第五十三話:ステファニーの魔力管理の弱点
ライトが《輝剣纏装》を習得し、連携訓練へと移行してからさらに数日が経過した。
今日は「弱点を洗い出す」とシエラさんに事前に告げられていた通り、訓練場にはかつてない強度の仮想戦闘シミュレーションが展開されていた。
「来るわよ、ライト! 右!」
レイナさんの鋭い声と共に、闇の矢が放たれる。俺は即座にその軌道へ光を添わせた。集中力を極限まで高め、不完全ながらも《煌闇の紫矢》を成立させる。紫電を纏った一撃が、幻影の敵を霧散させていくが、その威力は俺とレイナさんの魔力を激しく削り取っていった。
だが、シミュレーションの強度は、昨日の比ではなかった。
無数の魔法光弾が、逃げ場のない弾幕となって俺たちに降り注ぐ。
「ステファニー! 展開しろ!」
シエラさんの号令が飛ぶ。
「はいっ!」
ステファニーさんが杖を掲げた。
癒し特級――《生護》。
完璧な防御。だが、持続時間と消耗を度外視したそれは、あまりに過剰な輝きを放っていた。守られている俺の肌が、ピリピリと痛むほどの高密度な魔力場。光属性の密度が空間を圧迫し、隣にいたレイナさんが苦々しく顔を歪めた。
「ちょっと……! ステファニー、光が強すぎて私の展開空間が潰されちゃうじゃない! 闇が霧散する前に出力を絞って!」
「ご、ごめんなさい〜……でも、皆さんに一撃でも当てたくなくて……っ!」
ステファニーさんは制御限界を超えた魔力を、ただひたすら結界に注ぎ込み続けていた。仲間を傷つけたくないという慈愛が、魔力回路のブレーキを破壊しているのだ。
「第二波、三波、同時だ! 弱点を自覚させるまで手は緩めねえぞ!」
シエラさんは、あえてシミュレーションの強度をさらに跳ね上げた。
幻影の騎士たちが押し寄せる中、第四波を凌いだ時点で、結界の光がわずかに揺らいだ。ステファニーさんの顔面は紙のように白く、語尾を伸ばす余裕すら消えていた。
「ステファニー、魔力を抑えろ! 効率を考えろ!」
シエラさんの叱咤が飛ぶが、彼女は震える手で杖を握り直すだけだった。
「……っ、まだ……いけます……皆さんだけは……私が……!」
そして、第五波。
全方位からの同時攻撃が放たれた瞬間、ステファニーさんの魔力は完全に底をついた。
「あ……」
魂の燃料が枯渇した衝撃で彼女の膝から力が抜け、杖が乾いた音を立てて砂に落ちた。守りが、消えた。
その刹那、仮想敵の鋭い剣先が、俺の喉元へと迫る。
「――くっ!」
間に合わなかった。俺の前衛としての判断が半拍遅れ、迎撃が届かない。
寸前、シエラさんが指を鳴らした。幻影が塵となって消え、訓練場に冷たい静寂が戻る。
「……戦場なら、今の一秒でお前らは全滅だ」
シエラさんの冷徹な事実告知が、重く響いた。
俺は膝をついたステファニーさんの元へ駆け寄った。彼女の指先は氷のように冷たく、視線は虚空を彷徨っている。
「ステファニーさん! 大丈夫ですか!」
「は、はい……すみません……また、全部……出しちゃいました……」
レイナさんも駆け寄り、その肩を支えた。
「あんた、馬鹿じゃないの……? 特級持ちが自爆してどうすんのよ」
シエラさんが、ステファニーさんの不器用すぎる背中を冷厳な目で見つめていた。
「こいつの弱点は、その過剰な善性だ。これじゃあどんなに魔力があっても、長期戦になった途端にパーティの『死穴』になるぞ」
俺は自分の不甲斐なさを噛み締めた。守る力を得たつもりでいたが、結局はステファニーさんの献身に甘え、彼女をここまで追い詰めていた。俺がもっと前線で敵を抑えていれば、彼女はここまで無茶をしなかったはずだ。
「今日の訓練はここまでだ」
シエラさんは出口へ向かいながら、独り言のように呟いた。
「……やはり、あいつが合流しねえことには歯車は噛み合わねえか。魔力を『削らせずに使わせる』役目の、あいつがな」
魔力を削らせずに使わせる――。
ステファニーさんの致命的な欠陥を補い、この歪なパーティを繋ぎ合わせる最後のピース。俺は、レイナさんに支えられながら弱々しく息をつくステファニーさんの姿を見つめ、まだ見ぬ仲間への渇望を強く抱くのだった。




