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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第二十九話:上級依頼の受注

 数日後。俺たちはいつものようにオルフェアのギルドに集まった。

 だが――今日は、朝から空気が重かった。

 いつもは豪快に笑っているシエラさんが、眉間に深い皺を寄せ、黙ったままカウンターで一枚の依頼書を睨んでいる。

「……ライト、ステファニー。こっちへ来い」

 シエラさんの声が、地を這うように低い。

 俺とステファニーさんは顔を見合わせ、促されるまま円卓についた。

「お前たち、ここ最近の成長は目覚ましい。……特にライト。お前の判断でステファニーの盾を活かしたあの戦い。あれで確信した。……お前たちなら、この条件付きの依頼オーダーをこなせる」

 シエラさんは、懐から取り出した依頼書を、音を立てて机に叩きつけた。

 

「推奨ランクC。辺境森林の巨大魔物フォレスト・タイラントの撃退、もしくは討伐だ。……最近、この一帯で単独行動が確認されている個体だ」

「……Cランク、上級……?」

 俺は、思わず息を呑んだ。

 これまでのDランク中級依頼とは、文字通り次元が違う。本来なら、ベテランがパーティを組んでようやく挑める、死の領域だ。

「認めはしたが、手放しで喜ぶな。お前たちの生存率は、良くて五割だ。……特にあの辺りは、濃すぎる魔素のせいで魔獣の肉体が異常活性化している。致命傷を与えても止まらない『再生』の報告もある」

「認められたのは嬉しいけど〜、お姉さん……。再生って、それ反則じゃない〜?」

 ステファニーさんが小盾バックラーの紐をぎゅっと握りしめた。シエラさんの瞳に、鋭い冷徹さが宿る。

「だからこそ、一歩間違えれば、このパーティは今日で全滅だ。……それでも行くか?」

「……行きます。……シエラさんの指示に従って、生き残ってみせます」

「よし。出発は一時間後だ。ステファニー、魔力回復薬ポーションを底を突くほど買い込め。……ライト、お前は武器の手入れだ。上級の毛皮は、生半可な研ぎでは刃が通らねえぞ」

 一時間後、俺たちは街を出て辺境森林の最深部へと向かった。

 森が深くなるにつれ、空気の密度が変わっていく。肌にまとわりつくような、濃密で歪な魔素。

「いいか、ステファニー。昨日のように何でもかんでも障壁ライブ・ガーディアンで受けようとするな。魔力が枯渇した瞬間に、俺たちは終わる」

「わかってるよ〜。……今日は、バックラーで『いなす』のがメインだよね〜」

「そうだ。緊急時、ライトがどうしても回避できない瞬間のためだけに《生護》は取っておけ。あれはもう『魔法』じゃない。俺たちの命を繋ぐ、最後の楔だと思え」

 シエラさんの言葉に、俺は背筋を正した。

 完全無欠の防御魔法《生護》。だが、それは一度使えば「一分以内に勝たなければ全滅する」という、退路を断つ博打だ。

「ライト。お前も、自分を『守られる側』だと思うな。ステファニーがいなし、隙を作ったその一瞬。……そこで一撃を叩き込めなければ、二度目のチャンスはないぞ」

「……はい!」

 やがて、森の奥深く。

 空間を歪ませるような咆哮が、大気を震わせた。

 ――ガアアアアアアアアアッ!!

 木々をなぎ倒し現れたのは、漆黒の毛皮を波立たせた巨大な熊。フォレスト・タイラントだ。

 十メートルを超える巨体が、信じられない速さで俺たちを「捕食対象」として認識し、突進してきた。シエラさんの予想すら上回る、暴力的なまでの初速。

「来るよ〜っ!」

 ステファニーさんが前に出る。

 彼女は小盾を構え、重心を極限まで低くした。

 ドォォォォォンッ!

 巨大な爪と、小さな盾が激突する。

 一歩間違えば腕ごと砕かれる衝撃。彼女はそれを「止める」のではなく、盾の縁を噛ませて自身の体を斜めに滑り込ませた。

 ステファニーの足元の地面が、その余波だけで扇状にえぐれ飛ぶ。

「くぅぅっ……、お、重いよ〜……っ!」

 勢いを殺しきれたわけじゃない。だが、わずかに角度をずらされた巨体は、ステファニーさんのすぐ横を通り過ぎ、不格好にバランスを崩す。

 

「はい、ぺちんっ〜!」

 ステファニーさんは、すれ違いざまに刺メイスを振り下ろした。

 狙いは熊の鼻先。物理的なダメージは微々たるもの。だが、急所への刺激が、巨獣の意識を一瞬だけ逸らす。

 

「ライト、今だ! 迷うな!」

 シエラさんの怒号。

 俺は、ステファニーさんが命を削って作り出したその「一秒」に飛び込んだ。

 

 魔力を剣身に流し込む。

 そのすべてを乗せて、俺は熊の喉元を横一文字に薙いだ。

 ――ガシュッ!!

 確かな手応え。

 だが、やはり上級は違った。

 喉を深く裂き、鮮血を撒き散らしながらも、タイラントは倒れない。

 それどころか、傷口から黒い蒸気を上げ、肉が盛り上がるように再生を始めた。シエラの言っていた「異常活性化」だ。

「……っ、この深手でも、即座に塞がるのか……!?」

 俺は息を呑んだ。

 喉元を断ち切っても死なない。これが、上級魔獣の「格」の断絶か。

 

(いける……ステファニーさんの『いなし』があれば、俺はまだ戦える。……いや、戦わなきゃいけないんだ!)

 まだ、彼女の魔力は温存されている。

 だが、一度でも《生護》を切れば、俺たちは一分後の「死」と向かい合うことになる。

 激闘の騒音に紛れ、この森の奥で、獣ではない「別の悪意」が静かに俺たちを値踏みしていることを、この時の俺たちはまだ知らなかった――。

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