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第四章: 境界の守護者と四つの異能『選ばれし者たちは、まだ互いを知らない』  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第二十三話:小さな一歩と新しい依頼

 数日後、俺たちは再びギルドにいた。

 あれから、三回ほどDランクの依頼をこなした。

 少しずつ、慣れてきた――はずだった。

「今日の依頼も、Dランクだ」

 シエラさんが、依頼書を見せた。

「標的は《ワイルド・ベア》。推奨ランクD、五体討伐」

「熊……ですか」

 俺は、小さく呟いた。

「ああ。だが、普通の熊じゃない」

 シエラさんは、真剣な顔で言った。

「体長四メートル。攻撃力が高く、防御力もそこそこある。バランス型の上級魔獣だ」

「……」

「今回も、陣形は同じだ」

 シエラさんは、続けた。

「俺は周囲の警戒。ステファニーが前、ライトが後ろ。いいな」

「はい」

「わかった〜!」

 ステファニーさんが、元気に答えた。

 そして――俺の方を見た。

「ライトさん、今日も頑張ろうね〜!」

 反射的に体は強張ったが、以前ほどではなかった。

 俺は、震える声で答えた。

「お、おはよう……ございます」

 小さな声。

 だけど――自分から、声をかけた。

 ステファニーさんが、目を輝かせた。

「わぁ〜!ライトさん、おはようって言ってくれた〜!」

 嬉しそうに、笑顔になる。

「お、おはようございます〜!」

 その笑顔を、俺は直視できなかった。

 視線を、逸らす。

 だけど――少しだけ、胸が軽くなった気がした。

「よし、行くぞ」

 シエラさんが、歩き出した。

 俺たちも、その後に続く。

 森への道を歩く。

 いつもの陣形。

 シエラさんが周囲を警戒しながら、少し離れた位置。

 ステファニーさんが俺の前。

 俺が後ろ。

「ライトさん〜」

 ステファニーさんが、振り返った。

 体が少し震えたが、すぐに落ち着く。

「昨日、お礼言ってくれて嬉しかったよ〜」

「……」

 あの時のことだ。

 依頼が終わった後、俺は震えながらも、ステファニーさんに感謝を伝えた。

 顔を見て、お礼を言った。

 それが――ステファニーさんにとって、嬉しかったらしい。

「だから今日も、もっと頑張っちゃう〜!」

 ステファニーさんが、張り切って言った。

「えへへ〜、やる気満々だよ〜!」

「あ、ありがとうございます……」

 俺は、小さく答えた。

 ステファニーさんの優しさが、少しずつ心に染みていく。

 だけど――まだ怖い。

 女性が、怖い。

 それは、変わらない。

「ステファニー」

 シエラさんが、声をかけた。

「張り切るのはいいが、前に出すぎるな。お前が倒れたら、ライトが守れなくなる」

「あ〜、そっか〜。気をつけます〜」

 ステファニーさんは、少し照れくさそうに笑った。

 森の入り口に到着した。

 木々が鬱蒼と茂り、薄暗い。

「ここからが依頼の範囲だ」

 シエラさんが、地図を確認した。

「《ワイルド・ベア》は、この辺りに生息している」

 シエラさんは、俺たちを見た。

「いいか、今回も油断するな」

「はい」

「わかった〜!」

 俺たちは、森を進んだ。

 しばらく歩くと、シエラさんが立ち止まった。

「いるぞ。《ワイルド・ベア》だ」

 俺も、立ち止まる。

 前方に、巨大な影が見えた。

 熊のような魔獣。

 だけど――普通の熊とは全く違う。

 体長は、四メートルほど。

 全身が黒い毛で覆われている。

 その目は、鋭く、獰猛だ。

 鋭い爪を持ち、こちらを睨んでいる。

「……でかい」

 俺は、思わず呟いた。

「Dランクの上級魔獣だ」

 シエラさんが、静かに言った。

「攻撃力が高い。一撃で致命傷を負う可能性もある」

 シエラさんは、俺たちを見た。

「ステファニー、前に出ろ」

「わかった〜!」

 ステファニーさんが、俺の前に立った。

 バックラーとメイスを構え、身構える。

「ライト、準備しろ」

「はい……」

 俺は、震える手で剣を抜いた。

 《ワイルド・ベア》が、こちらを見た。

 そして――ゆっくりと近づいてくる。

 速度は、《グレート・エルク》ほどではない。

 だけど――その巨体からくる威圧感は、凄まじい。

「来るよ〜!」

 ステファニーさんが、叫んだ。

 《ワイルド・ベア》が、鋭い爪を振り下ろす。

 ステファニーさんが、バックラーを構える。

「いなすの〜!」

 ステファニーさんが、体をずらす。

 だけど――爪の一撃は、予想以上に重かった。

 バックラーが、激しく軋む。

「うわっ〜!重い〜!」

 ステファニーさんの体が、少し後ろに下がる。

 だけど――すぐに体勢を立て直す。

「でも、負けないよ〜!」

 そして――メイスを振り回す。

「えいっ〜!」

 ぺちんっ、という音。

 メイスが、《ワイルド・ベア》の顎に当たる。

 衝撃で、首が横に振られる。

 《ワイルド・ベア》が、バランスを崩す。

「ライトさん、今〜!」

 ステファニーさんが、叫んだ。

 俺は、剣を振るった。

 《ワイルド・ベア》の側面に、剣が当たる。

 だけど――《ワイルド・ベア》の毛皮が厚い。

 剣が、浅くしか入らない。

 《ワイルド・ベア》が、怒ったように吠える。

「硬いな……」

 シエラさんが、呟いた。

「もう一撃だ、ライト!」

 シエラさんが、叫ぶ。

 俺は、もう一度剣を振るった。

 今度は、深く刺さる。

 《ワイルド・ベア》が、苦しそうに鳴く。

 だけど――まだ倒れない。

「もう一回〜!」

 ステファニーさんが、励ましてくれる。

 そして、またメイスを振り回す。

「どけなの〜!」

 さくっ、という音。

 今度は、メイスの刺の部分が、《ワイルド・ベア》のこめかみに刺さった。

 《ワイルド・ベア》が、大きく怯む。

 その隙に、俺は剣を振るった。

 何度も、何度も。

 やっと、《ワイルド・ベア》が倒れた。

 動かなくなった。

「やった〜!」

 ステファニーさんが、嬉しそうに声を上げた。

「ライトさん、すごい〜!」

 だけど――俺は、複雑な気持ちだった。

 またステファニーさんが、前に立った。

 またステファニーさんが、俺を守った。

 指先が、冷たくなる。

「よくやった」

 シエラさんが、俺の肩を叩いた。

「少しずつ、攻撃が鋭くなってきてるぞ」

「はい……」

 俺は、小さく答えた。

 

 二体目も、同じように倒した。

 ステファニーさんが攻撃を受け流し、体勢を崩す。

 その隙に、俺が剣を振るう。

 連携が、少しずつスムーズになってきた。

 

 三体目の《ワイルド・ベア》との戦闘で、変化があった。

 《ワイルド・ベア》の爪が、ステファニーさんのバックラーを弾き、

 その勢いで、ステファニーさんの腕を掠めた。

 血が、流れる。

「ステファニーさん!」

 俺は、叫んだ。

 体が――今度は、動いた。

 前に、一歩踏み出していた。

 女性が、傷ついている。

 助けなければ。

 だけど――その一歩で、足が止まる。

 震えが、体を支配する。

 喉の奥が、張り付くように乾く。

「大丈夫だよ〜!」

 ステファニーさんが、笑顔で言った。

 だけど――一瞬だけ、痛そうに顔を歪めた。

 守るのは、簡単じゃない。

 血が、腕を伝う。

「《活泉:ライフ・ストリーム》!」

 淡い光が、ステファニーさんの体を包んだ。

 腕の傷が、瞬時に治癒する。

「ほら〜、もう治った〜!」

 ステファニーさんは、明るく言った。

 だけど――俺の心は、重かった。

 また、一歩しか踏み出せなかった。

 それでも――前回よりは、動けた。

「ライト、集中しろ!」

 シエラさんの声が、俺を現実に引き戻した。

「お前は攻撃に集中しろ!」

「は、はい……!」

 俺は、必死に剣を構えた。

 ステファニーさんが、またメイスを振り回す。

「えいっ〜!」

 ぺちんっ、という音。

 メイスが《ワイルド・ベア》の肩関節に当たる。

 《ワイルド・ベア》が、体勢を崩す。

 その隙に、俺は剣を振るった。

 《ワイルド・ベア》の背中に、深く刺さる。

 《ワイルド・ベア》が、大きく鳴く。

 そして――倒れた。

 動かなくなった。

「ふぅ〜……」

 ステファニーさんが、息を吐いた。

 少し疲れているようだった。

 三体目を倒した後、俺たちは休憩することにした。

 シエラさんが、水筒を取り出す。

 ステファニーさんも、荷物から何かを取り出している。

 俺は、少し離れた場所に座った。

「ライトさん〜」

 ステファニーさんが、俺の方に来た。

 水筒を差し出してくる。

 体が少し震えたが、受け取ることができた。

「あ、ありがとう……ございます」

 俺は、震える手で水筒を受け取った。

 そして――ステファニーさんの顔を、一瞬だけ見た。

 すぐに視線を逸らしたが、それでも――見ることができた。

「えへへ〜、どういたしまして〜!」

 ステファニーさんが、嬉しそうに笑った。

 その笑顔が、少しだけ心に温かく感じた。

「ステファニー」

 シエラさんが、声をかけた。

「お前、怪我は大丈夫か?」

「大丈夫です〜。全部治しましたから〜」

「そうか。だが、さっきの攻撃は避けきれなかったな」

「うん〜……ちょっと張り切りすぎちゃったかも〜」

 ステファニーさんは、少し照れくさそうに笑った。

「お姉さんが言ってたこと、忘れてた〜。『守ることに集中しろ』って」

「ああ。お前が倒れたら、ライトが守れなくなる」

 シエラさんは、続けた。

「張り切るのはいいが、無理はするな」

「わかった〜」

 ステファニーさんは、素直に頷いた。

 シエラさんが、ふと呟いた。

「……ステファニー、お前のメイス」

「え〜?」

「当たってるんじゃない。崩してるだけだ」

「崩してる……?」

 ステファニーさんが、不思議そうな顔をした。

「ああ。顎、こめかみ、関節……お前は無意識に、相手のバランスを崩す場所を狙ってる」

 シエラさんは、続けた。

「守りに特化した動きが、結果的に相手の体勢を崩してる」

「そうなの〜?自分じゃわかんないや〜」

 ステファニーさんは、首を傾げた。

「それが、お前の戦い方だ」

 シエラさんは、優しく言った。

「無理に攻撃しようとするな。お前は守ることに集中しろ」

「わかった〜」

「ライト」

 シエラさんが、俺の隣に座った。

「お前、さっき一歩踏み出したな」

「……はい」

 俺は、小さく答えた。

「それでいい」

 シエラさんは、優しく言った。

「一歩ずつでいい。焦る必要はない」

「でも……もっと動けるべきでした」

「いや、十分だ」

 シエラさんは、続けた。

「前は、動けなかった。だが今日は、一歩踏み出せた」

「……」

「それは、進歩だ」

 シエラさんの言葉が、少しだけ心を軽くした。

 休憩を終えて、俺たちは再び森を進んだ。

 依頼の目標は、《ワイルド・ベア》を五体倒すこと。

 まだ、二体残っている。

「次も、同じ陣形で行くぞ」

 シエラさんが、言った。

「ステファニーは前、ライトは後ろだ」

「わかった〜!今度は張り切りすぎないようにする〜」

「はい……」

 俺は、小さく答えた。

 

 四体目、五体目も、同じように倒した。

 ステファニーさんは、前回の失敗を活かして、無理をしなくなった。

 確実に攻撃を受け流し、隙を見てメイスを振るう。

 そして、俺が攻撃する。

 この連携が、少しずつスムーズになってきた。

 

 五体目の《ワイルド・ベア》を倒した時、ステファニーさんが息を切らせていた。

「ふぅ〜……今日も、頑張った〜」

「大丈夫か?」

 シエラさんが、心配そうに尋ねた。

「大丈夫です〜。でも、やっぱり魔力は結構使いました〜」

 ステファニーさんは、笑顔で答えた。

 だけど、その笑顔は明らかに疲れていた。

「《生護》は使わなかったが、《活泉》を何度も使ったからな」

「そうですね〜。でも、ライトさんを守れてよかった〜」

 ステファニーさんは、明るく言った。

 その言葉が、また俺の胸に響いた。

 その日、俺たちは五体の《ワイルド・ベア》を倒した。

 依頼は、完了した。

 森を出て、街へと戻る道。

 俺は、ステファニーさんとの距離を――少しだけ、縮めていた。

 完全に並んで歩くことはできない。

 だけど、以前よりは近い距離を保てるようになっていた。

「ライトさん〜」

 ステファニーさんが、話しかけてきた。

 反射的に体は強張ったが、以前ほどではなかった。

「は、はい……」

「今日、一歩踏み出してくれてありがとう〜」

「え……?」

「私が怪我した時、ライトさん、一歩前に出てくれたでしょ〜?」

 ステファニーさんは、優しく笑った。

「それ、すごく嬉しかった〜」

「……」

「少しずつでいいから〜。私、待ってるからね〜」

 その言葉が、心に染みた。

 ステファニーさんは、俺のペースを理解してくれている。

 急かさない。

 ただ、待っていてくれる。

 その優しさに、俺は何も返せていない。

 だけど――少しずつ、変わっていきたいと思った。

「あ、ありがとう……ございます」

 俺は、小さく答えた。

 そして――また一瞬だけ、ステファニーさんの顔を見た。

 すぐに視線を逸らしたが、それでも――見ることができた。

 ステファニーさんが、嬉しそうに笑った。

「えへへ〜、どういたしまして〜!」

 その笑顔が――少しだけ、怖くなくなった気がした。

 シエラさんは、そんな俺たちの様子を見て、小さく笑った。

 何も言わなかったが、その目には、優しさが宿っていた。

 俺は――まだ、女性が怖い。

 それは、変わらない。

 だけど――今日、一歩踏み出せた。

 ステファニーさんの顔を、少しだけ見ることができた。

 それは――小さな、とても小さな進歩だった。

 だけど、確かに進歩していた。

 俺は、ただ前を向いて歩き続けた。

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