒初級魔法の応用です」
アルトが説明を始める。
「治癒魔法は、相手の身体に魔力を流し込んで回復を促す魔法です。それを応用して、相手の魔力回路に直接接続し、魔力を供給する……それが、僕の考えた連結です」
シエラさんは少し驚く。
「魔力回路に直接接続……?」
「はい。僕の魔力を、ステファニーさんに少量ずつ供給し続ければ、魔力枯渇を遅らせられるはずです」
シエラさんは少し考え込む。
そして驚愕の表情を浮かべる。
「おいおい、正気かよ」
シエラさんが言う。
「魔力の譲渡なんて、普通は互いの精神を削り合う自殺行為だぞ。他人の魔力を流し込まれたら、普通は拒絶反応で回路が焼き切れるか、魔力が霧散しちまう。それを『同調』させるなんて……坊主、お前の頭の中はどうなってやがる」
アルトは少し汗をかきながら笑う。
「少し、計算が忙しいだけですよ」
アルトが静かに答える。
「ステファニーさんの回路がオーバーヒートしないよう、僕の魔力を『彼女の色』に染めてから流し込めば、拒絶反応は起きないはずです」
シエラさんは唖然とする。
「……お前、本当に化け物だな」
シエラさんが呆れたように笑う。
「試してみてもいいですか?」
アルトが真剣な表情で聞く。
シエラさんは頷く。
「ああ。やってみろ」
アルトはステファニーさんの元へ近づく。
「ステファニーさん」
アルトが声をかける。
「アルトくん……?」
ステファニーさんが顔を上げる。
「僕の魔力を、あなたに供給させてください」
ステファニーさんは少し驚く。
「え……魔力を……?」
「はい。僕の魔力を、あなたに少量ずつ供給します。それで、魔力枯渇を防げるはずです」
ステファニーさんは目を見開く。
「本当に〜……? それなら〜……嬉しいです〜……」
「じゃあ、始めますね」
アルトがステファニーさんの手を取る。
そして治癒初級魔法を発動する。
だが通常の治癒魔法とは違う。
アルトは自分の魔力をステファニーさんの身体に流し込むのではなく、彼女の魔力回路に接触させる。
魔力の流れを感じ取り、自分の魔力回路と彼女の魔力回路を繋ぐ。
まるで二つの川を小さな水路で繋ぐように。
「《連結》」
アルトが静かに呟く。
瞬間、アルトの手が淡い光を放つ。
その光がステファニーさんの身体に流れ込む。
ステファニーさんは目を見開く。
「あ……!」
ステファニーさんが驚いて言う。
「体の中が温かくて〜……さっきまでの痛いような渇きが〜……すーっと消えていきます〜……」
アルトは小さく微笑む。
「僕の魔力を、少量ずつ供給しています。ステファニーさんの魔力の波長に合わせているので、拒絶反応は起きないはずです。これで、魔力枯渇を防げるはずです。ただし……」
アルトが続ける。
「手を繋いでいる間しか、魔力を供給できません。離れると、《連結》は解除されます」
ステファニーさんは少し不安そうな顔をする。
「じゃあ〜……アルトくんは〜……ずっと私の隣に〜……?」
「はい」
アルトが頷く。
「僕はステファニーさんの隣から離れられません。それが、この魔法の弱点です。でも、それで良かったら」
ステファニーさんは涙を流して喜ぶ。
「ありがとうございます〜……アルトくん〜……」
シエラさんがアルトとステファニーさんの様子を見て感心したように言う。
「すげえな、坊主。本当に魔力を供給してやがる」
レイナさんと俺も驚く。
「魔力を供給……?」
レイナさんが驚いて言う。
レイナさんは少し戦慄したように、アルトを見つめる。
「ちょっと待って……魔力の譲渡って、普通は自分の魔力を守るので精一杯なのよ。それを他人に流し込んで、しかも相手の回路に合わせるなんて……。あんた、本当に化け物ね」
レイナさんが小さく呟く。
アルトは少し照れくさそうに笑う。
「そんな大したことじゃないですよ」
「いや、大したことだ」
シエラさんが言う。
「治癒魔法の応用だ。アイツは、自分の魔力回路とステファニーの魔力回路を繋いで、魔力を供給してる。しかも、ステファニーの魔力の波長に合わせて、拒絶反応を起こさないようにしてやがる」
俺も目を見開く。
「そんなこと、できるんですか……?」
シエラさんが頷く。
「普通はできねえ。だが、アイツはやってのける」
シエラさんが続ける。
「坊主、お前が供給している間、ステファニーの魔力はどうなる?」
「特級スキルを使っているのに、魔力が一気に抜けていかないです〜……!」
ステファニーさんが驚いて言う。
「減り方が〜……すごく緩やかになってます〜……!」
アルトは頷く。
「僕の供給で、消費の大部分を相殺しています。完全にゼロにはできませんが……これなら、数秒で倒れることはないはずです」
シエラさんは満足そうに笑う。
「なるほどな。一分しか持たなかった『絶対防御』が、これでおそらく数分は持つようになった……」
「戦場での数分は、勝敗を決めるには十分すぎる時間だぜ」
全員が頷く。
アルトはステファニーさんに魔力を供給しながら、もう一方の手で土属性魔法を発動する。
「土初級《土壁》」
地面から土の壁が立ち上がる。
一つ、二つ、三つ。
アルトは幾重にも土の壁を築いていく。
片手でステファニーさんの手を繋ぎ、もう片手で土の壁を次々と築く。
供給しながらも、アルトは戦術家として動いている。
「これで、回復のための時間を稼げます」
アルトが静かに言う。
土の壁がステファニーさんとアルトを守るように、幾重にも重なる。
シエラさんはその光景を見て満足そうに笑う。
「お前、本当に完璧だな」
シエラさんが言う。
「魔力供給で回復を支えながら、土の壁で時間を稼ぐ。供給機じゃなく、ちゃんと戦術の要として動いてやがる」
アルトは少し照れくさそうに笑う。
「僕にできることは、これくらいですから。ただ、《連結》は接触が必要なので、僕はステファニーさんの隣から離れられません」
アルトがデメリットを説明する。
「それが、この魔法の弱点です」
シエラさんは少し考え込む。
「……なるほど。お前が動けないってことは、護衛が必要だな」
「はい」
アルトが頷く。
「でも、ステファニーさんの防御があれば、大丈夫だと思います」
シエラさんは頷く。
「ああ。ステファニーの《生護》があれば、お前たちは安全だ」
アルトの魔力供給により、ステファニーさんは徐々に魔力を回復し、再び防御を再構築する。
「もう一度〜……《生護》〜……」
ステファニーさんが特級回復を発動する。
今度は魔力枯渇を起こさない。
アルトの魔力がステファニーさんを支えているからだ。
「すごい〜……魔力が一気に抜けていかないです〜……!」
ステファニーさんが驚いて言う。
「減り方が〜……すごく緩やかです〜……!」
ステファニーさんは安堵の笑みを浮かべる。
シエラさんはその様子を見て確信する。
「これで、アルトの魔力供給がステファニーの超回復を支える、永続的な防御ラインが確立されたな」
レイナさんは少し驚きながらも認める。
「とりあえず、これで魔力枯渇の心配は減ったわね」
俺も安心したように微笑む。
「これで、ステファニーさんも安心して戦えますね」
ステファニーさんは肩の力が抜けたように小さく笑う。
「はい〜……本当に〜……楽になりました〜……」
シエラさんが俺たち五人を見渡しながら言う。
「今の段階じゃ、これが最善の形だな」
シエラさんが続ける。
「アルトの魔力供給が、ステファニーの超回復を支える」
「この永続的な防御ラインが、俺たちのパーティの核だ」
全員が頷く。
アルトは少し照れくさそうに笑いながら言う。
「僕にできることは、これくらいですから。これで、みんなが安心して戦えるなら、僕は嬉しいです」
ステファニーさんは声を弾ませて言う。
「アルトくん〜……本当にありがとうございます〜……!」
レイナさんは少し悔しそうな顔をしながらも小さく呟く。
「……あんた、本当に侮れないわね」
俺はアルトを尊敬の眼差しで見つめる。
「アルトさん、すごいです……」
シエラさんは満足そうに笑いながら言う。
「よし。次は、もっと強い敵と戦って、この連携を完璧にするぞ」
全員が頷く。
でも俺は少し不安だった。
アルトはステファニーさんの隣から離れられない。
それは彼が危険に晒されるということだ。
俺はもっと強くならなければならない。
アルトとステファニーさんを守れるように。
俺はそう決意した。
アルトの魔力供給とステファニーさんの超回復。
この二つが組み合わさることで、俺たち五人パーティの核となる永続的な防御ラインが確立された。
そして次なる戦いへと、俺たちは歩み始める。
俺は思う。
アルトはステファニーさんの隣から離れられない。
だからこそ、俺が、レイナさんが、シエラさんが前線で戦って二人を守らなければならない。
それが俺たちの役割なんだ。
俺は剣を握りしめる。
もっと強くなる。
もっとみんなを守れるようになる。
そのために俺は頑張るんだ。




