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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第三十二話:危機とシエラの負傷

 ドォォォォォンッ!!

 フォレスト・タイラントの剛腕が、大気を爆ぜさせながらシエラさんの双剣に叩きつけられた。

「くっ……あぁぁぁっ!」

 シエラさんは歯を食いしばり、全身の筋力を動員してその質量を真っ向から受け止める。衝撃が地面を伝い、彼女の足元の岩盤がクモの巣状に砕け散った。

 だが、不倒のSランクは、その巨躯を微塵も押し返させない。

 ――しかし、その「完璧な防御」こそが、魔族たちの狙いだった。

 タイラントを受け止めるためにシエラさんの両腕が塞がり、足が地面に縫い付けられた――その硬直の瞬間を、五体の魔族は冷酷に待ち構えていた。

「「「「「ケケケッ、今だァ!!」」」」」

 五方から殺到する刃の嵐。

「お姉さん〜っ!!」

 ステファニーさんの悲鳴が響くが、間に合わない。

 一撃目がシエラさんの左肩を深く裂き、体勢が僅かに流れたその瞬間、追い打ちの凶刃が右脇腹を深く、深く抉り取った。

「……っ、が、あぁっ!?」

 シエラさんの口から、苦悶の叫びが漏れる。

 単なる傷ではない。刃に塗られた魔族の呪毒が彼女の神経を焼き、不倒の戦士から自由を奪っていく。

 さらに、魔族の介入により双剣の均衡が崩れた、その刹那。受け止められていたはずのタイラントの巨腕が、再び唸りを上げてシエラさんを打ち抜いた。

 毒で踏ん張りのきかなくなった彼女の体は、木の葉のように宙を舞った。

 ドサッ……。

 地面を転がり、シエラさんが止まったのは――俺たちが籠もる黄金の結界の、すぐ目の前だった。

「お姉さん……っ! お姉さん!!」

 ステファニーさんの泣き声が響く。

 結界のすぐ外、手の届くような距離に倒れたシエラさんから、赤い血が溢れ出し、地面をどす黒く染めていく。

 ポタ、ポタと滴るその音が、俺の鼓膜を直接叩く。

(シエラさんが……傷ついて、倒れてる……)

 俺の声は、震えて音にならなかった。

 土に汚れ、血に塗れ、それでも必死に顔を上げたシエラさんと、目が合った。

「……ライト……逃げ、ろ……」

 音にならない唇の動き。

 自分も死に瀕しているというのに、彼女はまだ、動けない俺の身を案じていた。

 その姿が、あの日の道場と完全に重なる。

 床に倒れ、血を流し、それでも「わざとじゃないから」と笑って俺を許した、彼女の姿に。

「あ、……ぁぁ……あああ……!」

 俺のせいで。俺が戦わなかったせいで、また大切な人が壊れていく。

 繰り返している。俺は、何も変わっていない。

 魔族がニチャアと笑い、倒れたシエラさんの首筋に狙いを定めた。

 五体の魔族が、止めを刺すために一歩ずつ近づいていく。

 動け、動け、動け。

 心臓が破裂しそうなほど脈打ち、過呼吸で視界が歪む。だが、俺の手足は冷え切り、地面に根を張ったように一ミリも反応しない。

 魔族の顔が、笑っている。

 その「人間のような顔」への恐怖と、自分への激しい嫌悪が、俺を暗い海の底へと引きずり込んでいった。

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