第三十九話:次なる仲間への予告
馬車が規則正しく揺れる。ガタン、ガタン、と石畳を叩く音が、平原に虚しく響いていた。
ギルドを出発してから二日が経ち、窓の外には魔導都市アルケインの象徴である高い尖塔が、遠く霞んで見え始めている。
馬車の中は静かだった。俺とステファニーさんは向かい合って座り、シエラさんは肘をついて流れる景色を眺めている。その横顔には、再会を前にした、どこか楽しげな色が混じっていた。
「なあ、ライト」
シエラさんが突然、静寂を破った。
「お前が手に入れた《光護壁》と《光結界》。……あいつがパーティーに加われば、それこそがお前の『本当の役割』を知る鍵になるぞ」
「……あいつ、三属性を使う魔導師のことですか?」
俺が問い返すと、シエラさんはゆっくりと頷いた。
「火・風・闇。この三つを組み合わせるあいつの殲滅力は、一撃で戦場を更地にする。常識を逸脱したその魔術は、制御を誤れば街一つを消し飛ばしかねない」
シエラさんの説明によれば、あいつの放つ破壊魔術は、味方を守るどころか、同じ戦場にいることすら拒絶するほど苛烈なのだという。
「あいつが全力を出せば、周囲は灼熱と影の牢獄と化す。正直に言って、今のお前の中級防御では、あいつの魔法が直撃すれば一瞬で砕け散るだろう」
シエラさんの容赦ない言葉に、俺の背中に冷たい汗が流れた。
上級、あるいはその先。俺が今まで目にしたこともない魔法の極致。
「だが、だからこそお前が必要なんだ。あいつの放つ広域攻撃の余波、巻き上がる熱風、弾け飛ぶ瓦礫……その狂乱の嵐の中で、パーティーが生存できる『最小限の安全圏』を死守しろ。お前がその内側を維持し続ける限り、あいつは味方の死を恐れずに、その最大火力を解き放つことができる」
俺が守り、あいつが焼く。
その役割分担に、人型の敵を前にした恐怖よりも先に、奇妙な納得があった。
それは単なる防御ではない。俺の光が、災害級の矛が暴れ回る戦場において、仲間を繋ぎ止めるための「唯一の足場」になるということだ。
「つまり〜、ライトさんが頑張って耐えてる間に〜、その人が全部やっつけちゃうんだね〜!」
ステファニーさんが拳を握ると、シエラさんは不敵に笑った。
「理屈はそうだがな。……あいつはプライドの塊だ。実力のない奴に背中を預けることを、何より嫌うだろう。かつて私が、武器も使わず魔法だけで叩き伏せる以外に止められなかったほどの才能だからな」
かつて、魔導学院での模擬戦。シエラさんは大剣を地面に突き立て、レイナの火・風・闇をすべて、圧倒的な水属性で封じ込めたという。
「あいつは強かった。だが、全部一人でこなそうとして暴走していた。……突出した才能は、時に孤独を生む。そんなあいつにとって、格上として完敗を刻んだ私が、唯一の道標なんだろうな」
シエラさんは「口を開けば不遜な指示ばかり飛んでくるだろうがな」と笑いながら付け加えた。
「あいつは司令塔として戦場を完璧に統制した経験がある。戦場を俯瞰する目は確かだ。お前はその指示に従い、死ぬ気で盾を支えろ。それが、お前にしかできない戦い方だ」
馬車が丘を越えた。
視界が開け、そこには魔法の光が昼間のように輝く、幻想的な都が広がっていた。
魔導都市アルケイン。
いくつもの高い尖塔が空を刺し、街路には魔力を帯びた街灯が立ち並ぶ。そこかしこで若き魔導師たちが語らい、空気そのものが魔力の熱を帯びているような場所だ。
「着いたな」
シエラさんが立ち上がり、馬車の窓から街を見つめた。
「あいつ……まだ卒業してねえな。あの天才の力があれば、お前のトラウマさえも正面から打ち破れるはずだ」
「えっ……? 学生、なんですか?」
俺の素朴な疑問に、シエラさんはニヤリと不敵に笑った。
「ああ。だが、ただの学生だと思うなよ。実力だけなら、そこらのAランク魔導師よりもよっぽど化け物だ」
最高のパーティーが完成する、その予感に胸が高鳴る。
シエラさん、ステファニーさん、俺。
そして、これから出会う、不遜で気高い「学生(矛)」。
馬車がアルケインの大きな正門をくぐる。
石畳を叩く蹄の音が、新しい章の始まりを告げるファンファーレのように聞こえた。




