第三十五話:膠着の打破と強制排除
「ライトさん、その光……貸してぇぇ!」
ステファニーさんが、俺の盾から溢れ出す過剰な光を掴み取るように手を伸ばした。
本来なら枯渇しているはずの彼女の魔力が、俺の放つ「光」を触媒にして、爆発的な輝きを取り戻す。
「特級防御――《生護》ッ!!」
瞬間、戦場全体が淡い緑のドームに包まれた。
ドォォォォンッ! とタイラントの拳が、魔族の魔法が、結界に激突する。
外界との接触を一切拒絶する「生存の否定」――その結界は、物理・魔法を問わず、あらゆる干渉を完璧に無効化した。
だが、代償はすべてステファニーさん自身に返る。
攻撃が結界に弾かれるたび、彼女の鼻から血が垂れ、膝が激しく震えた。
「お姉さん、三秒……っ。三秒で、終わらせてぇぇ!」
実時間にすれば、ほんの数十秒の出来事だった。
だが、俺たちの意識下では永遠のように引き延ばされた、濃密な一瞬。
「一秒で十分だ!」
シエラさんが一直線に地を蹴った。
結界の恩恵により防御を一切捨てた彼女は、タイラントの懐へ肉薄。光り輝く双剣が、巨獣の喉元を深々と一閃した。
ドォォォォォン……。
タイラントの巨躯が崩れ落ちる。シエラさんは振り返りざま、逃げ惑う魔族たちへ掌を向けた。
「ステファニー、絞れ!」
「わかったぁぁぁ!」
外界を拒絶する結界だからこそ、その内部の形状は術者の意思のみに従う。
緑の壁が猛烈な勢いで収縮し、五体の魔族を一箇所へと強制的に押し込めた。
抵抗は成立しない。ここはステファニーの支配域だ。
「本来なら無理だが、動けない今なら――飛ばせる!」
シエラさんの周囲で空間が歪み、青白い光が魔族たちを飲み込んでいく。
「《空間転移:強制排除》!!」
一瞬、世界が捻じれるような音がした。
次の瞬間には、密集していた魔族たちは、絶叫を上げた姿のまま跡形もなく消え去っていた。
「……はぁ、はぁ、……っ」
結界がガラスのように砕け、静寂が訪れる。
ステファニーさんは糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ち、シエラさんもまた、剣を杖代わりに荒い息を吐いていた。
終わったのだ。
だが、俺は《光盾》を解除した腕を握ったまま、膝をついた。
脳裏にこびりついているのは、消え去る瞬間の魔族の顔だ。
(守ることは、できた。……だけど、俺は最後まで、斬る覚悟だけは踏み出せなかった)
震えが止まらない。
シエラさんが無言で歩み寄り、俺の肩にそっと手を置いた。その温もりが、あの日道場で彼女を傷つけた瞬間の「許し」と同じくらい、今の俺には痛くて、残酷だった。
俺は、守れた。
けれど、この「檻」を壊すことだけは、どうしてもできなかった。




