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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第二十六話:防御特化の連携

 ――ズシン! ズシン!

 地面が悲鳴を上げている。

 視界を埋め尽くすのは、立ち上がれば十メートルを超える黒鉄の山。

 《アームド・ベア》の巨体が、暴力的な質量となって迫ってくる。

「……っ、来る!」

 俺は剣を構えたが、膝が笑って動かない。

 巨大な質量が空気を押し出し、呼吸すらままならない。

 その時。

「ライトさん、伏せて〜!」

 ステファニーさんの鋭い声。

 彼女は俺の前に飛び出すと、バックラーを天にかざした。

「《生護ライブ・ガーディアン》〜!」

 淡い金色の光が展開された直後、雷が落ちたような衝撃が走った。

 ――ドォォォォォンッ!!

 黄金の障壁と巨大な爪が衝突し、火花が散る。

 ステファニーさんは歯を食いしばり、顔を真っ赤にして叫んだ。

「ライトさん! これ、一分しか持たないの〜!」

「一分……!?」

「一分過ぎたら、私、動けなくなっちゃう〜! だから、お願い……っ!」

 彼女の細い腕が、巨獣の怪力に軋んでいる。

 一分。

 彼女が命を削って維持しているこの「無敵の時間」を、一秒たりとも無駄にはできない。

「ライト! 右足の付け根だ、行け!」

 シエラさんの号令。

 俺は障壁から飛び出し、巨獣の側面へ回り込んだ。

 だが、斬れない。

 鋼鉄のような毛皮に剣が跳ね返され、手の平に痺れが走る。

「硬すぎる……っ、刃が立たない!」

「ライトさん、今だよ〜! えいっ〜!」

 ステファニーさんが障壁を維持したまま、死力を尽くして踏み込んだ。

 バックラーで巨爪を無理やり押し上げ、右手のメイスをアームド・ベアの膝関節に叩き込む。

 ――キィィィィィンッ!

 メイスの刺が装甲を剥ぎ、一瞬だけ「肉」が露出した。

 だが、その隙間はあまりに小さく、そして動いている。

「そこなの〜! あと、三十秒〜!」

 俺はがむしゃらに剣を突き立てた。

 だが、狙いが僅かに逸れる。

 剣先は装甲にカスり、浅い傷をつけるに留まった。

「……っ、クソ!」

 焦りが視界を曇らせる。

 怒った《アームド・ベア》が、倒れ込みながら巨大な尻尾を振り回した。

 回避は間に合わない。

 だが。

 ――キィィィィィンッ!!

 背後で黄金の光が弾けた。

 逃げ場のない死角。死を覚悟したはずなのに、背中が、異様に暖かい。

 

 ステファニーさんが、俺の背中を完全に守りきっている。

 彼女が一分間の全魔力を、俺が攻撃するためだけに捧げている。

「ライト! ステファニーの限界だ! 捨て身でいけ!」

 シエラさんの声。

 彼女はアームド・ベアの顔面に接近し、短剣で片目を潰すという捨て身の援護に出た。

 魔獣が苦痛に咆哮を上げ、大きく首を下げた。

 ――今だ。

 俺は防御を完全に捨てた。

 背後から迫る爪の風圧。横から叩きつけられる衝撃。

それらすべてが、黄金の障壁に阻まれるのを感じながら、すべてをステファニーさんに預け、俺はただ、魔獣の喉元へ剣を突き出した。

「はぁぁぁぁぁっ!」

 ――グチャッ。

 喉元に突き刺さる感覚。

 だが、それは狙い澄ました一撃ではなかった。

 魔獣が悶絶して暴れ、振り回された俺の剣が、偶然にも深く肉へ沈み込んだだけだ。

「……あ、あああぁぁぁっ!」

 俺はそのまま、全体重をかけて剣を押し込んだ。

 直後、十メートルの巨体が、スローモーションのように地面に沈む。

 それと同時に、俺たちを包んでいた黄金の光が、砂のように砕け散った。

「はぁっ、はぁ……っ、ライト、さん……」

 ステファニーさんが、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。

 ちょうど一分。彼女は最後の一瞬まで、俺を守り抜いた。

「ステファニーさん!」

 俺もまた、限界だった。

 膝から崩れ落ちそうになりながら、倒れる彼女へと手を伸ばす。

 反射的に掴んだ。

 ――手首ではなく、彼女の「袖」を。

 指先が震えている。女性への恐怖か、それとも脱力か。

 けれど、袖越しに伝わる彼女の体温だけが、俺が生きていることを証明していた。

「……えへへ。間に合った、かな〜?」

「……はい。……俺が、下手だったから……」

 情けなくて、声が震える。

 完璧な一撃ではなかった。ステファニーさんとシエラさんに、泥臭く勝たせてもらっただけの勝利だ。

「……いい連携だったぞ、お前たち」

 シエラさんが、血に濡れたアームド・ベアの喉元に止めの一撃を刺し、こちらへ歩み寄ってくる。

 彼女の肩も、激しく上下していた。

「ライト。最後のは運が良かったな。だが……あの状況で防御を捨てて突っ込んだ。その一点だけは、評価してやる」

「……はい」

 俺は剣を落とし、大の字に寝転がった。

 空は、いつの間にか夕焼けに染まり始めている。

 一人では、絶対に勝てなかった。

 誰かに命を預けて戦う。

 それは、こんなにも恐ろしく――そして、暖かいものだったんだ。

「ライトさん〜……」

 隣で同じように倒れ込んでいるステファニーさんが、俺の袖を、弱々しく握り返した。

「……一緒に、勝てたね〜……」

「……はい」

 俺は、目を閉じた。

 袖を掴む彼女の手が。

 もう、以前ほど怖くはなかった。

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