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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第三十話:巨大魔物の猛攻と低級魔族の乱入

 「ガアアアアアアアアアッ!!」

 フォレスト・タイラントの咆哮が、物理的な衝撃となって森を震わせた。あまりの圧に肺の空気が押し出され、呼吸が止まりそうになる。

 だが、俺は剣の柄を強く握りしめた。

(――やるしかない。逃げ場はない。だけど、二人が道を作ってくれるなら!)

 巨大な熊が再び突進を開始する。喉を裂かれ、血を流しながらも、異常活性化した肉体はその速度をさらに増していた。

「来るよ〜っ!」

 ステファニーさんが前に出る。彼女はまだ《生護ライブ・ガーディアン》を使っていない。退路を断つその切り札を温存するため、自らの技量だけで死線に立っている。

 ドドドドドッ!

 地面を砕き、木々をなぎ倒しながら漆黒の巨躯が迫る。

「いなすよ〜っ!」

 衝突の瞬間、彼女は小盾バックラーを斜めに向け、衝撃を地面へと逃がした。

 ガギィィィンッ!

 ステファニーさんの足元の地面が陥没し、彼女の膝が激しく震える。完全無傷とはいかない。受け流した盾越しに伝わる質量が、彼女の腕の骨を軋ませ、内臓を揺さぶっていた。

「……っ、は、ぺちんっ〜!」

 痛みを堪え、彼女はすれ違いざまにメイスで熊の鼻先を叩く。

「グアッ!?」

 急所を刺激されたタイラントが、一瞬だけ動きを止めた。

「ライト! 首の付け根だ、叩き込め!」

 シエラさんの指示が飛ぶ。俺は地を蹴り、魔獣の側面へと滑り込んだ。光属性の魔力を込めた一撃が、魔獣の肉を深く切り裂く。

 再生が追いついていない。次の一撃で首を落とせる距離。勝ち筋は見えた――そう確信した時だった。

 ――ヒタ、ヒタ、という粘りつくような足音。

 森の奥から、心臓を氷の指で撫でられるような殺気が噴き出した。

「ケケケッ……人間だ。美味そうな人間がいっぱいいるぞぉ……」

 灰色の肌、尖った耳、そして邪悪な笑みを浮かべた五本の指。

 五体の低級魔族が、俺たちを包囲するように現れた。

「クソッ……魔族だと!? しかも、このタイミングで暴走バーストだと!?」

 シエラさんの声が初めて焦燥に染まった。魔族の魔力に当てられたタイラントの傷口が、沸騰するように盛り上がり、文字通り「暴君」と化した猛攻をシエラに仕掛けたのだ。

「ライト! 魔族はお前が倒せ! 私はこいつをここで食い止めるだけで精一杯だ!」

 シエラさんの双剣が、狂乱したタイラントの爪と激突し、火花を散らす。彼女が一度でも背を向ければ、俺たちはこの巨体に一息に踏み潰される。今のシエラさんには、露払いに回る余力など一分いちぶも残されていなかった。

「ステファニー! ライトを守れ! 《生護》だ!」

「わ、わかったよ〜! 《生護ライブ・ガーディアン》っ!!」

 やむを得ず放たれた、最後の楔。黄金の濁流がドーム状に展開され、空間を隔離する。

 だが、魔族たちは怯まなかった。それどころか、結界に触れた槍の先から、黒い紋様がステファニーさんの腕へと侵食していく。

「う、あぁ……っ! 魔力が……汚染されて、吸い取られていくぅ……っ!」

 障壁を叩かれる衝撃ではない。魔族特有の穢れた魔力が、ステファニーさんの精神を直接削り取っていた。

 だが、俺は動けなかった。

「おい、坊や。そんなに震えて、俺たちが怖いのかぁ?」

 魔族の一体が、結界越しにニチャアと笑った。その「言葉」が、俺の脳内に封印していたはずの「前世」を呼び覚ます。

 ――静まり返った道場。血の匂い。

 ――「ごめん、なさい……ライト……くん……」

 

 目の前の魔族の笑い顔が、絶命の瞬間に微笑んだ少女の唇と重なる。

 (人だ……。言葉を喋る相手を、俺はまた、斬るのか……?)

 喉がヒュッと鳴り、酸素が肺に入ってこない。視界がチカチカと明滅し、握っている剣が世界の何よりも重く感じられた。

「ケケケッ、命乞いすれば助けてやるよぉ?」

 嘲笑が幻聴のように反響する。

「ライトさん……お願い、動いて……! 私……もう、もたないよぉ……っ!!」

 ステファニーさんの悲鳴。

 衝撃が響くたび、彼女の膝がガクガクと崩れ、黄金の光が彼女の意識の限界を告げるように、薄く、脆く、点滅を始める。

「ライト!! 早くしろ! ステファニーが死ぬぞ!!」

 遠くで響くシエラさんの怒号。

 だが、俺の身体は金縛りにあったように動かない。

 

 俺の視界の中で、魔族がまた笑った。

 その顔が、あの時の少女の顔に見えて――。

 

「ひ、っ……あ、ああああ……!」

 俺は剣を構えることすらできず、黄金の檻の中で自分を抱いて震えることしかできなかった。

 ステファニーさんの魔力の光が、今、最後の一際ひときわ淡い輝きを放ち、消えかけていた。

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