第三十四話:ステファニーの迅速な回復
「――今すぐ、治すよぉ……っ!」
ステファニーさんが、蒼白な顔で両手を前に突き出した。
《生護》が消え、本来なら彼女の魔力は底を突いているはずだ。だが、彼女は自らの生命力すら魔力へと変換するような、凄まじい覚悟の眼をしていた。
「癒し上級、大回復《聖癒》……っ!!」
眩い緑の奔流が、俺が展開する光と混ざり合いながら倒れたシエラさんを包み込む。
瞬時に肩と脇腹の傷が塞がり、不倒のSランクが再び地を蹴った。
「助かった、ステファニー! ライト、その光……助かる、そのまま耐えろ!」
シエラさんの双剣が唸り、タイラントの巨腕を受け止める。
傷が治ったことで彼女の動きは戻った。だが――戦況は好転しない。
ガキィィン! ズドォォンッ!
俺の《光盾》と《光壁》が、魔族の剣と魔法を交互に弾き飛ばす。だが、防ぐたびに腕が焼き切れるような熱を帯び、魔力残量が急速に目減りしていくのが分かった。
光の盾には、すでに無数の細かいヒビが入り始めている。
(……くそっ、なんて連携だ。これじゃ、シエラさんでも……!)
シエラさんが魔族の一体を仕留めようと踏み込んだ、その瞬間だった。
決まって別の二体が、俺たちを狙って魔法を放ってくる。シエラさんは踏み込んだ足を無理やり止め、俺たちの背後を守るために回避行動を強いられる。
シエラさんは攻撃できても、それを「通させてもらえない」のだ。
力任せの巨獣とは違い、魔族は互いの隙をミリ単位で埋め合い、一つの巨大な生き物のようにシエラさんの反撃を消し去っていた。
「ライトさん……っ! お願い……このままじゃ、いつか……っ!」
膝をつき、鼻血を流しながらもステファニーさんが叫ぶ。
分かっている。俺は防ぐことしかできない。そしてシエラさんは、その鉄壁の連携によって封じ込められている。
この膠着状態は、勝利への足掛かりではない。
俺の魔力が尽き、ステファニーさんの体力が限界を迎えた瞬間に訪れる「全滅」へのカウントダウンだ。
――パリンッ!
《光盾》が悲鳴を上げ、光の破片が弾け飛んだ。
完全に消える寸前、防ぎきれなかった衝撃だけが俺の肩を直接打ち抜く。
「ぐぅっ……!」
痺れる腕を無理やり動かし、俺は消えかけた光を必死に編み直した。
攻撃は、できない。
「人間」に酷似した敵を斬る恐怖は、まだ俺の剣を金縛りにしたままだ。
だが、この檻に閉じこもっているだけでは、最後に待つのは破滅だけだ。
(何か……。何か一つでいい、この絶望的な連携を崩す隙は、ないのか……っ!?)
俺は血の滲む唇を噛み締め、歪む視界の中で、魔族たちの「動きの規則性」を必死に観測し続けた。




