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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第六話:王都からの旅立ち

 王宮での基礎訓練が始まって、十日が経った。


 シエラさんによる矯正訓練は非常に厳しかったが、そのおかげで、俺の剣は少しずつ――本当に少しずつだが、「実戦」の感覚を掴み始めていた。

なにより大きかったのは、シエラさんが俺のトラウマを理解し、決して焦らせずに接してくれることだ。それが、今の俺の心の支えになっている。


 その日の朝。  


シエラさんは、俺を訓練場ではなく、王宮の門前に呼び出した。


「おう、来たか」


「はい。……あの、シエラさん? 今日は訓練場じゃないんですか?」


 背負った荷物がやけに気になり、そう尋ねる。


「ああ。今日から実戦訓練の第一段階だ」


 シエラさんは俺の横に立ち、王都の外を指差した。


「王都を出る。お前を、もっと強くするためにな」


「王都を……出る?」


 思わず聞き返してしまう。てっきり、王宮の敷地内で訓練が続くものだと思っていた。


「ここじゃ限界がある。王宮の訓練場は綺麗すぎてな。お前の剣術の悪い癖を、完全には矯正しきれねえ」


 そう言って、シエラさんは俺の肩を軽く叩いた。


「魔物が出ない場所で、不安定な地形に慣れさせる。まずはそこからだ。安心しろ、いきなり危険な場所には行かねえ」


「……わかりました」


 少し緊張したが、シエラさんの顔を見て頷く。この人が大丈夫だと言うなら、きっと大丈夫だ。


「じゃあ出発だ。荷物は持ったな?」


「はい!」


 剣、着替え、食料。最低限だが、旅に必要なものは揃っている。


「よし、行くぞ」


 シエラさんは王都の門をくぐり、外へと歩き出した。俺もその背中を追う。


 王都の外の景色を見るのは、生まれて初めてだった。  広い平原がどこまでも続き、遠くには深い山々が連なっている。道は整備されていて、歩きやすい。


「シエラさん、どこに向かうんですか?」


「山間部だ。魔物が出ねえ、比較的安全な場所だな」


 前を向いたまま、シエラさんは答えた。


「お前の基礎を固めるには、まず安心できる環境が必要だ。焦る必要はねえ」


「……魔物が、出ないんですね」


「ああ。まずは、お前が安心して剣を振れること。それが第一だ」


「ありがとうございます……」


 その背中を見つめながら、胸の奥がじんわりと温かくなる。  焦らせず、俺の恐怖の根源――『力の制御』と『誰かを傷つける不安』を切り離そうとしてくれている。その配慮が、何より嬉しかった。


 数時間歩き続け、俺たちは王都からかなり離れた山間部へと辿り着いた。  木々に囲まれた静かな場所だ。


「ここだ」


 シエラさんが、開けた場所で足を止める。


「ここが、お前の訓練場になる」


「ここで……ですか?」


「ああ。魔物はいねえが、地形は最悪だ」


 周囲を指差す。


「石だらけで、平らな場所がほとんどねえ。木も多い。こういう場所で剣を振れなきゃ、実戦じゃ意味がねえ」


 確かに、地面は凹凸だらけで、石や岩が転がっている。王宮の訓練場とはまるで違う。


「さて、始めるか。まずは軽く身体を慣らしてからだ」


 シエラさんは木剣を取り出した。


「お前も剣を抜け」


「はい!」


 剣を抜き、構える。


「いいか、ライト。この場所じゃ、完璧な型なんて通用しねえ」


 シエラさんは続ける。


「この木を避けながら、俺を打ってみろ。一の太刀だ」


 距離を取られ、俺は言われた通り剣を振ろうとした――が。


(……まずい)


 剣の軌道の先に、太い木の幹がある。  反射的に、剣を止めてしまった。


「ほらな」


 シエラさんが言う。


「お前の剣は、型通りの軌道しか通れねえ。周囲を無視してる。実戦じゃ、それが命取りだ」


「……っ」


 悔しさに、歯を食いしばる。


「だから慣れろ。不安定な場所で、どう動くかを体に叩き込む」


 次の瞬間、木剣が振られた。


 避けようとして――足元の石に躓く。


「っ!」


「ほら、すぐ崩れた」


 背中に、軽い衝撃。


「平らな地面が前提の動きだ。だが、現実は違う」


 そこからは、ひたすら繰り返しだった。


「地面を見ろ!」 「足元を意識しろ!」 「木が邪魔なら、軌道を短くしろ!」


 何度も転び、何度も体勢を崩しながら、それでも剣を振り続ける。


 やがて――少しずつ、感覚が変わってきた。


 石の位置を足裏で感じ取り、体重移動でバランスを取る。  木が近ければ、剣の軌道を自然と短くする。


「……いいぞ」


 シエラさんの声が響いた。


「今の動き、悪くねえ」


「本当ですか……!」


「おう。ちゃんと実戦向きになってきてる」


 そう言って、木剣を下ろす。


「今日はここまでだ。明日も同じことをやる。慣れるまでな」


「はい!」


 訓練の後、簡単なキャンプを張った。


「手伝います」

「じゃあ水を汲んできてくれ」


 火を囲み、食事をしながら、俺は正直な気持ちを口にした。


「……王都を出て、気が楽になりました。女性が少ない場所だと」


「……そうか」


「ここには俺とシエラさんしかいない。だから、安心できます。シエラさんは……例外なので」


「なるほどな」


 シエラさんは笑った。


「じゃあ、これからも安心しろ。俺はお前のこと、ちゃんと分かってる」


 夜が更けていく。


 テントに入り、横になると、身体は疲れているのに、心は不思議と穏やかだった。


(いつか、この剣で誰かを守れる日が来る)


 そう信じながら、俺は眠りについた。

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