第十四話:シエラの評価
ギルドに戻った俺たちは、受付カウンターへと向かった。
「あ、シエラさん!お帰りなさい!」
リサさんが、変わらぬ笑顔で迎えてくれた。
「依頼は完了したか?」
「ああ、無事に完了した」
シエラさんが、依頼書を差し出した。
「スモール・ボア、十頭討伐。確認してくれ」
「はい、確認しますね……スモール・ボア十頭討伐、確かに完了ですね」
リサさんは満足そうに頷いた。
「それでは、報酬をお渡しします。銀貨五枚です。お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう」
シエラさんが銀貨を受け取った。
「ライトさんも、お疲れ様でした」
リサさんが、俺の方を見て笑顔を向けてくれた。
「初めての依頼、成功おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
俺は、できるだけ平静を保ちながら答えた。女性と話すのは、まだ緊張するが、街に入った時よりは少しマシになった気がした。
「さて、ライト。今日はこれで終わりだ」
シエラさんが、俺の肩を叩いた。
「宿に戻って、休もう」
「はい」
俺たちは、ギルドを出た。外はもう夕方になっており、街の賑やかさも落ち着いてきている。
「今日は、よく頑張ったな」
シエラさんが、歩きながら言った。
「はい……」
「初めての実戦で、七頭も自分で倒せた。俺が止めを刺さずに済んだ。上出来だ」
「ありがとうございます」
俺は、シエラさんの言葉に嬉しくなった。
「だが、まだまだ課題はある」
シエラさんは、真剣な目で俺を見た。
「とりあえず、魔獣相手には剣が振れるようになった。それが重要だ」
「はい……」
「お前のトラウマは、『人を傷つけること』への恐怖だ。だが、魔獣は人じゃない。だから、お前は躊躇なく剣を振れる」
「そうですね……今日、自分でも驚きました」
「それが、お前のトラウマ克服の第一歩だ」
シエラさんは、優しく笑った。
「焦る必要はねえ。一歩ずつ、前に進んでいけばいい」
「はい」
俺は、力強く頷いた。
「ただ、問題はここからだ」
シエラさんは、立ち止まった。
「問題……ですか?」
「ああ。今日倒したスモール・ボアは、体高一メートルほどの小型魔獣だ」
「……」
「だが、これから先、人間大の魔物と戦う機会も増える。ゴブリン、オーク、そういった魔物だ」
「人間大の……」
「その時、お前は本気で剣を振れるか?」
「それは……」
俺は、言葉に詰まった。人間大の魔物となると、体が人間に近くなる分、過去の記憶が蘇って体が動かなくなるかもしれない。
「わからねえ……か?」
「……はい」
「正直でいい」
シエラさんは、俺の肩を叩いた。
「無理に自信を持つ必要はねえ。わからないなら、わからないと言えばいい。だが、心配するな」
「はい……」
「お前には、まだ時間がある。これから、どんどん慣れていけばいい。だから次回は、今回とは違う魔物の討伐にする。魔獣じゃなく人型魔物だ」
シエラさんは、説明を始めた。
「お前がダメなら俺がやっつけてやる。そんな心配しなくてもいい。お前が危なくなったら、俺が守る。それが俺の役目だ」
シエラさんは、自信に満ちた表情で言った。
「……わかりました」
俺は、心から感謝した。
「さて、宿に着いたな」
シエラさんが、ある建物の前で立ち止まった。
「ここが、今日泊まる宿だ」
「はい」
俺たちは、宿に入った。
「二部屋、お願いしたい」
シエラさんが、宿の主人に声をかけた。
「はい、かしこまりました」
宿の主人が、鍵を二つ渡してくれた。
「二階の、201号室と202号室です」
「ありがとう」
「ライト、お前は201号室だ」
「はい」
俺は鍵を受け取り、二階に上がった。
「とりあえず、荷物を置いて休め。夕食は、一時間後に一階の食堂で食べるぞ」
「わかりました」
俺はベッドに座った。体は疲れていたが、心は充実していた。初めての実戦。魔物を倒すことができた。魔獣相手なら、振れる…その事実が、俺にとって大きな自信になった。俺はポケットから「銀貨五枚」を取り出した。街の灯りに照らされて、鈍く光る銀色の粒。
(……これが、俺がこの世界で初めて稼いだお金だ)
前世でのバイト代とは、手触りも、重みも、全く違う。自分の命を懸け、泥にまみれ、魔獣の牙を抜いて手にした対価。この五枚の銀貨には、俺の「生きている証」が刻まれているような気がした。
一時間後、食堂に降りると、シエラさんはすでに席についていた。驚いたことに、彼女の目の前にはすでに空のジョッキが一つ置かれ、二杯目のエールが運ばれてきたところだった。
「おう、来たか! ほら、座れ。ここの肉煮込みは絶品らしいぞ」
運ばれてきた料理を前に、シエラさんは豪快にジョッキを煽った。
「ぷはぁーっ! やっぱり戦った後の酒は格別だな! 五臓六腑に染み渡るぜ」
幸せそうに喉を鳴らす彼女を見て、俺は思わず苦笑いした。
「シエラさん、まだ食事も始まったばかりなのに……飲みすぎですよ」
「バカ言え、これが俺のエネルギー源なんだよ。お前も飲むか? 」
食事をしながら、シエラさんは真面目な顔に戻って今日の戦いを振り返った。
「ライト。今日の戦いで良かったのは、お前の光魔法の使い所だ。最後の一頭、突進に合わせて光を一瞬強めたろ? あれで猪の目を眩ませて、懐に入りやすくした。教えた以上の応用だ、センスあるぞ」
「えっ……見ててくれたんですか」
「当たり前だろ。お前の『壁』なんだからな」
シエラさんは三杯目のエールを注文しながら、少し声を落とした。
「さて、明日からも訓練を続けるぞ。次は、もう少し大きな、そして人型に近い魔物と戦う」
「わかりました」
「焦るな。お前のペースで、前に進んでいけばいい。俺が必ず、お前を守り抜く」
俺は、力強く頷いた。シエラさんと共に、俺は確実に成長している。そう信じて、俺は部屋へと戻った。
ベッドに横になり、目を閉じる。魔物を倒したこと。剣が振れたこと。シエラさんの励まし。全てが、俺を成長させてくれている。明日も、頑張ろう。そう心に誓って、俺は深い眠りに落ちていった。




