第五十一話:ライトの光属性応用訓練
《煌闇の紫矢》という切り札を手にしてから、数日が経過した。
俺たちは連日、ギルドの訓練場にいた。シエラさんが手配しているという「五人目の仲間」の合流を待つ間、俺たちは一刻も無駄にするつもりはなかった。
だが、俺とレイナさんの連携が深まるほどに、シエラさんの視線は厳しさを増していった。
「ライト。お前、いつまでレイナの『電池』でいるつもりだ?」
訓練の合間、シエラさんの問いかけに俺は言葉を詰まらせた。
「……電池、ですか」
「そうだ。今のお前は、レイナの闇を増幅させることに特化しすぎている。だが、乱戦になれば常に隣にいられるとは限らねえ。お前自身の剣が鈍ければ、そこがパーティの穴になるんだよ」
シエラさんは俺の愛剣を指差し、断言した。
「今日から光属性の応用訓練を始める。《光剣付与》を、実戦に耐えうるレベルまで引き上げるぞ」
俺は思わず、自分の剣を見つめた。これまでも《光剣付与》は使ってきた。だが、俺のそれはお世辞にも完成されているとは言い難い。
「今の俺の付与は……まだ不完全だ、ということですね」
「ああ、不完全どころか『基礎の入り口』で止まってる。お前の光は表面を撫でているだけだ。だからすぐに消えるし、持続しねえ。いいか、光の魔力を剣の内部――芯まで浸透させるイメージを持て」
剣の内部へ、魔力を流し込む。
言葉で言うのは簡単だが、魔法が苦手な俺にとって、目に見えない魔力を固形物の奥へ浸透させる作業は、針の穴に太い糸を通すようなもどかしさがあった。
「やってみます」
俺は訓練場の中央に立ち、剣を構えた。背後では、ステファニーさんとレイナさんが静かに見守っている。
「頑張ってください~、ライトさん」
ステファニーさんの柔らかな応援が耳に届く。一方で、レイナさんは黙って俺の魔力の流れを凝視していた。
集中する。
魔力を剣の表面で留めず、鋼の粒子の一つひとつに染み込ませるように。
だが、光はパチパチと表面で弾け、すぐに霧散してしまう。
「違う。もっと奥だ。剣を自分の体の一部だと思え。お前の血管が剣の中まで通っている感覚だ」
シエラさんの指導が飛ぶ。
俺は歯を食いしばり、何度も、何度も魔力を流し込んだ。
数えきれないほどの失敗の末、ふとした瞬間に感覚が変わった。
剣が、内側から鈍い熱を持ち始めたのだ。淡い光が、鋼の奥底から滲み出すように定着していく。
「……消えない」
これまでのように数秒で消える不安定な光ではない。弱々しいが、確かに剣の中に光が留まっている。
「よし、ようやく『初級の安定化』だな。だが勘違いするなよ、ライト。それはまだ“完成”じゃねえ。静止した状態でようやく維持できたに過ぎない。実戦の衝撃を受ければ、今のお前の制御じゃ簡単に崩れる」
シエラさんの言葉は厳しかったが、それでも「安定した」という事実は俺の自信になった。
「はい。この感覚を忘れないようにします」
「休む暇はねえぞ。次は遠隔攻撃――《光弾》の理屈を剣で再現する」
シエラさんの次なる課題は、剣から光の刃を飛ばす技術だった。
「魔法として放つんじゃねえ。剣に浸透させた光を、振る瞬間に遠心力と魔力圧力で『押し出す』んだ」
これがさらに難航した。剣を振れば、纏わせた光まで一緒に霧散してしまう。
「あんた、力の使い方が雑なのよ」
見かねたように歩み寄ってきたのは、レイナさんだった。
「シエラが言う『押し出す』だけじゃ、魔力が散らばるだけ。……剣を振る直前、魔力を一箇所に『圧縮』するの。極小の点にまで押し固めて、それを一気に解放する。そうすれば、嫌でも飛んでいくわ」
魔法制御の天才である彼女の助言を反芻し、俺は剣の切っ先に意識を集中させた。光を限界まで凝縮し、暴発寸前のエネルギーを鋼の中に閉じ込める。
今だ。
踏み込みと共に、一気に剣を薙いだ。
シュンッ――!
空気を切り裂く鋭い音。剣先から放たれた三日月形の光刃が、数メートル先の木標の表面を浅く抉り、火花を散らして消えた。
「……飛んだ」
「最初にしては合格点ね。でも、今のじゃ威力不足よ。圧縮の精度も、放出のタイミングもまだまだ」
レイナさんは厳しく指摘したが、その口元はどこか満足げに綻んでいた。俺が彼女の助言を形にしたことが、少しだけ嬉しかったのかもしれない。
「いいコンビだな、お前ら」
シエラさんが歩み寄り、俺の肩を叩いた。
「今日の収穫は、光剣の安定と、光刃の入り口だ。だがな、ライト。今のお前はまだ『初級の枠』の中にいる。次に目指すのは中級技《輝剣纏装》だ。これまでの表面的な付与とは次元が違う、光を完全に掌握する技だ」
「中級……」
今の初級技を安定させるだけで、俺の魔力は限界に近かった。回復魔法をかけてくれるステファニーさんの手元で、自分の指先が微かに震えている。
「お前の光属性は、まだまだ伸びる。だが、その階段は一段ずつだ。明日もこの基礎を叩き込むぞ」
訓練を終え、夕闇に染まる街を宿へと向かう。
隣を歩くレイナさんは、どこか誇らしげに俺の歩調に合わせていた。
「ライト。あんた、今日だけでかなり魔力の使い方がマシになったわよ。あたしの指導がいいからでしょうけど」
「はい。本当に、レイナさんのおかげです。ありがとうございます」
俺が素直に礼を言うと、彼女は「……ふん、次はもっとマシな光を見せなさいよ」と、いつものように顔を逸らした。
一歩ずつ、確実に。俺は自分の光を、俺だけの剣を磨き始めている。
いつか来る「最後のピース」との合流。その時、俺が彼らを、そしてレイナさんを守れる強さを持っていられるように。
俺は心地よい疲労感と共に、明日への決意を新たにしていた。




