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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第三十一話:乱戦とシエラの苦境

 俺は、動けなかった。

 剣を握る手が、震える。

 魔族が、人間に見える。

 ――いや、違う。俺の脳が、勝手に「人間」として像を結んでしまっているんだ。笑う口元、武器を構える指先。それらすべてが、かつて俺が傷つけた「あの人」に重なってしまう。

「ケケケケ……。なんだぁ、この坊やは。見てるだけか?」

 魔族の嘲笑が、前世の記憶を鮮明に引きずり出した。

 あの日、事故で彼女を深く傷つけた直後の、静まり返った道場。

 

 俺は謝罪した。何度も、声が枯れるまで。

 彼女は、血に染まった道着のまま、青白い顔で笑った。

 『……大丈夫だよ。わざとじゃないから。気にしないで、ライトくん……』

 

 その許しが、何よりも辛かった。

 (もう、あんな顔はさせたくない。……人型の何かを傷つければ、また、あの「笑顔」に殺される)

 その呪縛に、俺は指先から力を奪われ、黄金の檻の中に閉じ込められる。

「ライトさん! お願い〜、もう限界だよぉ〜!」

 ステファニーさんの悲痛な叫び。《生護》の光はもはやガラスのように薄く、魔族が槍を叩きつけるたびに、彼女の鼻から一筋の血が流れた。

 ガキィィン! ギィン!

 執拗なまでの波状攻撃。魔族たちの連携は、恐ろしいほどに密だった。

 シエラさんが魔族の一体に踏み込もうとすれば、別の魔族が死角から槍を突き出し、さらに背後からは暴走したフォレスト・タイラントが地響きのような爪撃を繰り出す。

「ちっ……! チョコマカと……!」

 シエラさんの双剣が火花を散らす。

 魔族たちは「倒す」ことではなく、シエラを「釘付けにする」ことに全神経を注いでいた。

 一歩、シエラさんが無理に踏み込めば、タイラントの巨躯がステファニーの結界を押し潰し、守るべき俺たちが死ぬ。それがわかっているから、シエラさんは回避と防御に徹せざるを得ない。

「お姉さん〜! なんで魔族を倒さないの〜!?」

 ステファニーさんの声が絶望に染まっていく。

 シエラさんは答えない。いや、答える余裕すらない。

 避けて、受け流して、また避ける。魔族の連携は容赦なく、シエラさんに反撃の隙間をミリ単位で与えなかった。

「ライトさん〜!」

 ステファニーさんが俺に縋るような視線を向ける。

「お願い〜! 魔族を倒して〜! お姉さんが、お姉さんが……っ!」

 

 シエラさんの動きは、もはや回避だけに削ぎ落とされ、限界を一秒ずつ先送りする極限だった。

「ライト……! 早く……しろ……っ!」

 シエラさんの声が、荒い息とともに漏れる。

 

 だが、俺の足は地面に縫い付けられたままだった。

 魔族が武器を構える影が、あの日の彼女の姿に見える。

 刃を振るえば、また誰かを傷つける。また誰かが、あんな風に、無理をして笑ってしまう。

 

 呼吸が浅くなり、視界が明滅を始める。

 ステファニーさんの膝が折れ、黄金の光が今、最後の一際淡い輝きを放ち――消えかけていた。

「あ……ああ、あぁぁぁ……っ!」

 何もできないまま。

 ただ守られるだけの檻の中で、俺は己の無力に、絶望の悲鳴を上げることしかできなかった。

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