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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第五話:基礎訓練とシエラの力量

 翌朝。

王宮の訓練場へ向かう俺の足取りは、昨日よりも明らかに軽かった。


トラウマが消えたわけじゃない。

あの日、大切な仲間を傷つけてしまった記憶は、今も胸の奥に沈んでいる。女性を見ると体が強張る癖も、正直まだ治っていない。


それでも――。


(前とは、何かが違う)


シエラさんとの会話で、少なくとも「立ち止まったままじゃいけない」と思えるようになった。

俺が恐れているのは、敵を斬ることじゃない。力の制御を誤って、守るべき誰かを傷つけてしまうことだ。


その点で、シエラさんは例外だった。


「俺がどうにかしてやる」


あの言葉と、彼女の圧倒的な実力。

あの人がいる限り、俺は一歩踏み出してもいい――そんな気がしていた。


訓練場に着くと、すでにシエラさんが待っていた。

騎士たちの集団練習から少し離れた、いつもの端のスペース。銀髪を後ろで束ね、腕を組んで立つ姿は、それだけで絵になる。


「おう、来たか。今日も張り切っていくぞ」


「はい!」


俺が答えると、シエラさんは木剣を一つ放ってよこした。慌てて受け取る。


「今日の訓練はな、昨日のおさらいだ。ただし、もっと実戦的な“基礎”をやる」


「実戦的な……基礎、ですか?」


「そうだ。お前の型は綺麗だが、実戦じゃ通用しねえ。そこを叩き直す」


そう言って、シエラさんも木剣を構えた。

昨日よりも、明らかに隙がない。


「まずは簡単だ。俺の攻撃を――避けろ」


「……え?」


思わず聞き返した俺に、シエラさんはニヤリと笑う。


「受け止めなくていい。生き残るのが最優先だ。実戦じゃ、避ける方が効率いい」


確かに、前世の剣術は受けを重視していた。

だが――。


「いくぞ」


次の瞬間、木剣が振られた。


(速っ!?)


反射的に受けようとして――甘かった。

シエラさんの木剣は俺の剣をかすめ、脇腹に軽く当たる。


「っ……!」


「ほらな。お前は“受ける”しか考えてねえ」


次の一撃。

今度は肩を狙われ、避けようとして体勢を崩す。


「姿勢が大きい。崩れた瞬間が、一番危ねえ」


背中に、軽い衝撃。


「くっ……」


「完璧な姿勢じゃなきゃ動けねえ剣は、実戦じゃ役立たねえ。地面が悪い、体勢が崩れる、そんなの当たり前だ」


淡々とした言葉が、胸に刺さる。


「だから慣れろ。崩れた状態で動くことに。お前の硬い体を、実戦仕様にする」


「……わかりました!」


攻撃が続く。

どれも本気じゃない。だが、完全に読まれている。


受けようとすれば軌道を変えられ、避けようとすれば次の一手で崩される。

十回に一度も、触れることすらできない。


「どうした、考えすぎだ!」

「型は忘れろ! 本能で動け!」

「お前は避ける時、必ず左足から引く。道場の癖だな? 実戦じゃそこを狙われるぞ」


息が上がる。全身が汗だくだ。


「シエラさん……強すぎます」


正直に言うと、シエラさんは笑った。


「当たり前だ。俺はSランク冒険者だ。本気なら、お前は一撃だぞ」


そう言ってから、少しだけ真面目な顔になる。


「だが悪くねえ。反応は早い。さっき、一瞬だが踏み込んだろ」


「……はい。でも、すぐ読まれて」


「読まれるさ。だが、それでいい。後は泥臭い動きを身体に覚えさせるだけだ」


肩を叩かれる。

不思議と、その一撃で力が抜けた。


「今日はここまでだ。集中切れると、また余計なこと考え始めるからな。明日も同じことをやる」


「はい! ありがとうございます!」


(この人になら、任せられる)


心から、そう思った。


シエラさんは強すぎる。

だからこそ、俺は彼女を「守る対象」として見ない。ただの師として、目標として、向き合える。


俺が恐れているのは、弱い誰かを傷つけることだ。

だがシエラさんは、その恐怖を超える存在だった。


「明日もよろしくお願いします!」


訓練場を後にする俺の背中には、昨日よりも確かな希望があった。

小さいが、確かに前に進んでいる――そう思えた。

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