第三十三話:トラウマの再発と覚醒
魔族の剣が、倒れたシエラさんの首筋へと振り上げられる。
その光景が、血に濡れた道場の床で、俺の「許し」を請うように笑った彼女の姿と完全に重なった。
(あ、……ぁ、……っ!)
『ライト君、どうして……』
その一言だけが、刃のように胸を抉った。
責める声、非難する目。それはすべて、俺自身が作り出した呪縛だ。
人型の何かを傷つければ、また、あの「笑顔」に殺される。
金縛りにあった体は一ミリも動かず、過呼吸で視界が暗転していく。
「ライトさん〜!! お願い〜!! 動いて〜!!」
ステファニーさんの絶叫が、暗闇を切り裂いた。
見れば、彼女を守る《生護》の光はもはや消えかけ、複数の魔族が放つ《闇の矢》と《火球》が、無防備な彼女へと殺到していた。
(……嫌だ。誰も、傷つけたくない。だけど――誰も、失いたくない……ッ!)
その矛盾した願いが、俺の中で爆発した。
剣を振るうのではない。ただ「死なせない」と願って、震える腕を前へ突き出した。
――その瞬間、視界が白光に染まった。
カァァァンッ!
「え……?」
ステファニーさんの眼前で、魔族の魔法が弾け飛んだ。
俺の左腕を覆うように、薄く、それでいて太陽のように眩い光の盾が形成されていた。
《光盾》
同時に、ステファニーを包み込むように透明な光の壁が展開される。
《光壁》
誰の声でもない。俺自身の生存本能が、その名を脳裏に刻みつけた。
「ライト、さん……!? その光……っ!」
「……っ、ぐ、あぁ……!!」
凄まじい衝撃が腕から全身を駆け抜ける。
物理攻撃は《光盾》で弾き、魔法は《光壁》で減衰させる。
だが、これは無敵の力などではない。防ぐたびに魔力が恐ろしい速度で削り取られ、腕が焼き切れるような熱を帯びていく。
ギギギ……ッ!
魔族の剣が《光盾》を押し歪め、光が悲鳴を上げた。
防げている――だが、長くはもたない。俺はステファニーさんを背に庇い、一歩、また一歩と、倒れているシエラさんの元へと必死に歩を進めた。
「ライトさん、すごい……! でも、攻撃しないと……!」
「できない、……っ、まだ……斬ることは……できない……!!」
魔族の顔が、笑っている。
その人間臭い歪みが、俺の剣をまだ檻の中に閉じ込めたままだった。
魔族たちが一斉に襲いかかる。剣、槍、斧、そして魔法の連打。
俺は必死に光の盾と壁を操り、死の雨を凌ぎ続けた。
ガキィィン! ズドォォンッ!
衝撃が骨を直接打ち抜く。視界が赤く染まり、膝が折れそうになる。
攻撃はできない。人型の敵を傷つけることは、まだできない。
だけど――。
「守る……守ることだけは、絶対にやめない……ッ!!」
俺の、命が尽きるその瞬間まで――。
たとえこの檻を、今はまだ壊せなくても。




