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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第三十八話:シエラの動機付け

 訓練場を出た後、俺たちはギルドの最上階にある静かな一室に呼び出された。

 重厚な扉の向こう側、窓から差し込む夕日は部屋を濃いオレンジ色に染め上げ、シエラさんの横顔に深い陰影を落としている。彼女は肘をつき、組んだ指の上に顎を乗せて、しばらくの間黙り込んでいた。

「ライト」

 静寂を破るシエラさんの声は、いつになく低く、重い。

「お前は今日、二つの中級防御スキルを習得した。並の魔導師が一生をかけて辿り着くかどうかの高等魔法だ。お前の『守護』への適性は、もはや疑いようがない」

 その言葉に、俺は小さく頷く。手に入れた力への実感はある。けれど、同時に胸の奥を焼くような焦燥感も消えてはいなかった。

「だがな――それだけでは、今の我々が直面している壁を越えることはできない。お前には覚悟ができた。だが、ライト。お前のトラウマは、決意一つで霧散するほど生易しいものじゃない」

 俺は何も言えなかった。向き合うと決めた。逃げないと誓った。けれど、それは「今すぐ人殺しの刃になれる」ことを意味しない。俺の心は、まだ前世の檻の中で、必死に外へ出ようともがいている最中なのだ。

「……俺は、お前のその『光』を、ただの逃げ場にしたくはないんだ」

 シエラさんが、振り返らずに言葉を紡ぐ。

「自分が戦えない申し訳なさから盾を張るな。それは守護ではない、ただの自責だ。私は、お前にそんな顔で剣を握り続けてほしくはない。お前の盾があるからこそ、仲間は全力で戦える……そう胸を張ってほしいんだ」

 シエラさんの言葉が、俺の心臓を強く叩いた。

 彼女は、俺が一人で負い目を感じていることを見抜いていた。自分が戦えない分を、防御で埋め合わせようとしている卑屈な心根を、彼女は否定してくれた。

「だからこそ、今の我々には欠けたピースが必要だ。お前が『俺が守っているからこそ、このパーティーは勝てるのだ』と確信できるだけの、圧倒的な火力がな」

「圧倒的な火力……」

「魔導都市アルケインへ向かう。そこには、私が知る限り最高の才能を持つ魔導師がいる。火・風・闇の三属性を操る、完全攻撃型の天才だ」

 シエラさんは窓の外、遠くアルケインの方向を見つめる。

「特筆すべきは、歴代でも異質とされる闇属性を絡めた広域殲滅魔術だ。だが、あいつには致命的な欠点がある。自分の才能が突出しすぎているために、周囲に合わせることをやめ、一人ですべてを焼き尽くそうとするんだ」

 どれほど強大な魔法でも、魔力転換の瞬間に生じる隙を、守る者が誰もいなかったのだとシエラさんは言った。

「ライト、お前の盾は、あいつのような孤高の天才と組んでこそ真価を発揮する。お前があいつを完璧に守り抜くなら、あいつは迷いなく世界を焼くことができる。お前の防御は、逃げのための壁じゃない。最強のパーティーを成立させるための、かなめなんだ」

「……仲間の力を、最大限に引き出す」

 俺の中で、淀んでいた感情がスッと晴れていくのを感じた。

 俺が戦えないから、代わりに戦ってもらうのではない。新しく来る仲間が、その圧倒的な力を一分の不安もなく発揮できるように、俺が世界一の『盾』として君臨するのだ。

「今は、まだ守ることしかできないかもしれない。だが、向き合うと決めた以上、いずれはお前自身がその恐怖を乗り越え、自らが刃となる時が来る。それまでは……その強固な光で、私たちの背中を支えてくれ」

 シエラさんの言葉が、温かく、力強く俺の胸に染み渡る。

 人型の敵を斬る恐怖は、まだ消えていない。

 けれど、この光で仲間を守り抜くという誇りなら、今この瞬間から抱くことができる。

「楽しみだね〜、ライトさん! その人、すぐに仲間になってくれるかな?」

 はしゃぐステファニーさんの横で、シエラさんはふっと苦笑いを浮かべた。

「説得は、一筋縄ではいかんぞ。あいつはプライドが高く、高飛車だ。だが……あいつの内にある優しさと、誰よりも強い責任感を私は知っている。今のこのパーティーの状況を説けば、必ず力になってくれるはずだ」

 高飛車な天才。シエラさんを尊敬しつつも、再戦を望むライバル。

 シエラさんがそこまで信頼を寄せる才能だ。きっと、俺たちの欠けたピースを埋めてくれるに違いない。

「準備をしろ。明日の朝、出発だ。アルケインまでは馬車で三日。お前の新しい防御スキルの試運転にはちょうどいいだろう」

「はい。……シエラさん」

 俺は、部屋を出ようとする彼女の背中に声をかけた。

「俺、頑張ります。その人が俺の盾を見て、『ここなら全力が出せる』って思えるような、そんな守護者になってみせます」

 シエラさんは振り返らず、ただ片手をひらひらと振って応えた。

 けれど、その足取りは、先ほどよりも少しだけ軽やかになったように見えた。

 廊下を歩きながら、明日への期待を口にするステファニーさんの声を聞き、俺は心の中で自分に言い聞かせた。

 俺は、檻の中で立ち止まるのをやめた。

 まだ刃にはなれない。

 だが、この盾で、仲間を勝利へ導くことはできる。

 

 魔導都市アルケイン。

 最高の才能に会うために。

 俺たちの、新しい旅が始まろうとしていた。

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