第五十二話:ライト、新技の習得
《光剣付与》の基礎を叩き込まれてから、さらに数日が経過した。
失敗と魔力枯渇を繰り返し、指先が痺れるような疲労に耐えながらも、俺は毎日訓練を続けていた。地味な反復練習だが、少しずつ、自分の魔力が鋼と馴染んでいく感覚だけが頼りだった。
だが、シエラさんはその歩みを止めさせてはくれない。
「ライト。その『初級』の安定だけで満足してんじゃねえぞ。次は――中級に引き上げる」
シエラさんが掲げた次なる目標、それは光中級《輝剣纏装》だった。
「中級……俺に、届くでしょうか」
「届かせるんだよ。今のお前の《付与》は、魔力が剣の中心に固まりすぎている。ムラがあるんだ。刃の先端から柄の先まで、均等に魔力を編み込め。……剣そのものを、光の器にするイメージだ」
俺は訓練場の中央で剣を構えた。
視界の端では、ステファニーさんとレイナさんが見守っている。
「頑張ってください~」というステファニーさんの声に混じり、レイナさんが短く言った。
「中級なんて、今のあんたならすぐよ。……やりなさい」
突き放すようでいて、確かな期待が混じるその言葉に、俺は短く「はい」と答えて意識を研ぎ澄ませた。
集中する。魔力を力として押し出すのではなく、剣の一部として「同化」させる感覚。
最初は、光が先端に届く前に霧散し、あるいは柄に溜まりすぎて弾けた。
「もっと細かく、丁寧にだ。神経を鋼の先にまで通わせろ!」
シエラさんの怒声が飛ぶ。
試行錯誤の末、俺は一つの境界を越えた。
その瞬間、剣のどこかではなく――剣そのものが、ひとつの光として脈打った。
白銀の剣身が、内側から溢れ出す純白の光に包まれる。
中心部も、切っ先も、柄の装飾まで。すべてが均等な輝きを放ち、安定していた。
「……これが、《輝剣纏装》」
「ああ。中級としては申し分ねえ。その状態なら物理的な刃よりも、わずかに外側まで光の干渉領域が広がっている。……つまり、リーチが伸びてるってことだ」
俺は訓練場の奥にある木製の標的に向かい、一気に踏み込んだ。
シュン、と。
物理的な鋼が届くよりも一瞬早く、拡張された光の層が標的を捉えた。
抵抗は、ほとんどなかった。
光を纏った一撃は、重厚な木標を吸い込まれるように真っ二つに分断した。切断面は、凄まじい熱量によって黒く焦げ、煙を上げている。
「習得だな。だが、浮かれるなよ。今の精度じゃ維持できても数分だ。集中を切らした瞬間、その光は一気に霧散する。まだ常用できる技じゃねえぞ」
シエラさんの称賛を聞きながら、俺は自分の右手に目を落とした。
凄まじい破壊力。焼き切れた断面。
その光景が、不意に、前世の忌まわしい記憶を引き摺り出してきた。
逆上して剣を振り回し、女性に大怪我を負わせてしまった、あの日の血の匂い。
俺の指先が、目に見えて震え始める。
「ライト」
シエラさんの声。
「お前、今――何を考えてた」
俺は迷ったが、喉の奥から絞り出すように答えた。
「……怖くなったんです。この威力で、また人を傷つけてしまうんじゃないかって」
シエラさんはすぐには答えなかった。
一拍の沈黙。彼女は数秒、俺の震える手から視線を逸らした後、静かに俺の肩を掴んだ。
「……その震え、ただのビビりじゃねえな。女性恐怖症の原因も、根っこはそこか」
「はい……」
「いいか、ライト。お前がその剣で何を斬るかは、お前が決めることだ。確かにお前の光は鋭い。だが、お前が剣を振るわなければ、そこにいるレイナもステファニーも守れねえ。……その光を『凶器』にするか『守護』にするかは、お前の心次第だ」
肩を掴む手の強さが、俺の震えをわずかに抑えてくれた。
そこへ、レイナさんが歩み寄ってくる。
「ライト。あんたの気持ち、分からないでもないわ。……でも、あんたの光はあたしたちを守る光なのよ。あたしが、そう認めてるんだから。……自信持ちなさいよ」
レイナさんの視線は、真っ直ぐに俺を射抜いていた。
「今の段階では――あたしの闇をここまで引き上げられるのはあんただけよ」と、彼女は小さく付け加える。
「……ありがとうございます」
ステファニーさんも「ライトさんの光は、とても優しいですよ」と微笑んでくれる。
「焦るな、ライト。恐怖は持っておけ。それがない奴の剣は、ただの暴力だ」
シエラさんの言葉を胸に刻み、俺は深く息を吐いた。
中級技《輝剣纏装》。これを自在に制御できるようになれば、俺は本当の意味で、この人たちの「盾」にも「剣」にもなれる。
訓練を終え、夕闇に染まる宿への道。
隣を歩くレイナさんの歩調は、以前よりもずっと近かった。
「あんた、本当に成長したわね」
「レイナさんや、みんなが支えてくれるおかげです」
俺がそう言うと、彼女は「……ふん、謙遜しすぎ。次はもっと完璧な光を見せなさいよ」と、少しだけ嬉しそうに笑った。
自分の力を恐れる気持ちは、まだ消えない。
けれど、守りたい人たちが、俺の光を「優しい」と言ってくれる。
俺は心地よい疲労感に耐えながら、震えの残る右手で、もう一度剣を握り直した。




