第四十二話:四人パーティで中級依頼
翌朝。アルケインの冒険者ギルドに差し込む朝日は、活気に満ちた一日の始まりを告げていた。
シエラさんが手にした依頼書には「中級魔物討伐:ディアウルフの群れ、及びグリズリーベア」と記されている。
「中級……? シエラ、今のあたしの実力を知ってて言ってるの?」
レイナさんは不満げに赤い瞳を細めるが、シエラさんは首を横に振った。
「まずは連携の確認だ。お前の火力が、ライトの防御と噛み合うか。それをテストする」
郊外の鬱蒼とした森へ足を踏み入れた直後、俺はシエラさんの合図で魔力を練り始めた。
「……展開しておけ、ライト。いつ始まってもいいようにな」
「はい。――中級《光結界》」
俺の周囲に、黄金の光の領域がドーム状に広がる。だが、先頭を歩くレイナさんは、その光の境界線を一瞥すると、わざとそこから一歩外へ踏み出して突き進んだ。
「……範囲外に出たな。あいつ、自分から」
シエラさんが小さく零す。
「守られるって選択肢を、あいつは最初から捨ててるんだ。一人で完結しなきゃ死ぬと思ってやがる」
その時、草むらが激しく揺れ、ディアウルフの群れが姿を現した。
「いたわ。――《推進風》!」
レイナさんが加速する。彼女は群れの中央で、破壊の術式を展開した。
「《空中砲撃》!」
轟音と共に炎が吹き荒れる。だが、死に物狂いの一体が爆炎を潜り抜け、レイナさんの喉元へ牙を剥いた。
「っ……!?」
「甘いぜ」
横から割り込んだシエラさんの蹴りが、狼の頭蓋を粉砕する。同時に、遅れてやってきた爆発の熱波を、シエラさんが展開した《岩壁》が遮断した。だが、衝撃を殺しきれず、岩壁には派手な亀裂が走る。
「突っ走るなと言ったろ。自爆しかけて、さらに奇襲を許してちゃ世話ねぇな」
シエラさんの呆れ声に、レイナさんは煤で汚れた顔を背け、悔しそうに唇を噛んだ。
さらに森の奥へ進むと、地面を揺らす咆哮と共に、巨躯を誇るグリズリーベアが立ち塞がった。
「今度は逃がすなよ、ライト。範囲を固定しろ!」
「分かってます! ……《光護壁》!」
俺は空の手を突き出し、レイナさんを包み込むように光を凝縮させる。今度は彼女も、先程の失態を自覚しているのか、俺の結界の内側に留まっていた。
グリズリーが、魔力で硬化した丸太のような腕を振り下ろす。
ガキィィィィン!!
激しい衝撃。光の壁は耐えたが、俺の魔力が一気に吸い取られる感覚に目眩がした。
(重い……! 光だけで、この質量を受け止めるのは……!)
魔力計算だけで動くゴーレムには決してできない、執念の防御。俺が「絶対に割らせない」と意識を研ぎ澄ませなければ、この壁は容易に砕ける。
「レイナさん、撃ってください! 俺が、止めてますから!」
その叫びに、レイナさんは一瞬だけ戸惑うような表情を見せた。誰かを信じて、その背中で魔法を練る。彼女にとってそれは、最も慣れない戦い方なのだろう。
だが、彼女は不敵に微笑み、紅蓮の魔力を暴走寸前まで高めた。
「生意気ね! だったら、全力でいくわよ!」
最大火力の《フレアバースト》が炸裂する。
凄まじい爆圧が、結界の内側をも揺らした。熱こそ遮断しているが、圧力までは殺しきれない。俺の足が地面にめり込み、結界の表面が激しく波打つ。俺の魔力が底を突きかけるのと引き換えに、グリズリーは消炭となって崩れ落ちた。
「……はぁ、はぁ……」
レイナさんは肩で息をしながら、自分を守り抜いた黄金の残光を見つめていた。
一度も揺らがなかった自分の立ち位置。反動を気にせず、ただ威力だけを追求できた全霊の一撃。
「……ライト」
レイナさんは少しだけバツが悪そうに目を逸らした。
「まあ……あたしの火を防げるなんて、少しは見込みがあるみたいね。……本当に、少しだけよ?」
その指先はまだ、全力の魔法を放った興奮と、自分の居場所を守られたという不本意な納得で震えていた。
「よし。連携の第一歩としては上出来だ」
シエラさんが満足そうに俺たちの肩を叩く。
「ライト、魔力消費が荒いぞ。レイナ、お前はライトの限界を見極めて撃て。パーティーってのは、補い合いなんだよ」
アルケインへの帰り道、俺は空の手をじっと見つめていた。
今日の防御は、完璧とは言えなかった。
だが、あの一瞬、俺とレイナさんの呼吸が合ったのは確かだ。
ゴーレムにはできない、仲間を信じた上でのギリギリの防御。
いつか彼女が、何の迷いもなく俺に背中を預けて戦えるように。俺の光は、もっと強く、もっと揺るぎないものにならなきゃいけないんだ。




