第六十七話:ライトからのお願い
エルトリアのギルド訓練場。
アルトとステファニーさんが連携訓練を続けている。
俺はレイナさんの姿を探していた。
訓練場の隅で、レイナさんは一人、標的に向けて火魔法を放っていた。
炎が正確に的を貫き、焼き尽くす。
その精密な制御を見て、俺は改めて彼女の実力を実感する。
「レイナさん」
俺が声をかける。
レイナさんが振り向いた。
「何? あんた、シエラに剣の訓練でもつけてもらえば?」
少し高圧的な口調。
でもそれがレイナさんの普段の態度だと、俺は理解している。
彼女なりの気遣いなのだと。
「いえ、その……お願いがあって」
俺は真剣な表情で言う。
レイナさんは少し意外そうな顔をする。
「お願い?」
「はい」
俺が頷く。
「《光弾》の時、レイナさんのアドバイスでとてもわかりやすかったんです」
レイナさんは少し驚いた表情を見せる。
彼女は以前、俺が《光弾》の制御に苦労していた姿を見ていた。
魔法が苦手な剣士が、光の魔力を放出することに悪戦苦闘していた姿を。
あの時、レイナさんが色々とアドバイスをくれた。
剣に光を乗せて放出する方法を教えてくれた。
おかげで俺は《光弾》を、剣に乗せて成功させることができた。
それがとても嬉しかったんだ。
「それで……敵を近づかせないため、光の遠隔攻撃をもっと強力にしたいんです。指導をお願いします」
俺が深々と頭を下げる。
レイナさんは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに腕を組んで考え込む。
「ふーん。あんた、剣士なのに遠隔攻撃ね」
「はい。今のままだと、どうしても敵に近づかないと攻撃できません。でも、それじゃステファニーさんの防御に負担をかけてしまう」
俺の言葉には仲間への配慮が滲んでいた。
昨日のステファニーさんが魔力枯渇でよろめいた姿が、頭から離れない。
「シエラさんみたいな前衛にはなれないかもしれませんが……せめて、近づいてくる敵を迎撃できる力が欲しいんです」
その真剣な眼差しに、レイナさんは小さく息をついた。
「……わかったわよ。でも、私の指導は厳しいわよ?」
「お願いします!」
俺がもう一度頭を下げる。
その様子を、少し離れた場所から見ていたシエラさんが近づいてくる。
「坊主、いい判断だな」
シエラさんが言う。
「シエラさん……」
「剣士が遠隔攻撃を持つってのは、戦術の幅が広がる。特に、お前の光属性なら魔族相手に有効だ」
シエラさんはレイナさんを見て、口元に笑みを浮かべる。
「嬢ちゃん、坊主をよろしく頼むぜ。お前、《光弾》の時も教えてたんだろ?」
レイナさんは少し頬を赤らめながら、そっぽを向いた。
「……別に、頼まれなくたってやるわよ」
俺は少し嬉しくなる。
レイナさんはまた、俺に教えてくれるんだ。
レイナさんが標的の前に立ち、俺を隣に呼ぶ。
「あんた、《光弾》で苦労してたわよね」
俺は少し苦笑する。
「はい……魔法として放出するのは、どうしても難しくて」
「でも、剣に乗せたら成功したわよね」
レイナさんが続ける。
「だから、今回も剣を使うわ」
俺は少しホッとする。
やはり俺には、剣を使う方が向いているんだ。
「私が教えるのは、光中級魔法……《輝閃》よ」
レイナさんが言う。
「光中級……《輝閃》……?」
俺が驚いて繰り返す。
中級。
俺が中級魔法を?
「そう。光を槍状に圧縮して、剣に乗せて飛ばす技よ」
レイナさんは空中に図を描くように、指で説明する。
「《光弾》は魔力を直接放出する初級魔法だけど、《輝閃》は剣に光を纏わせて、それを突き出すと同時に放出する中級魔法。剣を使うから、あんたにも使いやすいはずよ」
俺は少し考える。
剣に光を纏わせて、突き出すと同時に放出する。
それが《輝閃》なんだ。
レイナさんが腕を組んで、俺を見つめる。
「いい? 《光弾》は『面』で叩く魔法。でも《輝閃》は『点』で貫く魔法よ。あんたの剣筋の鋭さを、そのまま光の形にしなさい」
俺は少しイメージが湧く。
面で叩くのではなく、点で貫く。
「《輝閃》は、光を槍状に圧縮して射出する魔法よ」
レイナさんが続ける。
「剣に光を纏わせるのは、あんたも《光剣付与》でやってるわよね」
「はい」
俺が頷く。
「それを、もっと細く、鋭く圧縮するの。槍の形にね」
レイナさんは自分の手に火を灯し、細長い槍のような形に変化させる。
「そして、剣を突き出すと同時に、その光を解放する」
「剣に乗せて飛ばす……!」
俺が驚いて言う。
「そう。剣を使うから、あんたの《光弾》よりも制御しやすいはずよ」
レイナさんは真剣な表情で俺を見つめる。
「それに、光属性には魔族や闇属性に対する特効がある。槍状に圧縮すれば、貫通力も上がって、相手の簡易結界も突破できるわ」
「なるほど……」
俺が頷く。
レイナさんがさらに説明を続ける。
「剣先の一点に魔力を凝縮させなさい。針の穴を通すようなイメージよ。そうすれば、光は拡散せずに直進する力、つまり『貫通力』に変わるわ」
その説明はとても理論的で、分かりやすい。
レイナさんは本当に魔法の天才なんだ。
「ただし、制御が難しい。光を槍の形に保ったまま、剣に乗せて射出するには、かなりの集中力が必要よ」
俺は少し緊張する。
でもやってみたい。
「……やってみます」
俺が答える。
レイナさんが頷く。
「いい返事ね。じゃあ、やってみなさい」
俺は深呼吸をし、魔力を集中させる。
まず、剣に光を纏わせる。
《光剣付与》の要領だ。
剣が淡い光を放つ。
ここから、光を槍の形に。
俺は光を細く、鋭く圧縮しようとする。
しかし光は剣の周囲に広がったまま、形を保てない。
「ダメだ……」
俺が呟く。
「当たり前よ。魔法の形状を変えるってのは、そう簡単じゃないの」
レイナさんが腕を組んで言う。
「もう一回。今度は、光を"引き伸ばす"んじゃなくて、"槍の形に圧縮する"イメージで」
俺は頷く。
「いい? 魔力ってのは、形を決めないと勝手に散らばるのよ」
レイナさんが自分の手に再び火を灯す。
「私の火魔法だって、最初は制御できなかった。でも、"こうなってほしい"って強く念じれば、魔力は応えてくれる」
炎が細長い槍のような形に変化する。
「あんたの光も同じ。剣の先端に、"槍になれ"って、強く念じなさい」
「はい……!」
俺が答える。
俺は再び魔力を集中させる。
今度は剣の先端に光を集め、槍の形に圧縮するイメージを強く持つ。
剣先の一点。
そこだけに全ての魔力を集める。
散らばるな、凝縮しろ。
これが仲間を守るための、俺の『槍』だ。
剣に纏わせた光が徐々に先端に収束していく。
そして細長い光の槍が、剣の延長線上に形成される。
「いい感じよ。そのまま、形を固定して——剣を突き出して!」
レイナさんが言う。
俺は集中を保ったまま、剣を突き出す。
その瞬間、光の槍が剣から解放され、空間を切り裂いた。
空気を引き裂く鋭い音。
光の軌跡が視界に焼き付く。
細く鋭い光の線が標的に命中し、命中点で閃光が弾ける。
着弾の瞬間、標的が爆発するように砕け散った。
「やった……!」
俺が驚いて言う。
「おお、一発で形にしたか」
シエラさんが驚いた声を上げる。
「さすが坊主、飲み込みが早いな。剣を使う分、《光弾》より制御しやすかったか」
「はい……剣に光を纏わせるのは、《光剣付与》で慣れていたので」
俺が少し照れくさそうに笑う。
シエラさんが続ける。
「俺なら力任せに振るが、お前にはその繊細な制御の方が合ってる。嬢ちゃん(レイナ)の教え方は理にかなってるな」
レイナさんは顔を背けながらも、口元に小さな笑みを浮かべる。
「……まあ、あんたが《光弾》で苦労してたの知ってたから、剣を使う方法にしたのよ」
俺はとても嬉しくなる。
レイナさんは俺のことを、ちゃんと見てくれていたんだ。
俺が《光弾》で苦労していたことを覚えてくれていた。
それが嬉しい。
「ありがとうございます、レイナさん」
俺が心から言う。
レイナさんは少しだけ照れたように視線を逸らす。
「でも、まだまだよ。一発撃てたくらいで満足しないで」
レイナさんが再び標的を指差す。
「連続で撃てるようになりなさい。それに、威力ももっと上げられるはず」
「はい!」
俺が答える。
俺は再び魔力を集中させる。
剣に光を纏わせ、先端に槍状に圧縮する。
そして剣を突き出す。
空気を引き裂く鋭い音。
二発目。
三発目。
徐々に《輝閃》の精度と速度が上がっていく。
レイナさんが訓練場の端から、複数の標的を一直線に並べる。
「次は、これ」
レイナさんが言う。
「三つ貫通できたら合格よ」
「三つ……!」
俺が驚いて言う。
レイナさんは真剣な表情で頷く。
「あんたならできるわ。やってみなさい」
俺は深呼吸をし、魔力を最大限に込める。
剣に光を纏わせ、先端に槍状に圧縮する。
今度はいつもより強く、鋭く。
いける。
俺はそう思った。
光が槍の形に圧縮され、強烈な輝きを放つ。
俺は剣を構え、全力で突き出す。
「《輝閃》!」
俺が叫ぶ。
空気を引き裂く鋭い音。
光の軌跡が視界に焼き付く。
細く鋭い光の線が空間を切り裂き、三つの標的を次々と貫通する。
着弾の瞬間、標的が爆発するように砕け散る。
一つ目、二つ目、三つ目。
全てに深い穴が開き、光の痕跡が残った。
「……合格ね」
レイナさんが満足そうに頷く。
俺は自分の剣を見つめる。
やった。
《輝閃》が使えるようになった。
「あんた、やればできるじゃない」
レイナさんが少し嬉しそうに言う。
「ありがとうございます、レイナさん。《光弾》で苦労した時も、色々教えてくださって……」
俺が心から言う。
あの時、レイナさんが剣に光を乗せて放出する方法を教えてくれた。
おかげで俺は《光弾》を、剣に乗せて成功させることができた。
そして今日も《輝閃》を教えてくれた。
レイナさんが俺のために、色々とアドバイスをくれる。
それが本当に嬉しい。
「別に……私も、あんたが苦労してるの見てられなかっただけよ」
レイナさんがそう言いながらも、その表情は柔らかい。
シエラさんが俺たちに近づき、笑顔で言う。
「いいコンビじゃねえか。坊主の光と、嬢ちゃんの火——どっちも攻撃的で、相性いいな」
「そ、そうかしら……?」
レイナさんが少し照れたように視線を逸らす。
俺は自分の剣を見つめる。
遠隔攻撃。
これで、もっと仲間を守れる。
敵が近づく前に迎撃できる。
ステファニーさんにあんな負担をかけることも減るはずだ。
それが俺の役割なんだ。
「レイナさん、本当にありがとうございました」
俺がもう一度言う。
「……もういいわよ。次も困ったことがあったら、言いなさい」
レイナさんがそっぽを向きながらも、その言葉には優しさが滲んでいた。
俺は思う。
今日、俺の光属性がまた成長した。
《光剣付与》を完成させて、光の刃も飛ばせるようになった。
それが《光弾》の応用で。
そして今、光中級《輝閃》を習得した。
剣に光を乗せて飛ばす。
剣士としての遠隔攻撃手段を得たことで、前衛としての戦術の幅が大きく広がった。
そしてレイナさんとの距離も、また少し縮まった気がした。
レイナさんがアドバイスをくれた。
それが嬉しい。
俺はそんな未来を思いながら、訓練を続けた。
もっと強くなる。
もっとみんなを守れるようになる。
そのために俺は頑張るんだ。




